「俺のん、でかくて太いらしいねん」
「やっぱり若い子はその方がいいんかなあ」
「俺の性欲は年々増すねん。なんでやろうな」
知らんがな。これらはセクハラ上司2名の発言です。会社は上司に降格処分などを出しました。すると上司は「処分は無効だ」と提訴。
地裁
「処分OK」
高裁
「処分ダメ」
ラストチャンス。
最高裁
「極めて露骨で卑わいな発言だ。処分OK！」
以下、分かりやすく解説します。（弁護士・林孝匡）（海遊館事件：最高裁 H27.2.26）
※ 判決を簡略化した上で本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換しています
登場人物
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▼ 会社
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・水族館を運営する会社
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▼ セクハラ被害者（女性2名）
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・Aさん（29歳くらい）
・Bさん（34歳くらい）
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▼ セクハラ上司（2名）
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・上司C
営業サービスチームのマネージャー
・上司D
営業部課長代理
どんな事件か
この会社では、「セクハラは許しません！」という文書を従業員に配布していました。しかし、2名のオッサンは聞く耳を持たず、1年ほど以下のセクハラ発言をしました。ジンベエザメもびっくりです。
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▼上司Cのセクハラ
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■ 誰も聞いてねー vol.1
Aさんと上司Cが2人で執務室にいたとき、上司Cが自分の不倫話をしました。不倫相手の女性相手の年齢（20代・30代）や職業（主婦・看護師など）の話をして、不倫相手とその夫との間の性生活の話をしました。
■ 誰も聞いてねー vol.2
再びAさんと上司Cが2人で勤務していたとき、「俺のん、でかくて太いらしいねん。やっぱり若い子はその方がいいんかなあ」と言った。
■ 知らんがな vol.1
またですよ。Aさんと上司Cが2人で仕事をしているときに、「夫婦間はもう何年もセックスレスやねん」「でも俺の性欲は年々増すねん。なんでやろうな」「でも家庭サービスはきちんとやってるねん。切り替えはしてるから」と言った。（キャバ嬢に聞いてもらえよって感じです）
■ 知らんがな vol.2
自分の不倫相手らしい女性の写真をAさんに見せた。
■ 寂しくねーYo！
Aさんに対して不倫相手の話をしたあと、「こんな話をできるのも、あとちょっとやな。寂しくなるわ」などと言った。
■ しょーもないクイズ
Aさんに対して、不倫相手が車で迎えに来ていたという話をする中で、「この前、カー●●●してん」と言い、Aさんに「●●●」のところをワザと言わせようとした。
■ ドンマイ
不貞相手から届いたメールをAさんに見せた。そこには「旦那にメールを見られた」と書かれていた。
■ 休憩室でAさんに対し、水族館の女性客について「今日のお母さん良かったわ」「かがんで中見えたんラッキー」「好みの人がいたなあ」などと言った。
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▼ 上司Dのセクハラ
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■ 保護者ヅラすんな
Aさんに対して「いくつになったん」「もうそんな歳になったん。結婚もせんでこんなところで何してんの。親泣くで」と言った。
■ 人としてアカンのはオマエだ
29歳くらいのAさんに対して「30歳は、22〜23歳の子から見たら、おばさんやで」「もうお局さんやで。怖がられてるんちゃうん」「Aさんが来たときは22歳やろ。もう30歳になったんやから、アカンな」と言った。
■ ほかの従業員もいる中で、Aさんに対して「30歳になっても親のスネかじりながらのうのうと生きていけるから、仕事やめられていいなあ。うらやましいわ」と言った。
■ Aさんに対して、「毎月、収入どれくらい。時給いくらなん。 社員はもっとあるで」「お給料全部使うやろ。足りんやろ。夜の仕事とかせえへんのか。時給いいで。 したらええやん」「実家に住んでるからそんなん言えるねん、独り暮らしの子は結構やってる。MP（編注：水族館に隣接する商業施設）のテナントの子もやってるで。チケットブースの子とかもやってる子いてるんちゃう」などと繰り返し言った。
■ AさんとBさんに対して、男性従業員の名前を複数あげて、「この中で誰か1人とゼッタイ結婚しなアカンとしたら、誰を選ぶ？」「地球に2人しかいなかったらどうする」と聞いた。
■ それがオマエだっつーの
セクハラに関する研修を受けたあと、「あんなん言ってたら女の子としゃべられへんよなあ」「あんなん言われるヤツは女の子に嫌われているんや」という趣旨の発言をした。
特に上司Dについては、多くの女性従業員が会社に苦情を出していたようです。上記は氷山の一角で、日々セクハラ発言のオンパレードだったんでしょう。
「あんなん言われるヤツは女の子に嫌われているんや」という発言からすれば「自分は好かれている」とうぬぼれていた可能性もあります。合掌。
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▼ Aさんの優しさ
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Aさんは上司2名から受けたセクハラが一因となって退職します。Aさんは会社に訴えたりすることは控えていたんです。Aさんは派遣社員だったので、派遣元の会社に迷惑がかかることを懸念していたんです。
しかしAさんは、職場に残るBさんや後任者がセクハラ被害にあい続けることを防止すべく、被害を申告しました。
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▼ セクハラ上司の処分
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セクハラ上司には、出勤停止処分と降格処分が出されました。上司は処分の無効を訴えて提訴。
ジャッジ
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▼ 地裁
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出勤停止も降格もOK
上司に鉄槌（てっつい）です。しかし！ 高裁でセクハラ上司が巻き返します。
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▼ 高裁
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どちらの処分も無効です。上司にとって酷すぎる。
〈理由〉
・Aさんたちは明確に拒否する姿勢を示していなかった
・上司たちはそのような発言が許されていると誤信していた
...etc
しかし！ ラストチャンスで会社が大逆転しました。
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▼ 最高裁
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処分はOK！ 理由は以下のとおり。
■ 上司たちは極めて露骨で卑わいな発言を繰り返した。これらの発言は、女性従業員に強い不快感や嫌悪感ないし屈辱感等を与えるもの。職場における女性従業員に対する言動として極めて不適切。執務環境を著しく害する。従業員の就業意欲の低下や能力発揮を阻害する。
■ 上司らは、セクハラ研修を受けていただけでなく、管理職としてセクハラの防止のために部下を指導すべき立場にあったにもかかわらず、派遣労働者の立場にある女性従業員らに対し、1年あまりにわたり多数回のセクハラ行為等を繰り返しており、その職責や立場に照らしても著しく不適切。
ーーー 高裁は「Aさんたちが明確に拒否する姿勢を示していなかった」ことを処分無効の理由としてあげていますが、そこはどうでしょう？
最高裁
「あきませんな。職場におけるセクハラについては、 被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関係の悪化などを懸念して、セクハラ加害者に対する抗議や抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたり躊躇（ちゅうちょ）したりすることが少なくないと考えられる。本件セクハラの内容などに照らせば、仮に『拒否していなかった』などの事情があったとしても、セクハラ上司に有利に斟酌（しんしゃく）することは相当ではない」
最後に
今回は【セクハラオヤジ vs 会社】でしたが、会社が大逆転して女性Aさん・Bさんも喜んだと思います。この女性2名がセクハラオヤジに損害賠償請求したかは不明なんですが、もし損害賠償請求の裁判をしていれば慰謝料2桁マン円は獲得できるケースだと思います。
ただし！ 証拠は必須です。今回の裁判では具体的なセクハラ発言が裁判所に提出されているので、女性が録音してたのかもしれません。録音は最強です。セクハラオヤジと働いている方は常時録音して反撃してやりましょう。
オマケ
こちらのセクハラ裁判例もどうぞ。セクハラオヤジ、氷山の一角です。
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▼ 今日は●●を抱いちゃおうかな
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というセクハラLINEを送った事件
https://www.ben54.jp/news/310
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▼ 3Pやってみよう！
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と悪ノリした事件
https://www.ben54.jp/news/391
今回は以上です。これからも労働関係の知恵をお届けします。またお会いしましょう！
