「ヌルい・ウザい」とマニアに忌まれたジャッキー・チェン史上最大ヒット作『ラッシュアワー』シリーズを今こそ再評価!噂された4作目の可能性は?

『ラッシュアワー』© MCMXCVII New Line Productions, Inc. All Rights Reserved.『ラッシュアワー2』© MMI New Line Productions, Inc. All Rights Reserved.『ラッシュアワー3』© MMVII Unlike Film Prodcutions © MMVII New Line Productions, Inc. All Rights

俳優ジャッキー・チェンの映画キャリア

ジャッキー・チェンのターニングポイントはいくつもあった。

『ドラゴン怒りの鉄拳』(1971年)でのスタント、『スネーキーモンキー/蛇拳』(1976年)『ドランク・モンキー酔拳』(1978年)でのブレイク、ゴールデンハーベスト社と契約した『ヤング・マスター/師弟出馬』(1980年)、『バトルクリーク・ブロー』(1980年)『キャノンボール』(1981年)でのアメリカ進出、『ポリス・ストーリー/香港国際警察』(1985年)での脱カンフー映画、『レッド・ブロンクス』(1995年)での全米No.1達成……。

本当に枚挙にいとまがないが、そんな中でも世界的な地位を確立したという意味では『ラッシュアワー』シリーズ(1998年~)こそが映画人ジャッキーのハイライトと言って良いのではないだろうか。

ジャッキー映画史上最高のヒット作

香港の中国返還直後に製作された『ラッシュアワー』。監督のブレット・ラトナーはジャッキー映画の大ファンであり、『レッド・ブロンクス』でアメリカでも成功を収めたジャッキーに早速、本作への主演をオファー。当時『WHO AM I ?』(1999年)の撮影のため南アフリカにいたジャッキーに直接会って説得し、ジャッキーは快諾。すぐにロサンゼルスでクリス・タッカーと会談して意気投合し、本作の製作が本格的にスタートした。

『ラッシュアワー』はラロ・シフリンが音楽を務め、『燃えよドラゴン』(1973年)をイメージするオープニングから始まる。中国公使の娘の誘拐事件を解決するため、香港警察のリー刑事はロサンゼルス市警の問題児カーター刑事とタッグを組んで国際的マフィアと対決する物語。王道の異文化交流型バディ・アクションだ。

ジャッキーはすべてにおいて安全を重要視するハリウッド式のアクション撮影にうんざりしつつ、香港で自身のスタントチーム〈成家班〉を使って追加撮影するなどして映画は完成する。そして1998年9月に公開されるやジャッキー映画としては初めて北米興収1億ドルを突破し、全世界興収も2億4000万ドルを超え、ジャッキー映画史上最高のヒット作となったのだった。

本作の大成功でハリウッドスターの仲間入りを果たしたジャッキーは、香港とハリウッドで作品を量産する大スターとしての地位を確立し、アカデミー賞でのプレゼンターとして登場するなど世界での認知度も飛躍的に向上していった。そして『シャンハイヌーン』(2000年)でもヒットを飛ばしたジャッキーは、満を持して続編『ラッシュアワー2』に主演する。

苦い批評家ウケに反して観客には愛された『2』&『3』

香港でのオールロケーションを行った『ラッシュアワー2』。休暇で香港を訪れたカーター刑事が、香港のアメリカ領事館爆破事件をリー刑事と共に追う。そこに謎のカンフーガール、フーリーが現れ、さらにリー刑事の父親が殺される原因となったリッキー・タンの関与が浮上する……という物語(スティーブン・ソダーバーグ映画で頭角を現したばかりのドン・チードルが謎の雀荘支配人としてジャッキーとカンフー対決するのが楽しい)。

この続編は前作以上の大ヒットを記録し、北米だけで2億2600万ドル、全世界では3億4700万ドルを稼ぎ出し、世界でもっともヒットしたマーシャルアーツ映画となったのだった。

当然続編が熱望され、第3弾となる『ラッシュアワー3』が企画されたが、制作は様々な困難があり、公開は2007年までずれ込んでしまった。真田広之、工藤夕貴、マックス・フォン・シド―、ジュリー・ドパルデューなどが出演し、『ブルース・リー/死亡遊戯』(1978年)のカリーム・アブドゥル=ジャバーのオマージュとして身長236cmのバスケプレイヤーであるスン・ミンミンも登場。

さらにシリーズの大ファンであるロマン・ポランスキー監督は、本作がフランスで撮影されることを聞きつけて自らブレット・ラトナー監督に電話をかけて出演を直訴し、レヴィ警視役でカメオ出演している(少女淫行事件でアメリカから逃亡している身であったためクレジットはされていない)。

第3弾は、フランスを舞台にカーター刑事とリー刑事の珍道中が繰り広げられるのだが、批評家からは手厳しい評価しか得られなかった。しかし、全世界では2億5800万ドルという大ヒットを記録し、本シリーズが多くのファンに愛されていることを証明している。

『ラッシュアワー4』製作の可能性は……?

さて、『ラッシュアワー』シリーズというと、ハードコアなジャッキーファンからは「アクションがヌルい」「物語が薄い」「クリス・タッカーがウザい」など散々な評価であり、香港でもあまりヒットはしていない。正直、ぼく自身もあまり積極的に見直している作品ではない。しかし公開から25年経った今観てみると、実に軽妙な作品であり、テンポよくストーリーが進み、アクションもほど良く、主演の2人の掛け合いも抜群に面白い作品であると改めて気付かされた。好き嫌いはあろうが、あえて今、本シリーズを見直してみるというのも一興なのではないだろうか。

なお、ジャッキーは政治問題で中国寄りの姿勢を明確にしてハリウッドからは完全に距離を置かれてしまっており、もともと寡作だったタッカーは数年に1本の出演ペースで助演俳優としていぶし銀の立ち位置になっている。そんな中、2017年には続編に対して否定的だったジャッキーが、ようやく『ラッシュアワー4』の脚本検討にOKを出すも、3作を監督したブレット・ラトナーが「#MeToo」ムーブメントの中で過去のセクハラを告発されてハリウッドを追放されてしまう。残念だが、『ラッシュアワー4』の可能性は完全に無くなっているのが現状だろう。

『ラッシュアワー』シリーズ3作【日本語吹替版】はCS映画専門チャンネル ムービープラス「ラッシュアワー イッキ観!」で2023年11月放送

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