注目俳優・水上恒司「こういう役がやりたい、という欲がない」

2021年の大河ドラマ『青天を衝け』に出演し、『望み』などの3作品で『第44回日本アカデミー賞』新人俳優賞を受賞。2022年には、岡田健史から改名、本名で活動している水上恒司。2023年も、福原遥とのW主演作『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』の公開を控え、さらには連続テレビ小説『ブギウギ』にヒロインの相手役として出演するなど、まさに破竹の勢いで出演作を重ねる。さらには、品川ヒロシ監督の最新作『OUT』(11月17日公開)にも出演。重要キャラクター・安倍要を演じる水上に話を訊いた。

俳優・水上恒司

取材・文/華崎陽子 写真/木村正史

◆「どう反応できるか。瞬発力の方が大事」

──この映画『OUT』は、品川監督の自伝小説の後日譚を描いた実録物語が原作です。不良を題材にした映画はたくさんありますが、水上さんが出られるのは意外でした。

僕は、こういう役をやりたいというのがないんです。それは、デビューから恵まれていて、お仕事をいただけていたことが関係しているかもしれませんが、こういう役がやりたいという欲がないんです。巡り合った役に対してどう反応できるか。その瞬発力の方が大事だと思うので、不良に対しても近いとも遠いとも思ってませんでした。

映画『OUT』のワンシーン ©2023『OUT』 製作委員会

──暴走族の副総長という役に、どのように反応しようと考えられましたか?

見栄を張って生きてる少年たちに憧れる時期というのは、男の子なら少なからずあると思うんです。僕の実生活ではなかなかできなかったので、そういう意味では青春を取り戻せると思いました。

以前、『望み』でご一緒したプロデューサーから「この役をやってほしい。期待してる。やれるか?」と言っていただけて、僕のイメージに合った役ではなく、「髭面で老け顔の安倍要」を提案していただけたことがうれしかったです。単純に、その思いに応えたいと思いました。

──品川監督の演出はいかがでしたか。

僕はアクションができないので、そこでの演出はありました。僕のなかでは苦し紛れのOKだったという感覚がありますが、やれることはやったので後悔はないです。芝居に関してそこまで細かい演出はなかったのは、安倍要の像が僕と品川監督の間で共有できていたのか、のびのび自由にやらせていただきました。

これまでもいくつか原作のある作品に出演させてもらっていますが、二次元の作品を実写化するときは違っていいと思うんです。原作もいいけど実写もいいと思ってもらうために、実写ならではの良さを作っていきたい。だから、台本に書かれていることから脱線せずに成立するのであれば、何をしてもいいと思いました。

映画『OUT』のワンシーン ©2023『OUT』 製作委員会

──安倍要というキャラクターを具現化するにあたり、どのように考えられたのでしょうか。

まず、要の家族構成や兄弟やバイトのことなどを想像しました。要は、友人や将来のこともちゃんと考えているような人物じゃないかと。僕が、この中で一番、会社などの組織に欲しいと思うような人物像を作っていきました。

品川監督と初めてお会いしたときに、「水上くんって、やさしい顔してるね」と言われて。僕に要ができるのか心配しているように感じました。そのときに品川さんが、渡辺満里奈さん演じる達也のおばちゃんに「要くん、喧嘩するのはいいんだけど、達也を巻き込まないでね」と言われたときの要が大事なんだとおっしゃっていて。

──あのシーンは、倉悠貴さん演じる井口達也と要の関係性もあって、グッとくるものがありました。

あのシーンを受けて、要は達也を巻き込まないようにしていくんですが、実はみんな思ってるんですよね。でも、それは要の仕事だと。要は、『OUT』に登場するキャラクターのなかでもベクトルが違う気がして。僕のなかでは裏社会不適合者というテーマを掲げていました。

──裏社会に適していない、と。

この社会で生きるにはあまりにも正しすぎるというか。だから、ナンバー2なんだろうな、と。それが要という人物を作っていくに当たって大事な要素でした。

◆「この映画は痛みや理由を伴っている」

──本作において、水上さん演じる要にとっても重要な人物のひとりである、暴走族総長の「あっちゃん」を演じた醍醐虎汰朗さんのカリスマ性には驚かされました。一般的には、爽やかなイメージですが。

彼の持っている身体能力があってこその「あっちゃん」だったと思いますし、彼にしかできないと思います。冷徹さや残酷さを可愛さの陰に隠して、仲間たちになんでもない顔で接しているのは不気味ですよね。

──不気味というか、キレたときの表情はめちゃくちゃ怖かったです。

要の反応があっちゃんを印象付けると思ったので、そこはすごく意識しました。醍醐くんの素質だけで、あっちゃんのヤバさを表現できたのは、彼を信じられたからだと思います。また、原作(作画)のみずたまことさんが、『OUT』のヒロインは安倍要だとおっしゃっているように、あっちゃんと達也、要の三角関係みたいなものも考えながらやっていました。

映画『OUT』本予告

──完成作を観てどのように感じられましたか。

面白いと思いました。これから公開を迎えるにあたって、ドキドキする反面、自信もあります。品川監督とスタントコーディネーターの富田稔さんが、「アクションをダンスにしたくない」とおっしゃっていて。

殴るときの拳や手のひらの痛みに、殴る理由や感情を乗せていかないと、ただのアクション映画になってしまう。でも、この映画は痛みや理由を伴っている。だからこそ、僕はこの映画を観ていて飽きないんだと思いました。

──最後の抗争でも、仲間を思う気持ちがアクションに乗っているように感じました。

でも、よくよく考えたらみんなアホなんですけどね(笑)。結局、喧嘩の原因はくだらないことなんです。そのくだらないことをカッコつけてやっているのが面白いんだと思います。

──確かに、チームの面子のことしか考えてませんからね(笑)。

でも、大人になればなるほど、それだけでは生きていけない。だからこそ、大人がいいなと思ったり、くだらないと思ったり。それと同時に、こういう風に生きていくのが男なんだと思っちゃうバカな子どもたちがいるわけです。

世代や性別など、人によって受け止め方が異なるのがこの映画だと思います。地方を回ってやんちゃそうな観客を見たら「調子乗んなよ」と言っていかなきゃいけないと思ってます(笑)。一方で、そういう風に生きられる彼らが羨ましい気持ちもあります。

真摯な姿勢でインタビューに応える水上恒司

──12月に公開される映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』もそうでしたが、水上さんは抑制の効いた演技が印象的です。どのようなことを意識して演じてらっしゃるのでしょうか。

こう言うと誤解を招くかもしれませんが、僕は芝居しながら感情が動くことがないんです。大事なシーンを初日に撮影する現場もあって。それで相手を好きな感情を抱けと言われても無理なんです。そのキャラクターがなにを感じているのかを理論的に理解していないと、「現場で考えるな、感じろ」だけでは歯が立たないときがあるんです。

──なるほど。

『あの花~』では、彼の心では感情が渦巻いていても、それを出したりしません。それでも、その感情を考えながらやることが大事だと思いました。抑制しようと思って演じたわけではなく、心のなかでは動いていることを忘れないで、彼に寄り添いながら作りました。そうやって積み上げたものがどこかのシーンで爆発するのが、役者が快感や幸せを覚える瞬間だと思います。

◆「ホントに悪戦苦闘してます」

──『OUT』では、どの場面で一番喜びを感じられたのでしょうか。

声は音楽で消えていますが、エンドロールにみんなで乾杯するシーンがあって。そこで「俺はあんなもんで死ぬわけねぇだろ」と言ったときですね。あそこは最後の方の撮影で、台本もなくて「乾杯してください」と品川監督に言われただけだったので、そこまで積み上げてきたものが出たんじゃないかと。

──アドリブですか?

アドリブです。そこまで積み上げてきたものがあるからこそ、みんな動けるんですよね。

映画『OUT』のワンシーン ©2023『OUT』 製作委員会

──エンドロールで続編を予感させるような描写もありましたが、どのように感じられましたか?

公開されて、反響や興行収入が生まれてから「もう1回やりたい」と言うのは簡単だと思うんです。そうではなくて、僕は完成作を観た瞬間に、単純にまたこの人たちとお芝居したいと思いました。純粋に楽しかったので、品川監督をはじめ、関係者の方たちに「続編やりたいですね」と言い続けたいと思います。

──余韻を残すいい終わり方だったと思います。

確信犯ですよね、ずるい(笑)。あれが品川監督の技法です。

──現在、放送中の『ブギウギ』についても聞かせてください。大阪弁での演技はいかがですか?

しんどいです。自分が今、なにをしゃべっているのかわからなくなりますね。僕が加えたいニュアンスと、音の感覚が違うので。必死でやっています。

朝ドラ『ブギウギ』では、趣里演じるヒロインの最愛の人・村山愛助を演じる水上恒司

──水上さんは九州出身ですが、標準語にするのはいかがでしたか?

それも全然違いますが、標準語はそんなに抑揚がない。でも、大阪弁だと、さっきはこの使い方だったけど、文法によって音が変わったりするので。方言指導の方に「あんねん、そういうのが」と言われて、「ふざけんなよぉ」と思いました(笑)。さっきはこうだったのに、ここになったら、頭にアクセントがくるとか。もう深く考えるのをやめました。ホントに悪戦苦闘してます。しばらくの間、大阪弁の役は嫌だと思っちゃうかもしれないです(笑)。

──それぐらい難しいんですね。

言葉に囚われると、芝居をやってるときに「あれ? 今のまずかったんじゃないかな?」と考えてしまう。その時間があればあるほど、気を抜いたことになるし、動揺してしまうので。言葉に囚われずに100%で現場に立つべきなんですが、とはいえ、もう1回やりたくない思いもあって。非常に葛藤してます。鍛えられてますね。

映画『OUT』
品川監督の自伝小説および映画『ドロップ』の後日譚を映画化。少年院から出所した「狛江の狂犬」と恐れられた主人公・井口達也が、地元から遠く離れた親戚のもとで働き始めるも、暴走族「斬人」副総長の安倍要との出会いによって、壮絶な更正生活を送ることとになる。出演は、倉悠貴、醍醐虎汰朗、与田祐希(乃木坂46)、與那城奨(JO1)、大平祥生(JO1)、金城碧海(JO1)ら。11月17日公開。

映画『OUT』

2023年11月17日公開
監督:品川ヒロシ
出演:倉悠貴、醍醐虎汰朗、与田祐希、水上恒司、ほか
配給:KADOKAWA

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