社員の退職は会社も痛手 県内事業所、介護との両立を模索 休業増は人繰りに懸念も

介護休業の申出書を示す猪瀬社長。社員の取得をサポートしている=11月上旬、小山市乙女

 介護離職を減らそうと、栃木県内の事業所などが環境改善に取り組んでいる。小山市の事業所では、介護を理由に社員が退職を申し出たことを機に、介護休業を取得しやすい環境を社内で整えた。また、日本介護支援専門員協会(東京都)が2022年度に創設し、企業に助言などを行う新たな認定資格を取得する動きも出ている。仕事を辞めずに、いかに介護と両立したり、介護に専念したりできるか。関係者の模索が続く。

 井戸の工事などを請け負う小山市乙女の「トチナン」。猪瀬修(いのせおさむ)社長(53)は2年前の出来事を思い起こす。

 「退職しようと思っている」。ある男性社員から相談を受けた。要介護認定を受けた親族がおり、在宅介護に専念するためだった。

 「退職しても生活できるのか」。猪瀬社長が問いかけると、男性がぽつりと漏らした。「会社を辞めたら食べていけなくなる」

 就業規則には介護休業や支援制度が明記されていたが、利用者がいなかった。相談をきっかけに、猪瀬社長は担当部署や社会保険労務士とともに、介護休業取得に向けた準備を開始。社員に周知し、理解を求めた。男性は介護休業を取得した初の社員となった。

 「経験と技術がある社員が退社するのは痛手。少子高齢化の中、家族を介護しながら働く社員も増える。社員を支える取り組みが必要だ」。猪瀬社長はそう強調する。一方で今後、複数人が介護休業した場合のやりくりの懸念も口にした。

 県が22年9月に県内の766事業所を対象に行った労働環境等調査によると、介護休業に関する規定がある事業所は前年比2.9ポイント増の83.4%。しかし、利用者は29人にとどまった。調査結果について、栃木労働局の担当者は「収入を保つなどの複合的な理由があり、利用を控えているのかもしれない」と分析する。

 一方、介護離職問題に直面する企業を支援しようとする動きも出ている。

 日本介護支援専門員協会の認定資格の「ワークサポートケアマネジャー」は、企業の特性を踏まえた介護離職予防プログラムの策定や社員の個別相談支援などを行う。10日現在、全国で112人、県内では3人が資格を取得した。

 NPO法人とちぎケアマネジャー協会の大山典昭(おおやまのりあき)会長(56)は「企業の取り組みは社員や家族を守ることにつながる」と指摘。「一歩踏み出したところ。今後の活動を見守りたい」と資格取得者に期待を込めた。

© 株式会社下野新聞社