『世界の車窓から』のナレーションを担当する、俳優・石丸謙二郎さんが見た車窓

車窓では、いつも何かが起きている

『JR時刻表』2023年12月号(11月20日発売)「十人十鉄」にて、車窓から見える山や、偶然撮影したドクターイエローについて語ってくださった石丸謙二郎さん。誌面に載せきることができなかったエピソードを、フルバージョンとしてお届けします。

『JR時刻表』×トレたび 連動企画です。

仕事と思えないほど楽しい『世界の車窓から』

僕は、もともと声が良くないからって、ナレーションの仕事はほぼなかったんですよ。
あるとき、若いスポーツ選手を応援する番組のナレーションに抜てきされたんだけど、「ガンバレ、コニシキ!」なんて甲高い中学生みたいな声で、毎回スタッフは頭抱えちゃってね。
でも、その番組を見たプロデューサーが、「この人、楽しそうじゃない? 明るくて」と声をかけてくれた。

それが36年前に始まった『世界の車窓から』。毎回、原稿はあるけど収録はぶっつけ本番。
テレビ画面って列車の窓枠と似てるでしょ? 面白いと本気で笑っちゃうし、旅好き、列車好きとしては仕事と思えない。今日は“車窓”の収録があるぞって日は、もう楽しい。

21時間の急行か、試練の扉の寝台列車か

僕自身の車窓の思い出は、18歳の時に大分から上京するときに乗った寝台列車。「土があんなにあるのか!」って驚いたのが、初めて見た富士山だった。
昔はお金がないから、帰省は安い急行〔高千穂〕。東京から大分まで約21時間。長いっ。年末は当然満席で、立ちながら寄りかかれるデッキでみんなぎゅうっとなる。

ある時、そのデッキに入れず、仕方なく座席通路でどんより立ってたら、おじいちゃんが「おまえたちはいいよ。俺たちの時は蒸気機関車で、デッキに腕をひもでくくりつけて、ぶら下がって帰ったんだぞ」って。それ聞いてさすがに頑張ろうと思ったよ。
途中駅で、10人ぐらい降りると交代で座って、また別の駅で「10分休憩です」と声がかかると、みんなで真冬のホームのベンチで寝転がったりストレッチしたりしてさ。

一度だけ寝台列車で帰省した時、知り合いが「これで飯食いな」ってお小遣いをくれたんだ。食堂車で飯が食えるぞって喜んで向かった。
僕の席は、14両編成の14両目。食堂車は5両目だ。1両に扉は4枚ある。スライドするのと、引っ張るタイプのと。食堂車に行くには40枚弱だ! たどり着いたらもうへとへと。カレーライス食って、また行きと同じ数だけ扉を開け閉めし、14両目に戻る頃にはもう腹減ってた(笑)。
2日目の朝、食堂車の窓から別府の山が見えたときはうれしかったね。注文したカレーを食べていたら、突然ご飯が真っ赤になった。鼻血が出たんだよ。故郷の山見て、興奮したんだねえ。

車窓に山がどっどっどっどって近づいてくる

山が好きだからね。大学生になって、さっそく八ヶ岳に行こうと中央本線に乗ったら、韮崎(にらさき)に向かうあたりにカーブがあって、列車が左に傾くわけ。すると、目の錯覚も手伝って、ものすごい迫力で高い山が肩をいからせてる。うお〜! あの山に登りたいって。
それが甲斐駒ヶ岳、通称「山の団十郎」。翌年、登ったよ。素晴らしかった。あのカーブは今もあるはずなんだ。

それから大糸線。松本側から糸魚川方面に行くと窓の左側に常念岳、鹿島槍ヶ岳、五竜岳、白馬岳と残雪をかぶった北アルプスが見える。
窓の向こうから登山の思い出とともに、どっどっどっどって近づいてくる。山って縦走すると稜線(りょうせん)の小さなくぼみも、「あ、あそこだ」ってわかるから、もう窓に顔をへばりつけて見る。

ドクターイエローが撮れた!

新幹線の車窓から富士山を撮ろうとして、すごいものを写したこともあるよ。
17年前、東海道新幹線から夕焼けの富士山を撮りたくて、天気と時間、それから座席を調べて東京駅から乗り込み、窓際にデジカメをセット。当時のデジカメは0.7秒くらいタイムラグがあってシャッターがおりる。いざ富士山が見え、シャッターボタンを押した0.7秒後、ジャン! って黄色いものが通り過ぎたんだよ。

電車好きな友達の子どもに写真を見せたら、「ドクターイエローだよ」って。
それはいつ走るかわからない、出合えたら奇跡みたいな存在。写真に収めるのは夢のまた夢らしい。人間、そうそう奇跡は起きないと思ってるけど、実はいつも何か起きてんだって思ったよ。だって車窓から、夢のまた夢に出合うんだよ!?


偶然撮影した写真がきっかけとなり、テレビ番組の企画で乗車もかなった(安全に配慮して撮影しています)(写真提供=石丸謙二郎)

名ドラマ『仮面ライダー電王』で一人二役

夢のような電車といえば、『仮面ライダー電王』(2007〜2008年/テレビ朝日)のデンライナー、ご存知かな?「時の運行を守る」列車で、その全権を握る謎のオーナー役が僕。
時空を行き来する話だから、セリフが難解なんだ。僕もときどきわからない(笑)。

わからない子どもでも楽しめるようにと、スプーンやステッキで手品っぽいことをするようになったら、これがお父さんお母さんにウケたんだ。「ならもう一人、石丸を出そう」となり、列車が停車するターミナルの駅長が誕生。
駅長の白いタキシード風の制服は僕の希望。キャラクターのイメージは、明るくて屈託のない長嶋茂雄さん。駅長とオーナー二人のシーンでは、僕が僕に入れ替わる。毎回、新たな仕掛けや手品を思いつくから撮影は、すごく大変! でも面白かったなあ。

『仮面ライダー電王』をやってた頃は、近所の子どもたちが、僕を見かけると「オーナー遊んでー」って来るんだ。
「オーナー、行かなきゃいけないんだよ」
「どこに?」
「まず、駅に向かうだろ。電車で東京駅に行く。山手線で池袋に着いたら、西武線で大泉学園てところまで行き、そこからバスに乗る。バス停を降りたらすぐのところ」
「オーナー、大変なんだなあ」
オーナーなのに、どれだけ乗るんだ!(笑)。

ちなみに今、大分に帰る時は新幹線で小倉駅まで行き、乗り継いで全部で7時間くらい。もし文句言う人がいたら、「おまえたちはいいよ。俺たち、昔は21時間かかったんだぞ。しかも10時間は立ってたんだぞ。飯も食わずにだぞ」って言っちゃう。
オーナーもすっかり、おいちゃんになりましたからね!(笑)


石丸 謙二郎(いしまる けんじろう)

1953年大分県生まれ。1978年つかこうへい舞台「いつも心に太陽を」でデビュー。俳優として活躍するかたわら、1987年から『世界の車窓から』(テレビ朝日系)のナレーションを担当。2018年よりNHKラジオ『石丸謙二郎の山カフェ』のパーソナリティーを務める。毎年、30座前後は山に登る。ウインドサーフィン、釣り、墨絵、ピアノ、将棋など多趣味。著書に『犬は棒にあたってみなけりゃ分からない』(敬文舎)など。


著者紹介

さくらいよしえ

大阪府生まれ。日本大学芸術学部卒。月刊誌やWEBで人物インタビューや旅のルポの他、
子ども向けの創作読み物、広告媒体でのライティングなどを執筆。学生時代は、『JR時刻表』を見ながら東京から大阪まで青春18きっぷで帰省していた。
好きな鉄道は祖父母が暮らしていた町を走る山陰本線。

『JR時刻表』2023年12月号 リレーエッセイ「十人十鉄」もあわせてチェック!


JR時刻表2023年12月号

冬の臨時列車 掲載!

巻頭特集は「現代版 あなたに贈るコースガイド」。『JR時刻表』前身の『全国観光時間表』創刊号には旅の行程表が掲載されていました。旅のスタイルや移動手段など、当時の旅と比較して紹介します。また、抽選で300名様にプレゼントする「時刻表60年」オリジナルトレーディングカードセットも必見!応募方法などは誌面をご確認ください。
好評連載中のリレーエッセイ「十人十鉄~だから、鉄道が好き」には、俳優の石丸謙二郎さんが登場します。

【JR時刻表とは】
JR線の全線全駅を掲載。主要駅の構内図、私鉄、国内線航空ダイヤも収録。駅の旅行センター・みどりの窓口でも使われている時刻表です。
見やすい2色刷り/JR6社共同編集/JR6社の主要ニュースを掲載

●本記事はJR時刻表2023年12月号との共同企画です。


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  • ※取材・構成=さくらいよしえ
  • ※掲載されているデータは2023年11月1日現在のものです。

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