M&Aによる事業承継拡大 中小企業、成長戦略へ変化

ノーブルホールディングスと西甲府住宅の「M&A成約式」。仲介会社がセッティングした=10月、東京都内

■仲介業者も増加

後継者不在に悩む茨城県内中小企業の間で、M&A(合併・買収)による事業承継が広がりを見せる。民間事業者や公的機関がM&Aを仲介するマッチングも徐々に浸透する。背景について専門家は「M&Aのイメージが変わり、企業の存続だけでなく、成長戦略としても捉えられるようになってきた」と経営者の意識の変化を挙げる。

水戸市の住宅メーカー、ノーブルホームを傘下とする持ち株会社ノーブルホールディングス(HD)は10月、甲府市の住宅メーカー、西甲府住宅の事業を譲り受け、子会社化した。都内で「M&A成約式」を開いた。

西甲府住宅は1986年に戸田克己社長(74)=現相談役=が創業。以来、安定した経営を重ね、山梨県内でトップシェアを誇る。後継者への株式譲渡や相続による税負担のほか、資金繰りなどを考慮した結果、第三者譲渡の道を探ることにした。

業界大手の日本M&Aセンター(東京)が相談を受け、仲介に動いた。

戸田氏は「社名を残して引き継いでくれる点が良かった」と決め手について語り、「かつてのM&Aのイメージはなく抵抗がなかった。これからも地域で頑張りたい」と意欲を見せる。ノーブルHDの福井英治社長も「責任の重さを感じる。地域の信頼を築いてきた経営スタイルを引き継ぎ、一緒に成長していきたい」と話した。

経営者の高齢化や後継不在を大きな課題とする中小企業は少なくない。各種調査によると、経営者の半数以上が廃業予定で、2025年までに60万社が「黒字廃業」の恐れがある。

国は事業承継ガイドラインを作るなどして支援に取り組んできた。全国に相談窓口「事業承継・引継ぎ支援センター」を設置し、マッチングなどに取り組む。

茨城県のセンターでは22年度、M&A型事業承継で過去最多となる22件の成約につなげた。担当者は「事業承継が未定とする中小企業が約3割に上るという調査もある。潜在的に困っている会社を掘り起こしたい」と周知に力を入れる。

明るい兆しも見られる。帝国データバンク水戸支店の22年調査では、県内企業で後継者が「いない」「未定」とした後継不在率は42.7%で5年連続で減少。調査を始めた11年以降で最小を記録した。さらに事業承継の方法別で「M&Aほか」が過去最多の25.6%に拡大した。

日本M&Aセンターの木佐木隆志部長は「以前は身売りやリストラなど良くないイメージもあったが、国の推進政策もあり、事業承継の手段としてプラスイメージが浸透しつつある」と分析する。

最近では、企業の成長を目的にM&Aを選び、同時に将来的な後継者不在を解決するケースも見られる。「存続だけでなく、成長戦略として捉えられている」と経営者の意識の変化を説明する。

一方、仲介業者の数は増えて過熱気味という。業者は3千を超え、半数前後は参入してまだ数年の新興勢力とされる。21年に同センターを含む業界の自主規制団体ができた。木佐木氏は「業界の健全性や在り方を議論している」と話し、ニーズに適切に応えられる必要性を示す。

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