ハピラインが赤字になっても「しっかり税金つぎ込むべき」理由 専門家が語る並行在来線の在り方

「採算性の向上でなく、県民の利便性をいかに高めるかという視点が大切」と語る中川大・特別研究教授=富山大学
【グラフィックレコード】並行在来線の行方

 富山県地域交通政策監を務めるなど、地方の公共交通政策や地方鉄道の活性化策に携わっている中川大・富山大学特別研究教授は、ハピラインふくいについて「一定時刻に駅に発着するパターンダイヤや新駅設置など前向きな方針を次々と打ち出しており、1日当たりの利用者数2万人を維持し続けるという目標は十分に達成可能だ」と指摘。その上で「北陸3県に加え、線路がつながる新潟、長野も加えた近県の連携で利便性向上を図ってほしい」と期待を込めた。

 ―JRから第三セクターの運営に切り替わることに不安の声もある。

 「北陸新幹線金沢延伸に伴って発足した富山県のあいの風とやま鉄道も当初は『JRからお荷物を押しつけられる』というように、県民の間でプラスのイメージで見られていない面もあった。しかし、実際には運行本数を増やしたり、新駅をつくったり、駅のディスプレーを新しくしたりして利便性が高まり、利用者が増えた。朝夕の車両内は混み合い、今以上に本数を増やしてほしいとの声もある。『JRよりずっと良い』というのが県民の思いだ」

 ―福井県の並行在来線(JR北陸線)の輸送密度(1キロ当たりの1日平均乗客数)は約5600人。あいの風とやま鉄道の約7千人、IRいしかわ鉄道(石川県)の約1万人を下回り、経営環境は厳しい。

 「5千人以上の輸送密度があれば黒字化できている民間鉄道は多く、十分に“勝負できる”数字だ。ただ重要なことは、民間鉄道から県民鉄道に変わるわけで、発想の転換が重要。民間鉄道の目的は採算向上だが、県民鉄道はもうけることが目的ではなく、いかに県民にメリットを提供し、ウェルビーイング(幸せ実感)を向上させることができるか。赤字を補填(ほてん)するために税金が投入されるが、県民のために使っているお金だというふうに考えるべきだ」

 ―利用者を増やす上で重要な視点は。

 「鉄道が販売している商品はダイヤであると言って過言でない。分かりやすく使いやすいダイヤを組むことだ。富山市内の富山ライトレールは運行本数を3倍にしたことでお客さんが3倍に増えた。えちぜん鉄道は30分間隔のきれいなダイヤで利用者を伸ばした。日本の地方鉄道は採算の最大化のために経費の最小化を続けてきた。経費を抑えるから便利にならず、お客さんが離れ、運行本数を減らす悪循環。しっかりと公費をつぎ込み、便利な方向に持っていくことが大切だ」

 ―北陸3県のJRから切り離された並行在来線運営会社の連携については。

 「関西圏を走っているような新快速を、北陸3県を結ぶ形で運行するのは効果的だろう。サンダーバードやしらさぎで移動していた人が乗ってくれる可能性は十分ある。また、JR西日本が北陸新幹線敦賀開業に合わせて敦賀駅と城崎温泉駅(兵庫県豊岡市)を結ぶ観光列車の運行を計画しているが、えちごトキめき鉄道(新潟県)の『雪月花』やあいの風とやま鉄道の『一万三千尺物語』といった観光列車を福井県区間に乗り入れ、敦賀駅で観光列車同士が対面するようなことができれば話題性十分。面白い仕掛けを期待したい」

 なかがわ・だい 1956年、京都市生まれ。小学校から高校まで富山県で暮らす。京都大大学院工学研究科交通土木工学専攻修了。2017年4月から富山大副学長を務め、22年4月から同大都市デザイン学系特別研究教授。富山ライトレール、京都丹後鉄道など各地の地域公共交通の再生、活性化事業に参画。福井県都市計画審議会会長、富山市交通政策監、京都府助言役(参与)、JR四国特別参与なども務める。 

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 来年3月の北陸新幹線福井県内開業を契機とした新時代の福井のあり方を探る長期連載「シンフクイケン」。の第5章テーマは「ハピラインにバトン」。新幹線開業後、JR北陸線を引き継ぐ第三セクター「ハピラインふくい」の展望や課題を探ります。連載へのご意見やご感想を「ふくい特報班」LINEにお寄せください。

シンフクイケン・各章一覧

【第1章】福井の立ち位置…県外出身者らの目から福井の強み、弱みを考察

【第2章】変わるかも福井…新幹線開業が福井に及ぼす影響に迫る

【第3章】新幹線が来たまち…福井県外の駅周辺のまちづくりなどをリポート

【第4章】駅を降りてから…観光地へどう足を運んでもらう?

【最新・第5章】ハピラインにバトン…JR北陸線を引き継ぐ第3セクターの展望、課題は?

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