KANさん、逝く 命を奪ったメッケル憩室がんとは

 今年3月に「メッケル憩室がん」を罹患したことを公表し、療養中だったシンガー・ソングライターのKANさんが、今月12日に亡くなっていたことが分かった。所属事務所がホームページで公表した。享年61歳。「メッケル憩室がん」とはどのような疾患なのかを解説する。

「メッケル憩室」とは

 憩室とは,管状の臓器(腸、血管、尿管)または袋状の臓器(膀胱,胆のうなど)の壁の一部が、焼もちが膨れるように外へとび出た袋状の突起物を指す。小腸にできた憩室については、最初に記録を残したドイツの解剖学者の名前をとって「メッケル憩室」と呼ぶ。
 メッケル憩室の場合、胎児のときに一時的にでき、通常は消滅する卵黄管という組織が消えずに残ったときにできるといわれている。この憩室が生まれつきみられる人は人口の0・6%から2%程度で男性に多く、ほとんどの人は無症状。KANさんの場合、ここに不幸にもがんが発生したということになる。ほとんどがん症例が報告されない小腸の、さらにまれにできるメッケル憩室にがんが発見される確率は、おおよそ2万人に1人だ。

非常にレアケースで発見が遅れることも

 メッケル憩室がんはこのように非常にまれながんであり症例も少なく、発見が遅れることも多いという。KANさん自身、自身のホームページで「昨年秋に発症した腹痛が数週間継続したので病院に行き、検査を繰り返すうちにだんだん深刻な雰囲気になり、大きな病院に移って、更に多様な検査の後、組織摘出手術を行い、病理検査の結果、『メッケル憩室がん』と診断されました」と書いており、がんの発生部位を特定するまでに多くの検査を必要としたことが分かる。

 小腸自体も含めこの部位のがんは、発生しても基本的には無症状で進行してゆく。症状としては継続的な腹痛、出血(下血)、吐き気などがあるが、症状を自覚した段階で相当の段階進行していることが多く、この場合非常に厳しい闘病生活を覚悟しなければならないケースになる。逆に、早期発見の場合5年生存率は約70%となっている。

早期発見のためには

 メッケル憩室は小腸にできるので、検査で発見するには小腸に対応する内視鏡での検査が必要になる。小腸は胃に近い部位である「十二指腸」、大腸に近い部位である「回腸」についてはそれぞれ胃カメラ、大腸カメラによる検査が可能だが、それ以外の多くの部位には特殊な「ダブルバルーン内視鏡」を使用しなくてはならない。この内視鏡を扱えるのは大学病院等の基幹病院がほとんどで、また自治体の費用支援があるがん検診の対象になっていないため、他の部位のがんと比べ、予防や早期発見がしやすい環境とはいえない。

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