ザ・ローリング・ストーンズが60年代を総括した名曲

ザ・ローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)が、18年ぶりとなる新作スタジオ・アルバム『Hackney Diamonds』の発売を記念して彼らの名曲を振り返る記事を連続して掲載。

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ザ・ローリング・ストーンズのアルバム『Let It Bleed』は、1969年12月5日にリリースされた。これは、ヒッピー時代に芽生えた「平和と愛」の理想主義が崩壊していく状況にぴったりのアルバムのように思えた。

このアルバムを締めくくる最後の曲「You Can’t Always Get What You Want(無情の世界)」は、もともとはミック・ジャガーがアコースティック・ギターを弾きながら作ったささやかな曲だった。しかしこの曲は象徴的で音楽的なメッセージとなり、重大な転機となった1960年代の終わりを総括することになった。

「そんなことをしたら、お笑い草だ」

この曲は印象的なメロディだったが、それだけにとどまらない内容を持っていた。ミックは、この曲が世間の人々の心に響いたのは誰もが共感できるメッセージ「自分の望みがいつも叶うとは限らない」を含んでいたからだと語っている。

「You Can’t Always Get What You Want」は、正式なレコードの発表よりも前の1968年12月、BBCのテレビ特番『The Rolling Stones Rock And Roll Circus』の中で生演奏が初めて披露された。

この曲のレコーディングは、その数週間前にロンドンのオリンピック・スタジオで行われていた。その際コーラス・アレンジャーのジャック・ニッチェが、ロンドン・バッハ合唱団をバック・ヴォーカルに使うことを提案。そのアイディアに対して、ミックは「そんなことをしたら、お笑い草だろう」と返した。

とはいえ結局ミックも、この少々ふざけた名曲の最終的な出来上がりに満足することになった。60人の合唱団員の神々しい歌声は、さらに多くの歌手がいるかのような雰囲気を出すため、ダブルトラックで重ねられた。しかしこの共演は後味の悪い結果に終わった。というのもこのアルバムが『Let It Bleed』というタイトルであり、収録曲の中に連続殺人犯をテーマとした「Midnight Rambler」という曲があることを知ったロンドン・バッハ合唱団が、自分たちの名前をアルバムのクレジットから外すように要求してきたのである。

「ミックは自分が何をしたいのかわかっていた」

「You Can’t Always Get What You Want」でキーボードとフレンチ・ホルンを担当したアル・クーパーによれば、ミックはこの曲でプロデューサーのジェームス・ミラーと緊密に協力し、 アーティスティックな面での主導権をかなりの程度まで掌握していたという。クーパーは「ミックは自分が何をしたいのかわかっていたし、ありとあらゆることをやっていた」と語っている。

このレコーディングでは、気まぐれに変化する曲のテンポにチャーリー・ワッツが不安を感じたため、ミラーがドラムを叩くことになった。さらにビル・ワイマンがベースを弾き、ロッキー・ディジョンがコンガ、マラカス、タンバリンを叩いている。またバック・コーラスは、マデリン・ベル、ドリス・トロイ、ナネット・ニューマンが担当している。

ちなみにこの曲の中で名前が挙がっている”チェルシー・ドラッグストア”はロンドンのキングス・ロードにあった実在のパブで、後にスタンリー・キューブリックが映画『時計じかけのオレンジ』の撮影に使用している。

「You Can’t Always Get What You Want」の5分間に短縮されたヴァージョンはシングル「Honky Tonk Women」のB面として1969年7月4日にリリースされ、米チャートで最高42位を記録した。また7分半のフル・ヴァージョンは、デッカ・レコードからリリースされた『Let It Bleed』に収録されている。

この曲は2016年に再び話題を呼んだ。この年、ドナルド・トランプが大統領選挙キャンペーンの中でこの曲を使い始めたのである。ザ・ローリング・ストーンズは自分たちの曲を使うのをやめるようにトランプに求めたが、彼らの要求は無視された。なるほど確かに自分の望みがいつも叶うとは限らないのである。

Written By Martin Chilton

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最新アルバム

ザ・ローリング・ストーンズ『Hackney Diamonds』
2023年10月20日発売

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