長寿復活へ働き盛りの健康づくり まずは血圧対策と検診を【第30回沖縄県医師会県民公開講座】 

 「長寿奪還! みんなで考えよう 働き盛りの健康づくり!」をテーマに、第30回県医師会県民公開講座が11日、南風原町の県医師会館で開かれた。主催は同会と沖縄タイムス社。平均寿命の全国順位を後退させている65歳未満の健康を巡り、医師たちが血圧対策や健診の大切さを訴えた。オンライン配信とのハイブリッド開催で約150人が参加した。(社会部・吉田伸)

エクササイズで体をほぐす参加者=11日、南風原町・沖縄県医師会館

 

【登壇者】* * ●特別講演

 砂川博司氏(県医師会理事、すながわ内科クリニック院長) *  崎間敦氏(琉球大学保健管理センター所長)

●シンポジウム

*  今井千春氏(中部地区医師会副会長、今井内科医院院長) *  玉城研太朗氏(県医師会理事、那覇西クリニック理事長) *  外間勇人氏(大同火災海上保険人事課長代理)

働き盛り世代 短命に 高血圧関連 死因1位

砂川博司氏(県医師会理事 すながわ内科クリニック院長)

砂川博司氏

 県医師会は県、沖縄労働局、沖縄産業保健総合支援センター、全国保険協会県支部の力を借り、五者でさまざまな行動を展開している。2040年には男女とも平均長寿日本一を取り戻したい。有所見率を改善して結果を出していきたい。

 県平均寿命が落ち込んでいる。人口動態統計を見ると、20~64歳の1985年の年齢調整死亡率は女性1位、男性8位だったが、2020年には女性45位、男性46位とものすごく悪化した。この30年で親が子の新聞の死亡広告を出す割合が倍増しているというショックなデータもある。

 働き盛りの短命が長寿の順位を押し下げており、15年の沖縄の30~64歳の死亡原因は高血圧関連疾患が1位だ。21年も1位であり、心臓病や脳内出血を促している。また血圧が上がるにつれ、死亡率が上がる。

 健診で引っかかっても、受診しない人が多い。重症高血圧の人の未治療が8割という報道もある。未受診者は「お金がない」と言うが倒れたら月80万円の高額医療費を払わないといけない。「時間がない」とも言うがコロナ禍でオンライン診療が普及してきている。

 働き盛り世代は地域、職場、家庭において、かけがえのない存在。まずは健診を受ける。異常を指摘されたら医療機関を受診する。治療を継続する。地域、職場、家庭で取り組もう。

血圧測定 習慣付けて 沖縄の伝統食 参考に

崎間敦氏(琉球大学保健管理センター所長)

崎間敦氏

 血圧対策がはじめの一歩だ。沖縄県の働き盛りの有所見率は12連続ワースト。単なるワーストでなく、全国平均との差が開いてきている。健診の結果が悪いからと見ない人も多い。健診結果を誇れるような健康社会にしていきたい。

 まずは血圧を測ることが大事だ。高血圧はサイレントキラーと呼ばれる。知らないうちに動脈硬化が起き、突然脳卒中や心筋梗塞になる。素晴らしい薬はたくさん開発されており、治療は進歩している。

 血圧のコントロールがうまくいかない最も大きな原因は未受診。ほか不適切な生活習慣や薬の飲み忘れ、中途半端な治療などにも対策を立てないといけない。

 血圧を測る環境整備が重要だ。郵便局血圧測定プロジェクトを今、準備している。うるま市の12郵便局で血圧を測れるようにし、最終的には県内全ての郵便局への設置を目指している。

 生活習慣の修正では減塩と野菜・果物をセットで食べることでうまくいくことが分かってきた。ナトリウムとカリウムのバランスが大事。野菜を食べながら調味料で塩の摂取が増えるとよくないので調理方法を工夫してほしい。沖縄の伝統的な食がヒントになる。

 県総合運動公園に1995年に建てられた「世界長寿宣言地域の碑」がある。碑を誇れるような健康社会を実現していきたい。

クリニック 上手に活用

今井千春氏(中部地区医師会副会長 今井内科医院院長)

今井千春氏

 脳卒中や心筋梗塞を減らしたいと意気込んで中城村南上原で開業した。

 2011年4月、60歳のタクシー運転手さんが来院した。血圧は187/96で高かった。放置すると心臓に負担がかかると説明した。13年12月に薬が2カ月切れた状態で通院した。血圧は200/102。しかし、この時を最後に通院を中断してしまう。

 次に会ったのが16年8月。残念ながらその前の15年9月に脳梗塞を発症していた。大きな病院で治療し、様態が安定したということで戻ってきたが左半身まひで車いすだった。血圧は150/67。「あの時に先生の言うことを聞いていれば良かった…」という言葉が忘れられない。

 働き盛りの高血圧患者はなぜ治療に来てくれないのか。(1)高血圧は痛くもかゆくもない(2)忙しい(3)薬を飲み始めると一生続くと考える(4)医療費が分からない(5)初めてのクリニックは受診しにくい-。こういう理由が考えられる。

 だが、医療費と時間を抑えるこつがあるので伝えたい。(1)特定健診を受ける(国民健康保険だと無料)(2)ジェネリックを選ぶ(3)家庭で血圧測定し、安定していれば長期処方をお願いする。(4)予約を利用する(5)院内処方を利用する。

 うまくクリニックと付き合うことで、負担少なく高血圧治療を受けられる。

企業と産業医 連携重要

玉城研太朗氏(県医師会理事 那覇西クリニック理事長)

玉城研太朗氏

 小学校でよく授業をするが、今の沖縄の子どもたちは長寿の島だったことを誰も知らない。世界一だったのは20年以上前の話だ。昨年の12月24日の朝刊で男性がワースト5位、女性も上から16位に落ちたと記事があった。男性も昔は1位だったが今は見る影もない。

 長い間伝統的な料理やライフスタイルがあった。現時点でも潜在力は十分にあると信じている。

 2004年に米タイム誌が沖縄の長寿を特集した。「食事は低脂肪で塩分控えめ、大豆を豊富に摂取。腹八分が重要」などと紹介されている。また県内では男性の多量飲酒が問題になっている。寝酒の1杯ぐらいがいい。

 ところが今や有所見率のワースト1位が続き、大変な時代になっている。県医師会は県や労働局などと通称、五者協定を結んだ。

 実は65歳以上は長寿。一方で65歳未満は非常に体を壊している。産業保健の分野から働き盛り世代へ徹底的に介入していかないと、沖縄県の長寿復活はない。

 課題解決に向けた企業や産業医の積極介入。産業医と仲良くなってほしい。困ったことをすぐに相談。高血圧が見つかったら医療につなげる。生活習慣関連疾患、改善始動、受診勧奨とつなげていきたい。医療、企業、産業医の連携が重要だ。1人だと難しい。皆でやっていこう。

健康増進策 会社一丸で

外間勇人氏(大同火災海上保険人事課長代理)

外間勇人氏

 当社の健康経営の取り組みを紹介したい。従業員一人一人が原動力となる。心身の健康が財産。生産性が上がると会社の利益につながり、業績が上昇する。

 沖縄は健診の有所見率全国最下位が続いているが、2016年の当社は県平均より高かった。特に肝機能が悪かった。17年にプロジェクトチームができた。

 まず会社のトップが社内と社外に向けて三つの宣言を発信した。次に社内イベントを企画。健康の意識付けにつながる10のメニューをそろえた。(1)早めに夕食を取る(2)よく歩くなど。チーム対抗戦で遊び心も取り入れた。スマホのアプリで歩数を競って掲示板で順位を発表し、盛り上がった。

 肝機能対策では社内の懇親会を見直した。(1)1次会まで(2)月~木曜日は午後9時まで(3)月~金曜日は休肝日を3日設ける-という運動を進めた。また徒歩通勤を推奨し、ランニングシューズの出勤を勧めた。

 「健康経営優良法人」を4年連続で認定された。社内の有所見率はほどんどの項目で県内の平均を下回ることに改善した。

 だが全国平均と比べると、まだ高いので引き続き改善する必要がある。できることから少しずつ取り組んでいくことが重要。アイデアと工夫次第で手軽に始められることもある。身近なところから少しずつ一緒に取り組めたらいい。

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