【MLB】オリックスが獲得!アンドレス・マチャドをデータで徹底解剖

写真:オリックスが獲得を発表したアンドレス・マチャド

日本時間16日、NPBのオリックス・バファローズが前ナショナルズの右腕アンドレス・マチャドを獲得したと球団公式X(旧Twitter)で発表した。

マチャドはベネズエラ出身で現在30歳。2010年にロイヤルズとマイナー契約を結んでプロ入りしたのち、2017年にMLB昇格を果たした。その後は長くマイナー生活が続いたものの、2021年にナショナルズと契約を結んだことが転機となる。

この年40試合で防御率3.53とまずまずの成績を残すと、主に中継ぎとして3年間で135試合に登板。今季は44試合の登板で4勝1敗、防御率5.22という成績を残していたが、現地時間の14日に「NPBの球団と契約するため」という理由でFAとなっていた。

持ち味は160km/h近くをマークするストレートと2年連続で被打率1割台をマークしているチェンジアップのコンビネーションだ。NPBにやってくる助っ人リリーバーらしく速球で押せる一方、一定の制球力も備えており、勝ちパターンを担うことが期待されているようだ。

さて、そんなマチャドだが、日本のファンからすれば実際に日本で投げるまでは本当に活躍できるか半信半疑なところだろう。実際、国も選手のレベルも違う別リーグでどの程度活躍できるかを占うのは難しい。

ただ、MLBでは「Baseball Savant」などのデータサイトでトラッキングデータが公開されており、一般人でもかなり高い解像度で投手を分析することができる。今回の記事では、MLBのデータを元にマチャドの長所や心配な点などを詳しく分析してみよう。

まず、基本的なスタッツから確認していこう。以下はナショナルズにおけるマチャドの投球内容だ。

(データはFangraphsを参照)
2021年 44試合 35 2/3イニング K%19.5 BB%9.7 HR/9 1.01 WAR0.0
2022年 29試合 59 1/3イニング K%17.6 BB%10.0 HR/9 1.06 WAR-0.1
2023年 30試合 50イニング K%20.8 BB%6.3 HR/9 2.16 WAR-0.4

K%(奪三振/打者)とBB%(与四球/打者)の面では今季が最も優れている一方、イニングあたりの被本塁打は倍近くに増加。本塁打の打たれすぎが影響してか、WARは今季が最も悪かったようだ。

これを見ると、マチャドの投球に何か大きな問題があったのではないかと思えてくる。一般的にNPBに移籍する投手でしばしばあるのが、移籍前年に大きく球速を落としたパターンだ。球速が落ちてMLBで抑えられなくなった結果、パワーの面では劣るNPBで再起を図ろう(あるいはNPB側もNPBでならばまだ通用すると考える)とするねらいがあると考えられる。

実際、マチャドの速球(フォーシームとツーシーム)は今季被打率.324、xwOBA(打球の質から推定した総合的な打撃力)は.396を記録した。例年あまり速球の成績はよくないが、これはナショナルズ移籍後では最も悪い数値だ。やはりマチャドの球威は劣化しているのだろうか。

だが、球速データを見る限りこの推測は間違っているようだ。今季のマチャドは速球の平均球速が96.3マイル(約155km/h)に到達。フォーシームに限れば96.7マイル(約156km/h)にも達した。これは自己最高を1マイル近く更新したばかりか、MLBレベルでも上位15%に入るほどのものだ。単に球速だけならマチャドはMLBでも上位のものを持っている。

実際球速アップの効果は奪三振の増加と与四球の減少という形であらわれている。本塁打こそ増加してはいるが、フォーシームのWhiff%(空振り/スイング)は30%を超えており、よくある球威の劣化という心配はマチャドには無縁に思われる。本塁打については偶然強い打球を打たれる場面が多かったと見たほうがよいかもしれない(中継ぎ投手はそもそも投球回が少ないため、年度ごとに成績のブレが大きくなりがちである)。

さて、ここで気になるのはそれほどの球威を持っているにも関わらずなぜマチャドの速球が通用しなかったのかという点だが、この疑問を解く鍵になりそうなのはフォーシームの回転数にありそうだ。

マチャドのフォーシームは平均2120回転。今季250球以上が記録され、フォーシームを投じている投手554人の中で77番目に少ない。一般的に回転数が少ないフォーシームは変化量が少なく、打者に攻略されやすいことが知られている。マチャドのフォーシームは球速こそあったものの、回転数が少ないのがネックになって打ち込まれていたと見るべきだろう。

実際、マチャドは2022年からツーシームを多用し始めている。ツーシームはフォーシームの質が高くない投手がそれを補うために使う球種として知られている。自身の速球があまり通用していないことを自覚し、対策を打ったのだろう。

とはいえ、マチャドの球威がMLBと比べてパワー面で劣るNPBで大きな問題になるとは考えにくい。日米間でかなり差があるとされるボールやマウンドなどに対応すれば、十分に制圧的な投球ができるはずだ。

最後に、ややしつこいようだがマチャドの速球についてもう少し掘り下げたい。注目するのは「回転効率」だ。回転効率とはボールの回転のうち、推進力に寄与する回転の割合のことを指す。厳密には少し違うが、大雑把に言えば回転効率が大きければ大きいほど「よく伸びる(浮き上がる)」ストレートに分類される。

そして、マチャドのフォーシームは平均回転効率99%。非常に優秀な数値を叩き出している。実際の伸び(上方向の変化)は回転数との掛け算になるため平凡な数値にとどまっているが、回転数さえ増やせれば凄まじいストレートを持った投手に変貌する可能性を秘めている。

この点を考慮すると、NPBへの移籍はマチャドにとって大きな転機になるかもしれない。というのも、以前東北大学などによる研究で、NPB球はMLB球に比べ「指にかかりやすい(滑りにくい)」ことが明らかにされていた。

つまり、MLB球では十分に回転をかけることができなかったマチャドも、NPB球ではしっかりとスピンをかけたフォーシームを投げられるようになるかもしれない。その場合、ツーシームではなくフォーシームを多用したほうがよりよい投球を見せられる可能性は高いように思われる。

もしかすると、MLBとNPBで大きく投球割合を変化させたマチャドが見られるかもしれない。

ここまで長く書いてきたが、要点は3つだ。
●2023年の成績は振るわなかったが、球速・球威は増しており不安は小さい。
●フォーシームは速いものの回転数が少なく、MLBではあまり通用しなかった(NPBで大きな問題になるとは考えにくい)
●「滑りにくい」NPB球で回転をかけられれば、フォーシームの威力アップが期待できる可能性も

本記事の答え合わせは来季の今頃になるだろう。マチャドがどのような投球を見せるのか、今から楽しみに待ちたい。

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