「このままだと終わる」国産牛乳・牛肉の危機 愛知では廃業相次ぐ…15年で半減【大石邦彦アンカーマンが聞いた苦悩】

愛知県新城市の大東牧場では、1日4トンの牛乳を出荷していますが、着いてすぐ“ある場面”に立ち会うことに。

(大東牧場 森 富士樹さん)「分娩がありそうなので」
(大石アンカーマン)「え、ほんとに? 分娩?」
(大東牧場 森 富士樹さん)「ちょうど今から」

仔牛の誕生です。
母牛はお馴染みの柄の乳牛、ホルスタインですが、生まれたのは真っ黒な黒毛和牛。品種が違うのです。

(大東牧場 森 富士樹さん)
「ホルスタインから、受精卵移植をした純粋な和牛(が生まれる)。代理出産です」

ミルクを取るため、乳牛には定期的に子供を産ませますが、その際、黒毛和牛同士の受精卵を移植して、生まれた子どもは食肉用として高く販売する。

酪農業では昔から行われていますが、今新しい取り組みが始まっています。

新しい取り組みで交配の成功率が20%も上昇

(大東牧場 森 富士樹さん)
「いまここの管内で取り組んでいるんですが、近くの和牛農家さんで卵を採卵して、その受精卵をそのまま生の状態で持ってきて、親牛につけるという取り組みでできた子」

以前は凍結させた受精卵を移植していましたが、この地域では、受精卵を作ったその日のうちに移植。こうすることで成功率が20%も跳ね上がるのです。

(大石アンカーマン)
「もうちょいだ、立つ、立つ!立った!偉いな、偉いな…」

生まれておよそ30分で立ち上がった子牛。このあと、肥育農家に引き取られ、愛知のブランド牛鳳来牛として育てられます。

凍結させない受精卵を使うこの方法は、去年8月からJAの仲介で、近隣の畜産業者が連携して始まった新たな取り組み。
背景には、畜産業のかつてない危機的状況があります。

畜産業の危機的状況 子牛価格は最大半値に

(大東牧場 森 富士樹さん)
「良かったときは(1頭当たり)20万~30万円だった時もありますが、今は子牛価格が下がっているので15万円くらい」

(大石アンカーマン)「いい時に比べて最大半分くらいまで安くなっている?」
(大東牧場 森 富士樹さん)「なってますね」

(大東牧場 森 富士樹さん)「主は牛乳だが(子牛の販売でも収入を増やさないといけないので、やはりすごく痛い打撃」

せっかく生まれた黒毛和牛の価格が下がり続けているのです。最大の原因がエサ代の高騰。

(大石アンカーマン)
「いるいる!みんな顔を出して今、餌を食べてますよ」

140頭の乳牛を飼育しているここでは、1日7トンもの牧草が必要です。

(大東牧場 森 富士樹さん)「うちは全部海外産(の牧草)」

(大石アンカーマン)「今円安で飼料代が高くなっているが経営は?」
(大東牧場 森 富士樹さん)「とても厳しい。(飼料代は)昔は売り上げの4~5割だったが今は7~8割」

倉庫に積み上がった牧草。この量でも、2か月しか持ちませんが…

輸入飼料価格は倍以上に 「続けば愛知県の酪農は終わってしまう」

(大東牧場 森 富士樹さん)
「過去で一番高い。去年がピークではあったが、いまだに持続している」

牧草はほとんど輸入に頼っていますが、3年前1トン当たり2万円台だった価格は今では5万円台後半と、倍以上に高くなりました。

(大東牧場 森 富士樹さん)
「もう1年続けば愛知県の酪農は終わってしまうのではないですかね。半年でもきついかもしれない。ギリギリだと思います」

食肉用の牛を育てる畜産農家もエサ代が高すぎて、子牛を高値で買い入れる体力がないのです。
牛乳の売れ行きは伸びず、肉も安い輸入品と競争するために値上げしにくい中、コストだけが上がり続ける現状。
愛知県の牛を扱う畜産農家は廃業が相次いでいて、この15年間でほぼ半分に減っています。

出てくるのは国の政策への苦言です。

(大東牧場 森 富士樹さん)
「(牛乳を)『絞れ、絞れ』となった後に『絞るな、絞るな』。今は絞るな状態。その繰り返しで。生き物なので簡単に止めたり出したりできるものじゃない」

以前バターが足りなくなったときには、産めよ増やせよの大号令。牛乳が余り始めると、今度は乳牛の殺処分を勧めるなど、国の政策に一貫性がないという印象が。

国に求めるものは…「皆さんがたくさん飲んでくれる政策が大事」

(大石アンカーマン)
「国にはどんなことを求めますか」

(大東牧場 森 富士樹さん)
「補助していただくのはありがたいが、基本的に酪農家として乳を搾ってなんぼだと思っているので、乳価に還元できるような政策や、皆さんがたくさん飲んでくれる政策が大事だと思う」

(大東牧場 森 富士樹さん)
「こちらは母親がやっている」

(大石アンカーマン)
「牧場内でお店を開いているんですね」

少しでも牛乳のおいしさを知ってもらおうと、牧場内でジェラートも販売しています。

(大石アンカーマン)
「美味い、めちゃめちゃ美味い!この美味しさを引き立てているのはやっぱりこのミルクですよ」

(大東牧場 森 京子さん)
「孫で4代目」
(大石アンカーマン)
「お孫さんも跡継ぎで?」
(大東牧場 森 京子さん)
「跡を継ぐための勉強はしています」

(大石アンカーマン)
「せっかく継いでくれると言っているわけだから…」
(大東牧場 森 京子さん)
「なんとか持ちこたえようと思って」

「将来(国産の乳製品を)食べられなくなる、飲めなくなる危険性も」

【愛知県新城市のお店】
これが地元のブランド黒毛和牛“鳳来牛”。
地元に4軒しかない認定農家と大東牧場など地域の酪農家とのコラボで守られている品種です。

(大石アンカーマン)
「箸で持っても重みを感じますもんね」
「美味しい。見ためのサシが裏切らない」

そして…

(大石アンカーマン)
「大東牧場さんの牛乳!」
「濃厚だ、美味しい」

(JA愛知東 海野 文貴 組合長)
「問題はいったん農家が辞めたらほとんど再生されることはない。
減ったら減り続ける。将来私たちの子どもたちが(国産の乳製品を)食べられなくなる、飲めなくなる危険性もはらんでいる。皆さんにぜひどんどん食べていただいて、農家を支えていただきたいと思っている」

畜産業だけでなく農業・漁業・林業など日本の一次産業をどう守っていくかは国の死活問題です。

2023年11月9日放送 CBCテレビ「チャント!」より

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