ラグビー日本代表“控え組”の本音。「柱メンバー」の献身は矜持の発露…「選手層が課題」との総括に何を思う

ラグビーワールドカップ2大会連続の予選プール突破は果たせなかった日本代表。思うような結果を出せなかった大きな敗因の一つとして関係者が口をそろえるのが「選手層問題」だ。では、当のワールドカップで試合に出られなかった選手たちはその敗因についてどのように感じているのか。

(文=向風見也、写真=長尾亜紀/アフロ)

イングランド代表戦での爪痕支えた「柱メンバー」

今秋のラグビーワールドカップ・フランス大会に出た日本代表は、試合に出ない控え組を「柱メンバー」と名付けていた。

どんな建物にも柱は欠かせない、という意味だ。

大会まで約7年間も続いたジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ体制下、昨年までに生まれた呼称だ。ジョセフ体制のチームは、試合に出るラインアップを早々に固める。

土日に試合がある場合、その週の頭にはスターティングメンバーとリザーブを含めた計23人の隊列を定める。それ以外の選手は「柱メンバー」に回り、対戦相手を分析して練習時にその模倣をする。実戦に臨む23人が実戦仕様のシミュレーションを通し、コンビネーションを深められるのが利点だ。

「押せるという、自信があった」

こう語るのは堀越康介。スクラム最前列のフッカーとして、長らく日本代表に選ばれている28歳だ。フランス大会で初めてワールドカップのスコッドに入り、4大会連続出場の堀江翔太、昨年主将を務めた坂手淳史と定位置を争い「柱メンバー」に回っていた。

このほど話題に挙げたのは、イングランド代表との予選プール第2戦だ。12―34と惜敗も、スクラムで爪痕を残した試合だ。

イングランド代表とは昨秋にも敵地で対戦していて、その際は立ち上がりのスクラムで圧を受けていた。フランスで状況を一変させた裏には、長谷川慎アシスタントコーチの分析とマイナーチェンジに加え、柱メンバーの献身があった。

長谷川が「(スターターの)8人だけじゃ練習できない」と「柱メンバー」の努力を讃えるなか、その一員だった堀越も、「押せるという、自信」の根拠を語る。

「(当日までの)1週間で、メンバーとノンメンバー(柱メンバー)が本当にコミュニケーションを取ってきた。もっとこうしたほうがいいというフィードバックをしてきた。それが、イングランド代表戦に、出たのかなと」

日本代表は、2019年もこの流れで動いてきた。

初の8強入りをかなえた日本大会で、フランス大会時で言う「柱メンバー」を全うした一人は德永祥尭だ。主将だったリーチ マイケルと同じフランカーの位置で出場機会を得られぬなか、試合時の給水係を任されるほどチーム内での信頼を集めていた。

日本大会に期間中に思いを聞かれ、主力だった堀江や稲垣啓太の名を出して言った。

「気を遣わせるような感じになって本当に申し訳ないんですけど、稲垣さん、堀江さんがお茶や外食に連れて行ってくれて、僕たち(控え組)のメンタルをリフレッシュしてくれようとしています。2人に愚痴を言ったり、逆に『お前、頑張っているよ』と言ってもらったり。試合に出ているメンバーにサポートしてもらっている感じです」

「負けず嫌いだから」「チームのためにやる」

ジョセフ率いる日本代表で身体づくりを担った太田千尋アシスタントS&Cコーチは、試合に出る人、出ない人の織りなす無形のグルーブについてこう述べた。

「1週間のゲームに向かう(コーチ陣の)選手への落とし込みと、選手がそれ受け入れてアウトプットするプロセス(の質)は凄いと思っています。選手が自分たちで考えて行動するレベルは、日本大会以降に一段階、上がっている」

一方、この仕組みは試練も生む。「柱メンバー」となる選手のモチベーション管理だ。

オフ明け初日に首脳陣からメンバー外だと告げられた「柱メンバー」は、その後のトレーニングでどれだけいいプレーをしても目の前の試合には出られない。アピールが奏功して出場機会を得られるのは、原則としてその翌週以降だ。

「柱メンバー」の役目をこなすのが難しいと感じ、代表選出へ消極的になった選手もゼロではない。堀江はその構造を看破するからこそ、徳永のような選手の「リフレッシュ」を助けていたとも取れる。

ジョセフ体制の日本代表では、「柱メンバー」に回っても心を乱さないだけの職業倫理、およびメンタリティーが求められる。技術や体力を問う以前に、求められる人物像が、厳然としてある。

横浜キヤノンイーグルス所属の小倉順平は、堀越とともにフランス大会の全試合を「柱メンバー」として過ごした一人。桐蔭学園高校では3年時に主将を務め、全国高校ラグビー大会で東福岡高校と同時優勝を果たした現在31歳のスタンドオフだ。

今年、2017年以来の代表復帰を果たしたうえで、難しい立場で腐らずにいた。

その心を聞かれるや、「仕事です」と即答した。

ひとたび「柱メンバー」となれば、全力で「柱メンバー」としての「仕事」を受注し、納品するのがプロの選手だと言いたげである。ジョセフのセレクションポリシーを想像してか、こうも続けた。

「チームのためにやるのが(仕事)。そういう(考えの)人たちが集められているので。わかんないですよ、周りの本音がどうだったかは。……ただ、やるべきことを、やるだけなんで」

タフな「柱メンバー」をやり切った理由について、堀越は「負けず嫌いだから」だと自己分析した。

思い通りにいかないなかで他人を責めたくなるような自分の心に「負け」るのも、絶対に、「嫌」だった。

「あとは、やるしかない状況だったから。やるなら、とことんやる。やらないという選択肢はなかった。100パーセント、このチームのために、自分のためにしっかりやろうという気持ちはありました。出場回数が少ないなかで代表に呼ばれてきた。じゃあ、自分が存在感を出すのはどこか。ラグビーだけをやっていてはダメで、オフ・ザ・フィールドでも貢献できることを一つずつ考えながら淡々とやってきた、という感じです。積極的に皆とご飯に行きましたし、メンバーだけのミーティングにも自分だけ、もしくは皆(他の「柱メンバー」)を誘って参加しました。メンバーとそれ以外のギャップをなくすようにしました」

「そりゃ、めちゃめちゃ思いますよ。でも、自分にベクトルを」

ラグビーワールドカップ・フランス大会の予選プール敗退を受け、日本代表の関係者は「選手層に課題がある」と総括した。

日本大会と比べ大会登録メンバーが31人から33人に拡大したなか、大会中に試合に出られなかった選手の数は当時と同じ5人だった。決勝トーナメントに進むチームが予選プールで多くの選手を入れ替えていたなか、日本代表は事前の強化試合から固定メンバーで戦うことが多かった。

ゲームの強度が増す国際舞台では、こうも出ずっぱりの選手が多くては疲弊しても仕方がないのではないか、との論法が通る。

このような状況を招いたのは、新型コロナウイルスの感染が広がった2020年に他の強豪国と比べ実戦経験が積めなかったうえ、代表予備軍を鍛える機会が十分に確保できなかったためだ。今後は強化の仕組みを変え、次の指揮官に多くの選択肢を与えるのが急務ではないか。……そのようにも言われている。

理論そのものは納得感を帯びる。ただ、ずっと「柱メンバー」だった当事者は、この総括をどのように受け止めるのだろうか。

堀越はひとまず、「その通りだと思います」と頷いた。

「僕が出られなかったのは僕の実力。真摯に受け止め、努力していくべきだなと」

話をしたのは11月14日。所属する東京サントリーサンゴリアスの取材機会でのことだ。紳士的な答えに対し、一人の記者がさらに問う。

―――メンバーの固定化による弊害を嘆くなら、自分を試合に出してくれてもよかったのに……。そう思うことはありませんでしたか?

「そりゃ、めちゃめちゃ思いますよ。じゃあ、使ってよと。でも、そんなことを言ってもしょうがない。自分にベクトルを向けていました」

小倉と同じ桐蔭学園高校を経て入った帝京大学では、2017年度主将として大学選手権9連覇を達成。キャリアと実力は折り紙付きとあり、今度の立場に「じゃあ、使ってよ」と燃えるのは自然な流れだった。

「(今後は)すべてのレベルを上げる必要があります。出られない理由は、(国際舞台での)経験値と言われていました。練習、(国内の)試合のパフォーマンスがもっとよければ、(より高いレベルでの)経験を積めるような道のりをつくれるのかな、と思います」

称えられるべきは、その感情に嘘をつかず、かつ、置かれた立場を全うしたことだ。その功績は、ワールドカップの結果とも、選手層という課題とも切り分けて正しく評価されるべきものだ。

控え組の献身は単なる「美談」ではなく、「矜持の発露」だった。

<了>

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