焼きたて1枚50円 早朝の憩い「せんべい喫茶」閉店 味、値段33年変わらず 青森・八戸市

せんべい喫茶の最終営業日、次々と訪れる常連客らに「てんぽせんべい」を焼く一雄さん

 青森県八戸市鍛冶町(かじちょう)地区にある上舘(かみだて)せんべい店(同市類家縄手下)が毎朝営業してきた「せんべい喫茶」が20日、閉店した。もちっとした食感で、焼きたての「てんぽせんべい」の値段(50円)と味は開業時から33年間変わらない。「ずっと続けたいが年だから」と店主の上舘一雄さん(76)。同日は常連客が次々と訪れ、「早朝の憩いの空間」が消えることを惜しんだ。

 長者山の近くの鍛冶町地区では、春彼岸の3月中旬から大みそかまで毎朝4時~7時半ごろ「片町(かたまち)朝市」が開かれていた。終戦後の1947年に始まり、市内の朝市では最も古い歴史があったが、迷惑駐車や騒音などの問題で2010年5月に閉幕した。

 「せんべい喫茶」は片町朝市の北口の角にあり、朝市に野菜を運ぶ農家や、買い物客らに人気だった。喫茶は朝市の終了後も毎朝4時半ごろから8時ごろまで営業してきた。

 最終日の20日は、周辺が真っ暗な午前4時半、早くも常連客7人でにぎわった。その後も次々と客が訪れ、店内が満員になると寒風の中、屋外の椅子に20人ほどが座った。客は、てんぽせんべいとコーヒー(200円)を口に運びながら、一雄さんと妻・京子さん(74)に「またね。元気で」「お世話になりました」などと声をかけた。

 常連客の坂本正明さん(75)は「みんな『残念』と言う。でも、人それぞれに人生があるしね」。30年以上通ってきた松橋誠子(せいこ)さん(88)は「上舘さん夫妻から長い間、とてもよくしていただいた。ゆっくり休んでほしい」と語った。

 島守輝雄さん(79)は「昔の面影を残す空間で、みんな、ここから英気をもらった。片町の朝市の歴史が本当に終わったのかな」。八戸せんべい汁研究所の木村聡所長(59)は「観光客を案内すると、店主や常連客に温かくもてなしていただいた」と話した。

 一雄さんは「さまざまな分野の知識を持った皆さんが集まり、店内はさながら『生きた辞典』だった」と振り返った。喫茶の近くにあるせんべい店での自身による南部せんべいの製造・販売は、来年3月までは続けるという。

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