【角田裕毅F1第22戦分析】ソフトスタートが成功した一方、ミディアムではグレイニンングに苦しむ。わずか11周で交換

 F1第22戦ラスベガスGPの決勝レースでは最後尾からのスタートとなった角田裕毅(アルファタウリ)。ホームストレートに入る直前の緩やかな左コーナーのイン側にある20番グリッドからフォーメーションラップに出た角田のマシンには、ソフトタイヤが装着されていた。

「2ストップ戦略に賭けたのと、スタートで少しでもポジションを上げるためにソフトタイヤにしました」

 その決断は、結果的にスタート直後に吉と出る。

 F1史上最も遅い時刻となる土曜日の夜10時にスタートが切られたラスベガスGP決勝レースは、スタート直後の1コーナーで中団グループで多重クラッシュが発生。最後方からスタートした角田は事故をすり抜け、1周目に12番手までジャンプアップ。さらにセルジオ・ペレス(レッドブル)が1周目に、そしてランス・ストロール(アストンマーティン)が3周目に相次いでピットインすると、4周目には角田のポジションは入賞圏内の10番手まで浮上した。

角田はスタート直後に12番手まで順位を上げた
ペレス、ストロールのピットインにより、角田は4周目に10番手に上がった

「前のほうでアクシデントがあったんですけど、イン側にいたので、うまくすり抜けました」と振り返る角田が履いていたソフトタイヤは、スタートした直後からパフォーマンスが落ち始めた。しかし、セーフティカーが出たことで、1回目のピットストップのタイミングは結果的に想定していたものとほとんど変わらずに済んだ。

 10周目にピットインした角田にチームが装着したタイヤは、ミディアムだった。

 ところが、履き替えたミディアムタイヤでのペースに、角田は苦しむ。

「グレイニングが出たんです」

 グレイニングとは、タイヤの表面のゴムが削れてささくれのような状態になることだ。通常はタイヤの表面が熱によって溶けてグリップ力を得るのだが、路面温度が低いなどの理由でタイヤの表面のゴムが溶けずにグリップ力がないままコーナーリングすると、ゴムがフロントタイヤであれば横方向に、リアタイヤであれば縦方向に引きづられて、表面にささくれが発生する。

 この状態になると、タイヤの表面積が増えるため、タイヤの温度が下がり、さらにグリップ力が低下し、コーナーリングで滑りやすくなって、グレイニングを促進させるという悪循環となる。角田がミディアムタイヤで苦労したのが、まさにこの状況だった。

 こうなると、もう何をやってもグレイニングを解消することができず、タイヤを交換するしかない。チームがわずか11周でミディアムタイヤをあきらめ、ハードタイヤに交換したのはそのためだった。

 しかし、ミディアムタイヤでのペースがあまりにも悪かったために、ハードタイヤに交換した角田は最下位まで転落。さらにハードタイヤに履き替えた後バルテリ・ボッタス(アルファロメオ)を抜きあぐねた角田は、再びポイント争いに絡むことはなかった。

 最後はメカニカルトラブルで残り4周でレースを終えた角田はこう語った。

「ギヤボックスかエンジンかまだわからないです。それがなくても今日はポイントは厳しかったと思います。いまはトラブルの原因がエンジンでなく、次戦でエンジントラブルによるグリッドペナルティを受けないことを祈って、最終戦アブダビGPで全力を尽くしたい」

 それは角田だけでなく、アルファタウリ、そしてこの日、ラスベガスGPを視察に来ていた三部敏宏社長らホンダの首脳陣も同じ気持ちだろう。

三部敏宏社長らホンダの首脳陣がラスベガスGPを視察

© 株式会社三栄