排尿時にしみる、膀胱炎になりやすくなったなど、デリケートゾーンの悩みは、更年期を機に増加してくるという。
「もしかすると、GSM(閉経関連泌尿生殖器症候群)かもしれません。閉経のころから現れる外陰部や膣、尿路などのデリケートゾーン全般のトラブルを指します。デリケートゾーンは排尿などで日々消耗していく臓器ですから、GSMは40歳以上の女性なら誰にでも起こりうる病気なんです」
そう話すのは、日本泌尿器科専門医で二宮レディースクリニック院長の二宮典子先生だ。
聞きなれないGSMとは、これまで萎縮性膣炎や老人性膣炎と呼ばれた症状が、より広い症状を含めた新たな病名として’14年の国際女性性機能学会で提唱されたもの。
日本では、40代から70代の女性のうち、10人に1人にあたる11.6%が悩んでいるという。とくに40代がトップで、閉経前から悩みを抱える人が多い傾向にある(’21年、小林製薬発表)。
二宮先生によれば、海外の文献を含めると、50歳以上の女性の2人に1人が何らかのトラブルを抱えており、閉経後3~4年で表面化するケースが多いという。
「主な症状としては3つあります。1つ目は排尿症状で、膀胱炎や排尿時の痛み、尿漏れなど。2つ目は膣症状で、膣の乾燥による違和感やおりものの減少、臭い。3つ目が性機能症状で、性交痛などがあります」(二宮先生・以下同)
まずは、次のチェックリストで症状を確認してみよう。
【GSM症状チェックリスト】
□ 膀胱炎を繰り返す
□ トイレが近い
□ 尿漏れがある
□ 排尿時の痛みがある
□ 下着が擦れて膣まわりが痛い
□ おりものの臭いが気になる
□ 性交痛がある
□ 性交渉のあとに出血がある
なぜ、このような症状が出てしまうのだろうか。
「閉経に向けて、女性ホルモンが不安定になり、分泌されなくなるためです。実はデリケートゾーンも女性ホルモンの影響を受けているため、膣の粘膜は潤いがなくなり、皮膚が薄くなります。乾燥しやすくなることで痛みが出るだけでなく、炎症が起きやすく、雑菌も繁殖しやすくなるのです」
■お風呂でせっけんで丁寧に洗う……よかれとしている勝手な思い込みによる対処が悪化原因
GSMは進行性のため、「年だから仕方がない」とほっておくと、症状を悪化させてしまう恐れも。
「すでに症状がある方は、間違ったセルフケアをしているケースも少なくありません。“デリケートゾーンが汚れているから症状が出る”と思い込み、清潔にすれば症状が回復すると考えている女性は非常に多く、洗いすぎで慢性化している人がほとんどです」
そこで、GSMを改善するために注意すべきことを二宮先生に挙げてもらった。
【1】せっけんを使わず軽く洗い流すだけ
「せっけんでゴシゴシと洗うのをやめましょう。皮膚のバリア機能まで取り除いてしまい、乾燥の原因になったり、細かい傷ができて雑菌が増え、膀胱炎や臭いのもとになります。ぬるま湯で流すだけで、汚れや雑菌は十分に落ちます」
シャワーで洗い流すときは、お湯が膣内に入らないようにしよう。膣内に水がたまり、不衛生な状態になる恐れがあるという。
「陰部の皮膚と粘膜部分のミゾには粘膜の反応で、こすると白いカスがポロポロ出ます。汚れと勘違いして、ツルツルになるまで取り除き、炎症を起こしている人も。粘膜部分は潤っているのが正常なのに、湿り気を取ろうと内側まで洗ったり、ドライヤーで乾かしたりする人はやりすぎです」
【2】洗浄機付きトイレは厳禁
当たり前のように使っている温水洗浄便座も、GSMになる一因だとか。
「【1】と同じ理由で、必要なバリアを壊してしまいます」
温水洗浄便座などの水圧による洗浄は、大便後でも必要なし。10秒以上の使用、強い水圧、腸内洗浄や膣洗浄のための使用は厳禁。
【3】排尿後は「くるくる3回、くしゃくしゃ、ポンポン」
トイレ後は、トイレットペーパーを3周分ほど手に取り、くしゃくしゃと軽く丸めたら、こすったり、べったり当てたりせず、軽く押さえるようにポンポンと拭き取るだけで十分。
「それでも排尿後が気になるという方は、ある程度おしっこをためてからトイレに行くのをおすすめします。200cc以上しっかりためてから1回で出し切ると、膣まわりが汚れにくくなります」
【4】ワセリンを指の第2関節まで取り、べったり塗る
おりものが少ない人や、乾燥が気になるという人は、お風呂のあとにワセリンで保湿の徹底を。ワセリンを手指の第2関節までたっぷり取り、指先をこすりあわせてのばし、大陰唇全体をカバーするように十分に塗る。
「ポイントは、量をケチらず、たっぷり塗ること。粘膜まわりに塗るので、ボディクリームやアルコールを含む化粧水は避けたほうが無難です」
【5】パンツを履かずに寝る
ワセリンを塗ったあとはパンツをはかず、ゆったりとした寝間着を着て寝る。おなかの冷えが気になるなら腹巻きの着用を。
「肌に触れるものがなくなるので、膣まわりの負担が軽くなります。ノーパンで通気性がよくなると、臭いが解消され、痛みやかゆみが減少します。スースー感が気になるのは最初だけ。すぐ慣れますよ」
【6】綿やシルクの下着を選び、おりものシートは使わない
GSMに摩擦は大敵。パンツは肌ざわりを重視し、綿やポリエステルと綿の混紡素材、シルクなど通気性のよい素材を選ぶ。おりものシートや尿漏れパッドは使わない。
「昼間下着をつけるときは、肌ざわりがよく、通気性のよいものを選びましょう。摩擦が発生し、ムレてしまうおりものシートを使うのは厳禁です」
“ちょい漏れ”が気になって、手放せない場合はどうすれば?
「それなら、尿漏れを治すことが先決。おりものシートや尿漏れパッドを使っている人ほど尿を止めようとする意識が弱く、緊張感が失われて、止められない状態を作り出している可能性があります」
尿漏れは、膀胱の筋肉の練習で改善できるという。
「朝イチの排尿時に、途中でキュッと排尿を止めます。そのときに使う筋肉を覚えておきましょう。漏れそう! と感じたら、“止めるんだ”と強い意志でその筋肉に力を入れて」
症状が長引いている人は、早めに婦人科や女性専門の泌尿器科を受診することも大切だ。
「とくにGSMのなかでも性機能症状は、専門家に相談したほうが改善は早いかもしれません。女性用の潤滑剤で痛みや摩擦は軽減できますが、粘膜の薄さは改善しません。それより、セルフプレジャーで膣内の血流を増やすほうが症状は軽くなります」
生活習慣を変えることで症状の改善や予防になる。今日から、新常識に改めて!