女性受刑者「手錠を掛けられ出産」 9年前の法務省通知で“拘束具”使用禁止も… 国際NGOの実態調査であきらかに

記者会見に臨むヒューマン・ライツ・ウォッチ笠井哲平氏(中央)ら(11月14日 霞が関/弁護士JP編集部)

国際NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチが11月14日会見を行い、日本の女性受刑者に関する調査報告書を発表。元女性受刑者や、専門家らへのインタビューを通じ、女性受刑者の収監や処遇に関する状況を調査した結果、多くの女性受刑者が、刑務所内で人権侵害の被害にあっているとして、国会や厚生労働省、法務省、日本弁護士連合会に対して提言を行った。

子どもが1歳になるまで「刑務所内で養育可能」だが…

法律上、刑務所長が認めれば、女性受刑者は子どもが1歳になるまで刑務所内で養育することができる。さらに刑務所長が再び認めれば、6か月間期間を延長することができると定められている(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律)。

それにもかかわらず、法務省の統計によれば、2011〜2017年の女性受刑者の出産件数が184件であったのに対し、刑事施設内での養育が認められた事例はたったの3件だった。これを受け、報告書は元女性受刑者らの証言をもとに、刑務所側が女性受刑者に対して上記のように子どもを養育する権利があると説明すること自体が少ないと指摘。

刑事施設内での子どもの養育が認められた3件においても、女性受刑者が子どもと過ごせたのは8日間、10日間、12日間と短い期間のみであったことや、法務省が子どもの養育を申し出た受刑者の人数と、申し出が認められなかった件数について「把握していない」と答弁していたことも併せて報告された。

元受刑者へのインタビューでは、

「(刑務所内で)養育できる部屋を見たことはありませんが、同じ工場で産んだ人は見たことがあります。出産の時については言ってなかったです。その人は出産後一週間ぐらいで戻りました。遵守事項には1年ぐらい何カ月とか面倒を見れるって書いてあるのに、その人は5分ぐらいで、すぐ持ってかれちゃったって言われたみたいです、病院で」(原文ママ)

との証言などから、ほとんどの女性受刑者が出産と同時に子どもと離されているという現状も明らかになった。これを受け、法務省に対し、女性受刑者に子どもの養育に関する法的権利を周知することなどを提言した。

「手錠を掛けられ出産」法務省の通知に反する証言

また報告書では、受刑者の出産に際して手錠などの拘束具を使用禁止にすることなども要請。

拘束具については、2014年に上川陽子法相(当時)が矯正局成人矯正課長名で「分娩室では使用しないように」とすべての刑事施設に通達していた。しかしヒューマン・ライツ・ウォッチが受刑者にヒアリングしたところ、2017年に出産した別の受刑者が「ベッドの上で両手で手錠を掛けられて出産したと言っていた」との証言が得られたという。

これを受け、ヒューマン・ライツ・ウォッチが法務省に調査を要請した結果、法務省は「分娩室内で手錠が使用されていたとの記録はなかった」としたうえで、分娩室に入出する前後については、「妊娠中や出産後の女性受刑者に対して一般的に手錠を使用している」と回答。

今回の報告書では、法務省に対して改めて2014年の通知を積極的に強調することや、通知を改訂し、陣痛中及び産後直後の拘束具の使用を禁止することを求めた。

「政府は政策を変えるべき」と訴える

報告書ではほかにも、日本の刑罰について「自由刑(身体を拘束して自由を奪う刑)に過度に依存している」と指摘。収監されれば前述のような人権侵害を被ることが多いとして、社会奉仕活動命令などの「非自由刑」を導入することを提言に盛り込んだ。

また、日本で女性が収監される理由として2番目に多い薬物事犯については、薬物の単純所持や使用で服役する女性受刑者が、複数回の服役を経験していることも多く、物質使用症(いわゆる薬物依存症)の可能性もあると指摘。

女性刑務所での物質使用症向けの更生プログラムが、再犯率低下に有意義な効果を発揮していないことなどを理由に、個人による薬物の単純所持及び使用を非犯罪化し、刑事施設外での自主的な治療に専念すべきと訴えた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの笠井哲平氏は会見で、「人権を尊重したいのであれば、日本政府は、まず大前提の姿勢としてそれを尊重するために政策を変えるべき」と語った。

© 弁護士JP株式会社