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私にとってライフワークともいえるプログレッシブロックユニット“アストゥーリアス”、おかげ様で今年デビュー35周年を迎えました。
アストゥーリアス名義7枚、アコースティック・アストゥーリアス名義3枚、エレクトリック・アストゥーリアス名義4枚。活動期間の割には寡作ですが、自分の人生にとって極めて重要な活動となり、これも応援し続けてくださるファンの皆様のお陰と思っております。心から御礼申し上げます<(_ _)>。
そもそものスタートは、1987年にMade in Japanレーベルに送ったデモテープをきっかけに、キングレコードCRIMEレーベルでの1stアルバムリリースが決まったことです。当時所属していた音楽制作会社フォノジェニック、元新月の津田治彦氏、花本彰氏、アフレイタスの桜井和美氏、ZABADAKの上野洋子女史らの協力を得て、1stアルバムの制作がスタートしました。
今のような自宅録音システムなどなく、CD(1stはアナログレコードも同時リリース!)制作はレコーディングスタジオを借りて作ることが常識の時代。低予算ということ、時間を気にせず最後までこだわって仕上げたいという観点から、フォノジェニックにあったアナログ16chレコーダーFOXTEX E16を使い(3rdはTASCAM DA88×3台)試行錯誤を繰り返して手造り感覚で録音を進めました。PC9801+カモンミュージックという打ち込み黎明期のシンク音源と同期させたり、ピンポン録音も駆使して、機材面の限界はありつつも、24ch以上のトラック数に匹敵するものが出来たと思います。エンジニアの森村寛氏(新月1stの録音ディレクター&サックス奏者)とスタジオに籠り、93年までに3枚のアルバムを作り上げました。当時はかけ出しの職業音楽家で(マニピュレーターとBGM制作がメインでした)森村氏とのスタジオワークで様々なことを学び(ときに衝突もありつつ・笑)その経験が今の自分を支えているなぁと、改めて思います。
初期三部作について、2018年の再発時のコメントから抜粋したものを以下に記したいと思います(今見てこっ恥ずかしい面もありますが...)。
サークル・イン・ザ・フォレスト CIRCLE IN THE FOREST 1988年
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- 流氷 Ryu-Hyo
- クレアヴォヤンス Clairvoyance
- エンジェル・トゥリー Angel Tree
- タイトロープ Tightrope
- サークル・イン・ザ・フォレスト Circle In The Forest
とにかく永年の夢であった、初めてのレコード(Vinyl盤もあった)を出すということで、 尋常でない気合を込めて臨んだのを覚えています。若さゆえの情熱がプラスに働いた半面、気負いや音楽的未熟さがマイナスに働いているのは否めません。永いこと「この作品を葬りたい」と明言してまいりました。2014年の“All Time Best ジャパグレ人気投票”で『樹霊』の4位を始めとした、近年の作が上位に食い込み、この1stが下位に沈んだことで、やっと永年の呪縛から解放された気がしました。(1stが代表作と言われることが多く、悔しい思いをしてきました)
今回改めて作品を聴いて思ったのは、作者本人としては歯がゆい思いをいだく箇所が耳に付くものの今に至る“アストゥーリアス・サウンド”の基本的な概念は全てここから始まっている、これ無くして今はない、ということを再認識しました。
13歳からプログレを聴き始め、“他にない進歩的な音楽こそがプログレである”という信念の元、“自分だけの音楽(プログレ)”を追及していった過程の全てが この作品に凝縮されているのを感じます。改めてこの作品を世に出せたことに感謝したいと思います。
納得のいかない点としては、①音楽的(楽典的)な未熟さ、作編曲技量の幅の狭さ、②サウンド的な未熟さ(当時の打ち込みサウンドの限界、ミックスダウンにおける80年代志向)が挙げられます。「クレアヴォヤンス」や組曲中盤の展開、「エンジェル・トゥリー」のストリングス処理などに顕著です。
そんな中でも、「流氷」は自分が22歳のときに初めてまともに作ったプログレ作品(?)として記念すべき曲であり、未だにファンの方々にも愛されているという意味で、たしかに代表曲のひとつかと思います。変拍子を使っている訳ではないし、調性・和声が凝っている訳でもないですが、自分なりのプログレ表現のひとつの形です。歴代プログレ名曲の“美しい部分”を抽出し、“ひんやりとした”“冷たく澄み切った”質感でまとめ上げたもので、当時流行っていたニューエイジミュージック(ウィンダムヒルとか)のピアノの質感に影響された面もあります。この曲が1曲目ということもあり、アストゥーリアス=ニューエイジ、ロック(プログレ)じゃない というイメージ・弊害が付きまとってしまい、永いことその呪縛に苦しめられることになりました。(それを払拭すべく、ロックのエレアスが産まれたとも言えます)
他には、エレアスに通じるアストゥーリアス流ロックサウンドのルーツとして「タイトロープ」、現在のマルチアス組曲のクライマックス手法のルーツとして「サークル・イン・ザ・フォレスト」ラストの展開など、今に至る重要な流れを見出すことが出来ます。
30年経ち、現代の耳の肥えたリスナーが、この作品を聴いてどう思うのでしょうか? ゲーム使用のパーツも随所に含まれていて、プログレという意識の無いリスナーでも楽しめる面はあるかもしれません。初めて聴く方達の評価が気になるところです。
『サークル・イン・ザ・フォレスト』:https://lnk.to/ASTURIAS_CitF
ブリリアント・ストリームス BRILLIANT STREAMS 1990年
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- ハイランド Highland
- ノスタルジア Nostalgia
- ローガス Rogus
- ブリリアント・ストリームス Brilliant Streams
前作と今作の間に、エグベルト・ジスモンチの音楽(特にブラジル盤のシンセ多重もの)に出会えたことは自分にとって大きな転機となりました。特に和声・音階面で「こんなアプローチをしてもいいんだ」という衝撃を受け、当時かなりはまっていました。まだ影響を昇華出来るところまでは至っていませんが、「ノスタルジア」はクラシカルな哀愁作品として影響が顕著で、“聴き手を自分の音楽世界に引き込む”“世界観を提示する重要性”といったものを意識して作り始めたのが、この頃だったと思います。
またこの作品では、“使う音色を選ぶ”ということに注意した面があります。マニピュレーターという職業柄、色々なシンセの音を使いたくなる訳ですが、“プログレにマッチした音だけを使う”ということを自分に戒めて臨んだものになっています。(タイトル曲は打ち込みも結構使っていますが...)
生楽器類をいかに効果的に配置するか、ということも重視し始めています。アコースティック路線の「ノスタルジア」、バンド編成の「ハイランド」「ローガス」は楽器編成的にアコアス・エレアスの布石になった面もあるかと思います。音色面の厳選が結果的に、よりプログレらしさを強めることに繋がったのではと思っています。
このアルバムで重要なのは、やはり2つのロックバンド編成の曲「ハイランド」と「ローガス」です。ミニマルなピアノのフレーズを軸に、変拍子のビート、クールな雰囲気でアストゥーリアスならではのプログレッシブ“ロック”が確立された気がします。メロディアスな広がりのある「ハイランド」、元々「獣神ローガス」というゲームのバトル曲であり、スリリングな変拍子展開が特徴の「ローガス」共に今でもお気に入りの曲です。
それと「ブリリアント・ストリームス」の前半(11’33まで)の流れはとてもうまくいったと自負しています。メジャー(長調)の楽曲であるにも関わらず、アストゥーリアスらしさを出せたのは、現在に至る作品の中でも珍しい成功例と言えるかもしれません(「ディスタンス」と並んで)。オールドフィールド的組曲の構成方法としても、前作よりスムーズに構築出来たと満足しています。それに比べると後半の流れは無理矢理な感じがして、今聴くと残念です。パーツごとはいいのでしょうが、まだまだ煮詰めが足りない構成ですね。反省の余地ありです。
今回初めて聴かれる方は、是非「樹霊」「欠落」「極光」の3つの組曲(注:2018年に「天翔」もリリース)、またエレアス・アコアスの近作を聴いてみて下さい。 今作はそれらに向かう通過点でしかありませんので。
『ブリリアント・ストリームス』:https://lnk.to/ASTURIAS_BS
クリプトガム・イリュージョン CRYPTOGAM ILLUSION 1993年
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1. ディスタンス Distance
2. クリプトガム・イリュージョン Cryptogam Illusion
3. アドレセンスィア Adolescencia
4. ミストラル・アイランド Mistral Island
5. フェニックス Phoenix
6. グレイシア Glacier
7. サイバー・トランスミッション Cyber Transmission
8. ダンサ・ダス・ボルボレタス Dança Das Borboletas
9. オ・テンポ・パサ O Tempo Passa
この作品にいたる状況というのは、実はあまり芳しいものではありませんでした。世の中は“小室サウンド”が蔓延し、空前のCDバブルの波が押し寄せる“プログレ冬の時代”。このままのセールスでは打ち切りも視野に、というキングさんからのお達しもありました。それもふまえ、組曲志向ではなくプログレファン以外をもターゲットにすべく、ニューエイジ系の短い作品集として取り組んだものです。“これが最後かも?”という悲壮な覚悟を秘めての制作でした。当時は30年後に再発されるとは夢にも思わず、プログレを聴く人など世の中からいなくなってしまうのではないか、と本気で思っていました。今の状況に改めて感謝ですm(__)m。
自分の中に産まれ出た様々な音楽形態のアイデアを具現化した9曲が収められています。実験的なアプローチも多く、マイク・オールドフィールドのフォロワーとしての位置づけをかなり払拭出来たのではと思いっています。 全ては「ダンサ・ダス・ボルボレタス」という曲に集約されており、この曲を作ることが出来たお陰で自分の中で永年フェイバリット作として君臨し、全てをやり遂げた充実感で9年間の休業期間へと突入することになりました。当時は間違いなく、アストゥーリアスの活動そのものを終わらせるつもりだったと思います。
1曲目が異常に明るい「ディスタンス」で始まるため、戸惑う方も多かったと思います。その後、川越好博氏が演奏することによって、アコアス、エレアスのライブでの定番曲になりました。ジスモンチの破天荒な楽曲の影響を受けていると思います。
それ以降は静謐なイメージで支配された楽曲が並びます。「クリプトガム・イリュージョン」「ミストラル・アイランド」「グレイシア」といったニューエイジ系ですが、決して癒しのBGMではなく、プログレの精神性を取り入れた独自のインストゥルメンタルを目指したものです。「アドレセンスィア」と共に、後のアコアスの基本路線を明確に打ち出した作風ですね。「アドレセンスィア」は3人による室内楽作品として、プログレッシブ"ロック"からはかけ離れていますが、これはこれでアストゥーリアスなんだと思います。
前作のバンド路線の延長「フェニックス」、最も謎の位置づけである変則的ロックインスト「サイバー・トランスミッション」、初めてにして唯一の歌詞付き楽曲「オ・テンポ・パサ」とバラエティに富んだ曲が並びます。「サイバー・トランスミッション」は「聲無キ涙」とのメドレーで後年生まれ変わりますが、思いのほかエレアスのサウンドにマッチしていて、やっとちゃんとした居場所を見つけられたと納得しました。
さて「ダンサ・ダス・ボルボレタス」。オールドフィールドとジスモンチの影響を自分なりに昇華した楽曲に仕上がったと思います。7分弱の中に幾多の素材を詰め込み、静と動を効果的に展開させ、ラストのクライマックスへ導くという、自分なりのプログレ組曲の理想形が出来上がった記念すべき1曲です。今聴いても、何度聴いても胸が熱くなります。この手法を突き詰め『樹霊』というアルバムが作られることになりますが、そこに至るまでに結局15年という月日が経ってしまうことになります。2014年に再発された『樹霊~デラックスエディション』には「ダンサ・ダス・ボルボレタス・2014」というリミックスVersionが収められています。この曲が気に入った方は是非そちらもお聴き下さい。
いずれにせよこの3rdアルバムは(「ダンサ・ダス・ボルボレタス」1曲?)プログレという括りを逸脱し、より多くの方に聴いていただきたい、アストゥーリアスの分岐点となった記念碑的作品です。
そしてこの三部作をきっかけに、現在のアストゥーリアスの活動に興味を持っていただける方が増えれば、これに勝る喜びはありません。
2018.1.21 大山 曜
『クリプトガム・イリュージョン』:https://lnk.to/ASTURIAS_CI.
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2023年の今、改めて初期三部作を聴き直すと、当時のサウンド面の限界や若さゆえの気負いを感じ反省点が多いですが、"アストゥーリアス・サウンド"の基本的な概念は少しも変わっておらず、全てがここから始まっていると改めて思いました。3rdアルバム完成後、燃え尽きて9年間の休止期間に至りますが、今思えばそれも時代の必然。経験的未熟さを若さと情熱でカバーし突っ走った三部作制作は、今となれば良き想い出です。
当時も今も変わらないのは、アストゥーリアスの音楽がメインストリーム(=生計を立てる音楽活動)にはならないだろう、ということを認識しながらやっていたということ。悲しいことではありますが、マニアックな音楽を志向する者としての現実は把握しつつも、大衆に媚びるような音楽をやっても何のプラスにもならない、自分の音楽を追求したい、という根幹は変えず、そこだけはぶれずにやって来られたということを誇りに思います(生計は職業音楽としての活動で賄ってきました)。
そんなことも考えながらの35年間で、決して順風満帆とは言えませんが、よくぞ続けて来られたものだと我ながら感心します。そしてそんな志だけはあっても成功に恵まれないプログレミュージシャン達に、作品発表の場を与えて下さったキングレコードの皆さま(特に担当ディレクターの故新井健司さん、本当にお世話になりました<(_ _)>)改めて心より感謝申し上げます。キングレコードのプログレレーベル無くして、日本のプログレが世界のプログレファンに根強く支持され、今も人々の心に残り続けているという現状はなかったと思います(本当にプログレファンは永い期間聴き続けて、推し続けてくれます・・・プログレ=不治の病説)。
今回アストゥーリアスの初期3作品を含めたキングNEXUS、CRIMEレーベル作品がデジタル音楽配信されることになりました。CDとしても何回再発されたことでしょう?発売当時はあまり話題にならなかったので、35年後に聴いてくれる人がいるなんて、本当に夢にも思いませんでした。これを機会にプログレを知らない世代にも作品達が受け継がれ、末永く聴いてもらえることになるのならば、これに勝る喜びはありません。昨今はストリーミング全盛で冒頭数秒だけ聴いて飛ばす(?!)ギターソロなんか聴かない若い世代も多いとか。。。そんな嘆かわしい風潮に逆らい、20分越えの曲なども、どうかじっくり腰を据えて聴き込んでいただければ幸いです。プログレの偉大な先人達が創り上げた素晴らしい文化を、後世に伝えていく良ききっかけになればと切に思います。
◾️プロフィール
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アストゥーリアス1988年のデビュー以来、“アストゥーリアス(マルチアス)” “アコースティック・アストゥーリアス(アコアス)” “エレクトリック・アストゥーリアス(エレアス)” “カルテット・アストゥーリアス(カルアス)”と4つの形態で活動を続ける、作編曲家・マルチプレーヤー大山曜率いるプログレッシブロックユニット。
アコアスで3回、エレアスで5回、海外フェスから招聘されるなど、日本を代表するプログレッシブロックユニットとして国内外で知られている。
◾️インフォメーション
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エレクトリック・アストゥーリアス最新作『Dimensions』(20分越えの組曲「フォースディメンション」収録)好評発売中!
https://asturias754.wixsite.com/eleas/disco
11/19(日)アコースティック・アストゥーリアス&カルテット・アストゥーリアス ジョイントライブ開催!