連載コラム【MLBマニアへの道】第10回:スネルが彷彿させるサイ・ヤング賞をとったことのない名投手ノーラン・ライアン

写真:両リーグでサイ・ヤング賞の快挙を達成したスネル

11月15日(日本時間16日)、MLBではサイ・ヤング賞の受賞者が発表された。ア・リーグはヤンキースのゲリット・コールが満票でキャリア初受賞。ナ・リーグではパドレスからFAになっているブレイク・スネルが惜しくも満票は逃したもののキャリア2度目の受賞を果たした。

スネルの前回の受賞は2018年のレイズ時代のものであり、両リーグでの受賞はMLB史上7人目の快挙だ。過去の達成者には偉大な投手がずらりと並ぶ。ゲイロード・ペリー、ランディ・ジョンソン、ペドロ・マルティネス、ロイ・ハラデイの4人はいずれも殿堂入りしており、殿堂入りしていないのは354勝投手ながら薬物疑惑のあるロジャー・クレメンスと、将来的な殿堂入りが確実視されている現役のマックス・シャーザーだけだ。

スネルが将来殿堂入りするかはわからない。8年のキャリアを過ごしたここまでの通算成績は71勝、防御率3.20と優秀ではあるが飛びぬけているわけではない。故障も少なくないスネルは規定投球回に到達したのが2度だけだが、その2度ともサイ・ヤング賞を獲得するという変わったものだ。

スネルの投球スタイルは長所と短所がはっきりしている。元々与四球も奪三振も多いタイプだったが、パドレスのニエブラ投手コーチによる意識改革によって「四球を出しても最終的に抑えればいい」という考えにいたり、与四球を恐れなくなった。その結果今季の与四球数は99個と両リーグ最多。防御率2.25という突出した数字を残しながらも満票受賞を逃したのは、極端な与四球数の多さと、それに伴うイニング数の少なさに難色を示す投票者がいたからだろう。

これほど割り切った投球スタイルでありながらリーグ有数の活躍を見せている投手というのは近年それほど多くない。少し遡ると同じ左腕の荒れ球ということでランディ・ジョンソンが思い浮かぶが、ジョンソンは全盛期には制球力が落ち着いていた。そう考えれば、今のスネルと最も投球スタイルが近いのは、伝説的右腕ノーラン・ライアンではないだろうか。

MLBファンであれば誰もがその名前を知る殿堂入り投手ライアンは、全盛期にもとにかく与四球が多く、半面奪三振力も非常に高い投手だった。現代のMLBでは考えられない数字だが、カリフォルニア・エンゼルス(現ロサンゼルス・エンゼルス)時代には332.2回を投げて202与四球、367奪三振を記録した年もあった。

そうして積み上げた通算5714奪三振と2795与四球はいずれも歴代最多記録だ。奪三振のタイトルは11度も獲得したが、27年もの長きキャリアでサイ・ヤング賞の栄誉には一度も恵まれなかった。サイ・ヤング賞は相対的な賞だが、似たような投球スタイルで30歳までに2度も受賞したスネルとは対照的だ。

”ライアン化”しつつあるスネルは今オフ最高の投手の一人としてFAになっている。代理人が敏腕スコット・ボラスということもあって非常に高額な契約が見込まれるが、スネルは来季以降も同じレベルのパフォーマンスを発揮することができるだろうか。ライアンの最も偉大な点は46歳まで現役を続けた頑丈さにあった。ここまでのスネルのキャリアに足りなかったものだ。ここからのキャリアでスネルが真の意味で「現代版ノーラン・ライアン」になれるのかに注目したい。

文=Felix

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