【編集長の独り言】AMDシンポジウム2023で語られたコンテンツ産業への支援について考える

ゲームメディアは常にゲーム業界と一定の距離感を持って付き合い続ける必要がありますが、ことゲーム業界全体を見ると市場規模は高い水準で推移しています。しかしながら、世界市場における日本国内の売上比率はわずか1割ほどに過ぎず、徐々にそのパワーバランスも変化しています。

とはいえ、日本のゲームコンテンツは決して評価されていないわけではなく、むしろ今年も「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」や「ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON」、「バイオハザードRE:4」などのヒット作を世に送り出しています。こうした、いわゆるパッケージタイトルの主戦場は確実に海外になっているということです。

一方、ここ10年ほど市場を拡大させてきたスマートフォンゲーム市場は、現在も国内市場において高い比率を維持しているものの、こちらもすでに椅子取りゲームの様相を見せていて、市場としての成長は頭打ちになっている感は否めません。さらに、海外のパブリッシャーの存在感も日に日に増していて、今がスマートフォンゲームに偏ったビジネスモデルからの変化を模索している時期にもなると思います。

AMDシンポジウムでは、ゲーム市場に留まらず、コンテンツ産業全体の行政による支援のあり方が夏野剛氏(近畿大学 情報学研究所長 特別招聘教授)、襟川陽一氏(株式会社コーエーテクモホールディングス 代表取締役社長)、Lionel Lim氏(シンガポール経済開発庁 Vice-President)、山崎尚樹氏(特定非営利活動法人映像産業振興機構(VIPO)経営企画部長)、杉原佳尭氏(Netflix合同会社 ディレクター)によってパネルディスカッション形式で語られていきました。

いくつか興味深い話もある中で、日本と海外でのコンテンツ産業における支援のかたちに大きな違いがあることは印象的でした。少なくとも、日本市場における支援はまだまだ十全とはいかず、先に進むためには旗振り役となる省庁の存在が必要であることにも言及していました。

コンテンツ産業全体をひとつに括ることは難しいのですが、ゲーム業界においてはグローバルで戦うために経営統合などで資本を巨大化していった経緯があります。そして現在でもチャレンジできるだけの規模感を持っている企業は結果を残し続けていますが、それはごく一部に過ぎません。それ以外の中小規模の会社では、時には協力し合いながらでき得る限りで各々が手を尽くしているという印象が強いです。

襟川氏が自身の経験に基づき、プロジェクト単位での支援の枠組みを拡充してほしいと話していたように、ゲーム開発はひとつのタイトルごとに時間もお金もかかり、加えてグローバルに展開するためにはローカライズが不可欠であることから、こうした支援の体制ができるのであればそれは望ましいことです。

日本のIPは持続性と新規性、その両面において素晴らしいプロダクトを日々生み出しています。そうしたコンテンツの数々を世に送り出すための体制を作るために、特定の業界だけに留まらず、コンテンツ産業全体との支援を考えていくべきことなのだと思いますし、そのための仕組みは必要だと感じます。

一方、コンテンツの底を支えているのはさまざまなセクションで活躍できるクリエイターの方々です。スタートアップ向けのアクセラレータープログラム、集英社や講談社のような出版社が行うクリエイター支援などのように、アイデアや情熱を持った方々が新たな何かを生み出せるような土壌を支援することも、コンテンツ産業の成長には欠かせないように思いました。

企業が行う研究開発も、個人開発者が自分のアイデアをふくらませる時間も、結局はプロダクトに紐づくという点で、今後はぜひ個々の取り組みに対する支援を行う仕組みを拡充させてほしいと思う次第です。


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