商工組合中央金庫 経営サポート部インタビュー(後編) ~ 民営化後も中小企業に寄り添うことを約束 ~

―経営改善の実例は

年商10億円の自動車部品メーカーは、取引先との関係を重視した不採算取引で赤字が続き、債務超過だった。経営改善に向け計画策定支援を実施し、製造部品ごとの採算分析の必要性を経営者に説明。部品別の採算管理表を社長自ら策定し、多くの部品が赤字受注であることが判明した。取引先へ単価値上げ交渉を行い、黒字化見込みに改善した。
採算管理表を基に、受注を止めれば黒字になることを、当金庫の担当者も同席し、同社の取引先へ論理的に説明した。固定費削減等、自社努力を徹底的に行った上でも、なお赤字であるというファクトを、フィーリングではなく数字でしっかり示すことが重要だった。取引先も新たに別の下請け先を探すことは難しく、数値で示される論理的・合理的な状況・背景が把握できれば値上げに応じるという思考・結果に繋がった。
金属プレスや射出成型など金型を使う部品メーカーは、型代金の長期分割受領や量産が終了した金型の保管等の悩みを抱えているケースがある。経済産業省においても、型管理を重要テーマの一つと位置付け、改善のための支援策を行っている。こういった情報をお客さまにお届けし、自社の課題に気づいていただき改善に役立ててもらっている。
財務諸表の異常値から経営課題を浮き彫りにして解決へのアプローチを見つけることもできる。メインバンクや他の金融機関と課題を共有し、連携しながら改善していきたい。
分厚い事業改善計画書を渡すだけでは経営の本質は変わらない。伴走支援という言葉があるが、お客さまと正面で向き合うのではなく、経営者の真横に座り、経営の課題やビジョンを一緒に考え、一緒に実行していくことが本当の伴走支援だ。経営者が気づき、考え、行動し、組織が変化する、そしてこれらのプロセスの結果として業績が改善することが重要だと考えている。

ファイナンス本部経営サポート部

―貸出利回り、貸出金利の見通しは

貸出金利回りは、下げ止まりの状況が継続している。これはリスクに見合った金利設定をしているためだ。長期貸出の利回りは2020年9月には1.05%まで低下後、緩やかに上昇し2023年3月は1.07%となっている。
日米の金利差が拡大し長期金利も上昇している。予想は難しいが、金利が上昇する可能性は当然、考えないといけない。

―取引区分の現状、与信費用の推移は

2023年3月期の自己査定の取引先区分別残高で、要注意先は3兆7,677億円で、構成比38.5%だった。前期と比べると約3,300億円減少し、比率も低下している。ただし、取引先企業の財務状況は二極化しており、要注意先のうち要管理先は前期から増加した。コロナ禍の影響が薄れて良くなった企業もあるが、改善が進まない企業もある。
倒産も増加傾向で、十分な備えを講じるため、引き続き予防的な引当を実施した。

―中期経営計画について

2022年度から2024年度までの3年間を計画期間とする中期経営計画を策定している。中長期的な視点で伴走支援していくために「サービスのシフト」「差別化分野の確立」「商工中金自身の企業変革」の3つの主要戦略を策定し、新たに「スタートアップ支援室」「ファイナンシャル・デザイン室」「コンサルティング室」を設置した。
サービスのシフトは、中小企業が抱える経営課題が多様化・複雑化していることに対応するため、財務診断などの情報サービス、人材提供などの人財サービス、ストラクチャードファイナンス等の高度金融サービスを強化している。
差別化分野の確立では、企業のライフステージ毎の課題に着目し、スタートアップ支援、サステナブル経営支援、事業再生支援の3つの領域を強化している。
最後の企業変革は、企業理念を基軸に新しいチャレンジを育むべく組織風土改革などに注力している。

―商工中金法改正、民営化で変わることは

セーフティネット機能は商工中金のDNAであり、今後も当然に発揮していく。もちろん危機対応業務も引き続き担っていく。中小企業組合や中小企業に寄り添う姿勢を将来にわたって約束すべく、2023年6月に企業理念を定款に規定した。
一方で、改正商工中金法によりコロナ禍からの地域経済再生を目的とした業務範囲の見直しが行われる。商工中金本体に加えて、子会社を活用したより広範なサービス提供が可能となる。例えば、再生支援や事業承継支援のための出資などだ。
商工中金はこれまで同様、安心して取引してもらうために「3つのお約束」を掲げた。1.中小企業のための金融機関という根幹は変わりない。2.引き続き、危機対応業務は継続。3.従来型の金融を超えた複合的なサービス提供に励んで、民営化後も商工中金らしさを継続し、お客さまを支え続けていく。

左から経営サポート部・吉田誠主任調査役、阿童嘉弘クレジットオフィサー、宮本達郎部長、広報部・田邉丈実主任調査役


商工中金の民営化には、民業圧迫を懸念する声もある。だが、商工中金はノルマを廃止し、また、地域金融機関との連携を志向している。
改正商工中金法でも民業圧迫の回避規定と民間金融機関との協業規定が措置されている。地域経済再生のためには商工中金と地域金融機関との連携が欠かせない。リスクマネーを供給することで地域金融機関と連携し、経営改善などのノウハウを共有しながら課題改善に努める意向だ。
日本と中小企業の未来に向けた変化を、力強く支える役割が商工中金には期待される。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2023年11月16日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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