商工組合中央金庫 経営サポート部インタビュー(前編) ~ 増収増益ランキングトップ、事業性評価を起点に地道な支援で ~

中小企業とともに歩み続ける商工組合中央金庫(TSR企業コード: 299020045、東京都中央区、以下商工中金)。2023年6月に改正商工中金法が成立し、民営化へ動き出した。
東京商工リサーチ(TSR)の2023年「企業のメインバンク」調査で、取引先企業の「増収増益ランキング」は全金融機関でトップだった。
これを受け、関根正裕社長は「商工中金は事業性評価を起点にお客さまと課題を共有し、伴走サポートをしてまいりました。この地道な取組みが今回の結果につながったと思います。『企業の未来を支えていく。日本を変化につよくする。』というパーパス(存在意義、目標・編集部注)のもと、今後もお客さまにしっかり寄り添ってまいります」とTSRにコメントを寄せた。
支援の取組みやコロナ禍での奮闘など経営改善支援を手がける経営サポート部の宮本達郎部長、阿童嘉弘クレジットオフィサー、吉田誠主任調査役、広報部の田邉丈実主任調査役に単独インタビューした。

―商工中金の成り立ちと現状は

1936年に商工組合中央金庫法に基づき、政府と中小企業組合が共同出資して設立した。背景には昭和恐慌がある。度重なる恐慌により中小企業融資を担っていた中小銀行の状況が厳しくなり、多くの中小企業は危機的状況に陥った。そのような状況の中、商工中金は誕生し、設立直後から普通銀行には困難な長期・無担保貸付を実現した。こうした背景もあり、商工中金の株主資格は現在でも中小企業組合とその組合員等に限定されている。
商工中金は中小企業専門金融機関で、おおよそ政府と中小企業組合が半数株式を保有する非上場企業である。貸出の9割以上が中小企業向けで、貸出金は9兆6,390億円(2023年3月期)に達している。

商工中金(本店)

また、全都道府県をカバーし、特定の地域や業種に偏ることなく資金を供給。経済危機などが発生した場合にはセーフティネット機能を発揮するなど、メガバンクや地銀、信金、信組とも異なる。

特に、セーフティネット機能の発揮は、商工中金の大きな特徴だ。リーマン・ショックや東日本大震災など経済危機、大規模災害時などは、危機対応業務等により、大きな役割を発揮してきた。

―資産運用勘定残高や貸出金の推移は

2023年3月期の単体財務データでは、危機対応融資の残高は前期比で約1,900億円減少した。一方で、物価高など運転資金の需要が高まり、短期資金(プロパー)を中心に資金を供給し、貸出金残高全体は前期比312億円増えている。
貸出金の使途別残高は、長期運転資金が62.8%、短期運転資金が20.5%、設備資金が16.7%となっている。業種別では、製造業向けが30.1%、卸売業,小売業が28.5%、各種サービス業が15.3%、情報通信業,運輸業,郵便業が13.0%など分散している。不動産や建設業向けは民間の金融機関と比べて比率がかなり低いと思う。住宅ローンを取り扱っていないことや、同分野については地元の金融機関の方が詳しいことがその理由だ。

経営サポート部・宮本氏

―新型コロナ感染拡大当時の業務は

2020年3月より新型コロナウイルス感染症に対する危機対応業務を開始した。4~6月が相談のピークで、新規先の相談割合は6割と高水準となった。
2020年4月に大阪の堺支店長に私(宮本部長)は赴任した。当時はまだゼロゼロ融資が整備されておらず、大量の電話のほか、多くのお客さまが来店した。感染防止対策も必要で、店内で待ってもらうわけにもいかなかった。一旦受付し後日資料を郵送してもらったり、急ぎの度合いを聞き取りしながら対応した。ゴールデンウィーク中も、相談業務を行い、その後、ゼロゼロ融資の開始や民間金融機関にも機敏に対応していただき、相談件数が少し収まった。
特に、新規先の相談割合が急増し、一時的に通常の審査業務に支障が生じた。迅速に本部からの応援体制を敷き、また、リモートワークの環境を事前に整備していたので円滑に対応できたと思う。また、コールセンターや新規先の融資相談センターを設置して相談受付体制を強化できたことも大きかった。動画で相談の受付の流れや事前に必要な書類をホームページで紹介するなど創意工夫して対応した。
商工中金の危機対応融資のうち、新型コロナ関連の累計実績は2023年3月時点で2兆8,037億円となっている。

―コロナ融資の返済状況、支援は

危機対応融資は2020年4~6月実行の3年据え置きの融資が多い。返済開始時期の山は2023年4~6月だ。コロナ融資のうち、条件変更や破たんなどで回収困難となっているものは限定的だが、注視が必要だと考えている。倒産は増えているが、コロナ禍における手厚い資金支援による倒産減の反動も含まれているのではないか。
原材料高や円安などコスト高の影響が出ており、経営改善などのニーズが高まっていくと思う。商工中金では、コンサルティング室の設置などお客さまを伴走支援する態勢を整備している。

―取引先企業の「増収増益ランキング」でトップだった

トップになったと聞いて驚いた。事案ごとにサポートしているので全体的な動静は把握出来ていなかったが、顧客本位での企業支援の効果が出たのではないかと思っている。
事業再生や経営改善の取組みは、PDCAを回しながら金融機関の協調支援体制を構築している。コンサルティング室では、事業再構築(ビジネス・トランスフォーメーション)として、返済緩和や債権売却、メインバンクがいないなど資金調達が困難となっている企業を事業性評価し、成長可能性などを判断する。また、地域の雇用を重視している。エグジットファイナンス(早期再生に向けた融資)を行い、取引のない金融機関とも協調しながら金融取引の正常化を目指している。

メインバンク取引先 増収増益率ランキング

事業性評価は、2018年頃から特に組織的に取り組んできた。高度な事業再生スキームを持つ専門スタッフもおり、中立な立場だけに地域の金融機関と協調支援ができることも強みの一つだ。ファンドや事業再生の専門家などは東京に集中している。商工中金は東京に本部があるため、ハブ機能を活かしてビジネス・トランスフォーメーション支援に今後も積極的に取り組んでいきたい。

―本業支援の勉強会を開催

コロナ禍で窮境に陥った業種をメインに集中的なサポートを実施している。金融だけではカバーできないことも多い。そのため、経営状況を可視化するため勉強会やセミナーなどを開催している。
勉強会では、経営者に質問すると答えられないことが多い。この答えられないことが重要で、これまでやってこなかったということを気づいてもらう機会を提供している。このような非金融の部分もサポートし、経営者の意識やガバナンスの向上にも注力している。
本業支援の実例として、熊本県南小国町の黒川温泉観光旅館協同組合に加盟する次世代旅館経営者とセミナーを3回開催した。小規模な旅館が多く、管理会計って何ですか、から始めた。毎回、課題を設定し、損益分岐点分析などを勉強しようという行動が重要で、そういう気づきの機会を作ることを大切にしている。
また、勉強会の後半には地域金融機関の方も同席し、地域の連携も生まれる。経営者の気づきから組織が変わり、その結果、収益が変わってくることを期待している。

―事業性評価を深化させる取組み

2018年から事業性評価の知識を共有しようという目的で、個人またはチーム単位で参加する「Vレポ甲子園」という自主参加の全国大会を開始した。Vレポはバリューアップレポートという事業性評価の報告書で、各地ブロックで予選会を行い、本選には社長以下、役員も参加し優勝者を決める。イベントを過去6回行い、現在は集合研修や各営業店毎の取組みに移行しているが、新人などが事業性評価に取り組む良い契機となっている。
また、「ZK(全員経営サポーター)計画」という取組みも行っている。本業支援のスキルを向上させることを目的に、3カ月間、営業担当者と本部審査担当スタッフがチームとなり事業性評価の訓練を集中して行う。
コロナの影響が大きかった地方の老舗旅館の事例では、作成した事業性評価レポートを社長や取引金融機関に説明。取引のある地域金融機関と意見交換やノウハウを提供し、協調体制を強化することができた。

左から阿童氏、吉田氏、田邉氏

(続く)

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2023年11月15日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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