老いや病、そして命…温かな文章とイラストに 版画家・岩田さんの「ヘラヘラつうしん」が300号 姫路

300号を迎えた「ヘラヘラつうしん」を手にする岩田健三郎さん=姫路市

 播磨を代表する版画家岩田健三郎さん(76)=兵庫県姫路市=が9年前から発行を続ける冊子「ヘラヘラつうしん」が、節目の300号を迎えた。温かな文章とイラストでつづるのは、日々実感が強まる老い、病、そして命のこと。喜寿を前に、日付を添えた版画作品を毎日欠かさず制作する試みも始め、筆は一層勢いを増している。(森下陽介)

 姫路市生まれ。大阪市立美術館の美術研究所で学び、市文化芸術賞や県文化功労賞などを受賞してきた。

 日常の風景を切り取ることから、漢字の「今今」が転じ、カタカナで「ヘラヘラ」と表現する。20代の頃から取り組み始め、当時はミニコミ紙として友人などに宛てて書いていた。

 9年前からは1週間分の日記を冊子にまとめるようになり、第1号を発行。「老いるってどういうことなん?」。年齢を重ねるにつれ老化の進みを実感し、日々の記録として制作を始めた。

 今月上旬に発行された300号は、8月から9月にかけての1週間をまとめた。家族の近況や友人との会話、最近見た演劇などの多彩なテーマを、軽妙な文章と肩の凝らないコミカルな画風で紹介する。

 「いつ事故に遭うやら、病気になるやら。そやから会えるときに会っておこう」と心情もストレートに伝える。今年1月からは、毎日1枚の版画作品を制作する挑戦も始めた。

 自分で配達できる範囲は、電動自転車に乗って配る。「病気はしてへんか、家族は元気か、とちょっとした立ち話がまた面白い」。読者とのつながりは、創作活動の原動力になっている。

 岩田さんは現在、古民家カフェ「米ギャラリー大手前」(同市林田町)で二十四節気ごとに行う対談にも力を入れている。相手は猟師や獣医師、野鳥愛好家など…。岩田さんのユーモアたっぷりの合いの手で引き出されるそれぞれの人生の物語は、冊子の中でも紹介されている。

 「出会った人たちのことを描くんやから、ヘラヘラつうしんはみんなとの『合作』」と岩田さん。「いつかは終わりが来るけど、それまでは元気で描き続けたいなあ」と穏やかな表情で話す。

 1部400円。今月29日午後2時からは、たつの市で町おこしに取り組む井上美佳さんと対談する(千円、お茶付き)。購読希望などは岩田さん(メールアドレスiwata@hera‐hera.net)へ。

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