職場の飲み会、頭にワカメ 頭髪の薄さいじられ、笑って受け流しても…「じりじりと心がすり減るよう」

ふと考える。「薄毛への風当たりは、なぜこんなにも厳しいのか」=神戸市内

 40歳代から頭髪の薄さをやゆされ、その場は笑って流すも人知れず傷ついた経験あり。日本人は「ハゲ」に厳しすぎると思います。もっと寛容にならないものかと思ったことが何度となくあります(ルッキズムを巡るアンケートの回答)

 

 神戸市に住む会社員の足立則夫さん(仮名、60代)の頭髪は、おでこの生え際から後退していった。今は横の髪を頭頂部にかぶせるようにしている。

 「いわゆるバーコードってやつですね」

 それほど自覚がなかった頃。いくら探しても、写真に自分の姿が見当たらない。確実にその場にはいたはず。しばらくして、後ろ姿が映っていることに気がついた。「これか…」。まさか自分だとは思わないくらい、髪が薄くなっていた。

 職場で「少なくなってきたな」「薄いぞ」と言われるようになった。自席でデスクワークをしていると、後ろを通った上司に頭をなでられた。日光や照明を背に受けると「透けてるぞ!」と同僚に笑われた。

 「冗談というか、じゃれあいというか、そんな雰囲気ではあるんですけどね」

 職場の飲み会。会話に集中していたら、頭がひんやりした。ワカメがのせられていた。刺し身と一緒に盛られていたものだろうか。「こらこら」となだめるように言い、受け流した。ワカメは、そっとテーブルの上に置いた。

 「真剣に怒るのも大人げないかな」と思う。場の空気を壊すのも気が引ける。だから、いくらからかわれても笑ってやり過ごすようにしてきた。

 「みんな、私なら許してくれるという前提なんでしょうけど。そうやって笑っていたら、増長していくものなのかもしれませんね」

■育毛剤

 

 日常的になった「ハゲいじり」。それほど重く受け止めることはない。とはいえ、ノーダメージかというと、そうでもない。

 「なんとなく、心がボディーブローを受けているようでした」

 自宅に帰ると鏡の前に立ち、ブラシで頭皮をマッサージした。刺激を与えられるよう、毛先が少し丸くなっている。続けて、優しくたたくようにボトルを押さえつけ、育毛剤を頭皮に染みこませる。

 なじみのバーのマスターから教わった育毛法だ。実際に髪が増えたらしい。淡い期待を胸に育毛剤を買った。1本3500円くらいした。「けっこう高いんですよね。すぐになくなるんですけど」

 いくら育毛剤をつけても、髪が増える気配はない。鏡に映る自分の姿に切なくなり、「不毛なことしてるのかな」と一人でおどけてみる。結局、半年くらいで育毛剤はやめた。

 「そらね、急激に生えてくることはありません。もっと長く続けていたら効果もあったのでしょうか」

■「ハゲのおっさん」

 社内を見渡すと、薄毛に悩むのは自分だけではなかった。部下は数十万円を費やして増毛した。とつぜんカツラをかぶって出社してきた上司もいた。

 そもそも、なぜ薄毛に対する風当たりはこんなにも厳しいのか。最近は美容の一環で脱毛をする人が増えていると聞く。広告もよく目にする。つい、考えてしまう。

 「みんな体毛は減らすのに、なんで頭はつるつるやったらあかんねん」

 自身の頭髪を通じ、多様性という言葉に思いを巡らせてみる。年齢も経験もずいぶんと重ねてきた。今思うのは「全部個性でいいやん」ということ。薄毛も一つの個性だと捉えてはもらえないものだろうか。

 最近、率先してからかってきた先輩の髪が薄くなってきた。「ざまあみろ」と指摘すると、先輩は「おまえには絶対に追い付かへんからな」と応じる。そんな掛け合いは、2人の人間関係の上に成り立つものなのだと思う。

 自虐ネタを言ってみたこともある。年の離れた後輩と距離を縮めたくて、自らを「ハゲのおっさん」と称し、失敗した。相手は明らかに反応に困っていた。

 「個性を押し付けるのもよくないな、と反省しました。それはそれでハラスメントにもなりかねないし、控えた方がいいですよね」

 薄毛との付き合い方は手探りが続く。

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 神戸新聞のシリーズ「すがたかたち ルッキズムを考える」では、容姿を巡る体験談やルッキズムに対する考えを紹介しています。私たちはなぜ、人の容姿にあれこれと口を出してしまうのか。なぜ、見た目がこんなにも気になるのか。どうすれば傷つけてしまう前に立ち止まることができるのか-。そんな問いについて考えながら、見た目にコンプレックスを抱く「当事者」らにお話をうかがいました。(大田将之)

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