【リニア】会見でも言及なし!川勝知事が頬かむりするJR東海への「風評加害」問題|小林一哉 虚言、妄言、ごまかしばかりの「川勝劇場」。そして、自分自身に不利なことは決して言わない。JR東海への風評加害もその一つだ。

繰り返される嘘、ごまかし

岸田総理宛の意見書を読み上げた川勝知事の1月24日会見(静岡県庁、筆者撮影)

「リニアは静岡県に何のメリットもない。デメリットだけである」
「370万人の県民に何のメリットもないリニア新幹線など静岡県には要らない」

こう川勝平太知事が何度も吠えたのは、静岡県のリニア騒動が始まった2017年冬のことである。

ところが、岸田政権が発足した直後の2021年10月6日の会見になると、川勝知事は「リニアに対して、一度だって反対したことはない。

のぞみ機能がリニアに移ると、ひかりとこだまの本数が増える。従って、リニアは静岡県にとってメリットがある。だから、一度だってリニアに反対していない」などと自信たっぷりに述べている。

この2つの発言は、全く同じ人物の口から出ている。真逆のことを言っているから、別人の発言かと錯覚してはいけない。

静岡県HPにある知事会見の議事録を読み返せば、間違いなく川勝知事本人の発言だとわかる。
いろんな場面に合わせて都合のよいことを言うから、過去のことなど覚えていない。これを「二枚舌」だと厳しく批判しても仕方ない。そのような性格なのだ。

これぞまさしく、「川勝劇場」である。筆者は何度も「川勝劇場」に立ち会ってきた。川勝知事はいろんな嘘やごまかしを繰り返す。だんだん驚かなくなるから不思議だ。

2021年10月6日会見の前段で、岸田首相がリニア推進を指示したことに、「(岸田政権が)静岡県の流域住民に宣戦布告した」と言った。「宣戦布告」されたら、ふつうならば驚くだろう。

それだけではない。「静岡県民の神経を逆なでする」「いきなりぶん殴られた」などと、県民たちがこぞって川勝知事に言ってきたというのだ。

本当なのかと疑ってはいけない。川勝知事の頭の中で、県民たちが怒っているのだ。これも「川勝劇場」の一場面に過ぎない。

川勝知事が頬かむりした間違い

ただ「川勝劇場」では、自分自身に不利なことは決して言わない。相手をこきおろすだけで、本人の間違いは棚に上げてしまう。

今回、リニア推進の岸田首相の指示で、リニア開業による東海道新幹線の利便性向上に伴う静岡県のメリットがとりまとめられた。

報告書の内容は、ひかり、こだまの本数が増えて現状の1・5倍程度になり、地域にもたらす経済波及効果を1679億円と試算、雇用効果は年約15万6000人を生み出すとしている。

リニア開業によって、新幹線利用者が3割程度減ることを想定して、さまざまな数式を使って具体的に試算した。2021年10月6日の知事発言を踏まえれば、この結果に驚くものはないが、妥当である。

ところが、10月23日の会見で、川勝知事は、国交省鉄道局に対して、「算数の計算を子どもにさせるようなもので大官僚組織がやるほどのことか」と憤慨した上で、「お粗末であきれている」とこきおろした。
ふつう社会常識を持った政治家はそんなことを言えるはずがない。「川勝劇場」だから許さるのだろう。

ただマスコミ報道は川勝発言をもっともらしく伝えるから、信憑性があるように思い込んでしまう。多くの人は実際のところはわからないのだ。

今回の報告書に関して、川勝知事のほうからは何も言わなかったが、決して忘れてはいけない間違いを紹介する。

川勝知事が2023年10月23日送った岸田首相宛の意見書の重大な間違いについてひと言も口にしないことだ。

岸田首相の「リニア開業後の静岡県のメリットを出せ」という国交省への指示に対して、川勝知事の意見書は、2027年品川・名古屋間を開業した場合、ひかり号、こだま号の大増発はムリだから、静岡県にメリットはないなどを県民にわかるように説明するよう求める趣旨のものだった。

JR東海への「風評加害」

それだけでなく、2027年開業を困難にしているのが、静岡工区の未着工ではなく、他の懸念する6事案があることを指摘、それらを解決するJR東海の方策について岸田首相の回答を求めているのだ。

その中に、『JR東海の長期債務残高「6兆円」問題』というタイトル事案が登場している。
そこにはこう書いてある。
〈JR東海は、(2010年)中央新幹線小委員会で「長期債務残高を『5兆円以内』とすることが適切かつ必要」とし、「長期債務残高『6兆円』を想定すると、ピークの年には新規・借換を合わせて1年間で1兆円を超える調達が必要になる。こうした多額の調達は現実に極めて難しい」と表明した。
しかし、現在のJR東海の長期債務残高は健全経営の限度「5兆円以内」を優に超えている。国に提出した事業計画とは明らかに異なる事態で、政府による検証が必要である〉

つまり、現在のJR東海の経営があまりにも危機的であると糾弾した。

それどころか、川勝知事は2022年12月27日の会見で「6兆円になる債務、長期債務残高ではやっていけない。ところが、(現在)6兆円になっています」と述べたのに続いて、2023年1月11日には「長期債務残高が5兆円以下なら体力が持つ。

しかし6兆円になったらもたないと(JR東海は)国交省に正式な文書で言っている。現在6兆円です」、「借金が6兆円ありますからね。長期債務残高が。そういう中でどうやっていくのか」など「JR東海の長期債務残高6兆円」を連発した。

ところが、実際は、現在公表しているJR東海の長期債務残高は「4・94兆円」。そのうち、「3兆円」は元本返済30年猶予、超低金利の財政投融資の債務であり、コロナ禍だったにも関わらず健全経営を保っていた。

つまり、意見書は、川勝知事の間違いをそのまま記載してしまったのだ。「風評被害」を引き起こす犯罪行為に等しい間違いである。

川勝知事の連発した「6兆円」を鵜呑みにして、担当者らは公開されているJR東海の財務諸表をちゃんと確認しなかった。筆者の指摘で、ようやく気がついたのだ。

県庁職員たちが「算数の計算ができない」のかどうかはわらかないが、こういうことをふつう「お粗末であきれる」と言うのだ。

「お気の毒」な川勝知事

財投資金3兆円は、当時の安倍晋三首相の指示で、2016、17年の2カ年で投入された。これで長期債務は5兆円近くまで一気に膨らんだが、品川・大阪間の開業を8年前倒しするために投入されたものである。
品川・名古屋間の開業後に、名古屋・大阪間のリニア工事に早期着手させる趣旨で、30年間元本返済猶予でリニア開業後に元本返済という非常に有利な債務であり、利子負担も非常に軽く、経営を圧迫するものではない。

この重大な誤りだけでなく、悪意に満ちた川勝知事の意見書はJR東海の経営状況が危機的であると周囲に思わせるものばかりだ。

それを岸田首相宛に送っただけでなく、すぐに、そのまま静岡県ホームページに公開してしまった。
当然、担当者が衆院議員会館の岸田事務所を訪れ、訂正書を手渡した。岸田事務所は即、ごみ箱に捨ててしまっただろう。

10月23日の会見で、記者から「今回の報告書内容で、岸田総理に何らかの意見書を出すのか」と問われると、川勝知事は「手紙を差し上げる考えはない。これほどお粗末なものを出してきたのでは、岸田総理がお気の毒だ」などと述べた。

気の毒なのは誰なのか?職員たちは、こちらから何か言えば、恥の上塗りになることを恐れたのだろう。

川勝知事は自身の重大な間違いを訂正した上で、JR東海にちゃんと謝罪してもいないのだ。

それなのに、相手には厳しく、それも悪口ばかり言うのは平気なのだ。

そんな「川勝劇場」をちゃんと理解できれば、虚言、妄言、ごまかしばかりがちゃんと見えてくる。そろそろ静岡県民たちも気がついたほうがいい。

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小林一哉(こばやし・かずや)

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