【今週のサンモニ】安田菜津紀氏の理不尽なイチャモン連発|藤原かずえ 『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。準レギュラーコメンテーターの安田菜津紀さん、客観的事実に反して無理やり非難はやめてください!

自衛権の正当性の3つの要件

2023年11月19日の『サンデーモーニング』で大いに気になったのは、客観的事実に基づくことなく、コメンテーターが不当に日本政府を貶める主張です。

安田菜津紀氏:イスラエル軍は多くの人たちを南部に退避しろと言いながら、今度は南にも攻撃を強めると言っている。そこにハマスがいると主張さえすれば、どんな攻撃をしても、どれだけ殺しても許されるかのように、5000人の子供を含む12000人以上の人たちの命を短期間に奪って、さらに何とか生き抜いている220万人近い人たちを飢えだったり、これからは寒さに怯えさせるということが、果たして各国が支持をしてきた自衛と言えるのかということは言い続けなければならない。

安田氏のこの見解は至極妥当です。自国に対する侵害を排除する権利である【自衛権 right of self-defense】の正当性の要件には次の3つがあります。

【必要性 necessity】:反撃は必要であるか
【即時性 immediacy】:反撃は即時に行なわれているか
【均衡性 proportionality】:反撃は過度でないか

今回のハマスに対するイスラエルの反撃は、①②の正当性を満たしていると考えられますが、③を大きく逸脱しています。

つまり、3要件を同時に満たしていないので、その自衛権の主張に正当性はありません。均衡性を満たさない反撃は、自衛という名の侵略行為と言えます。安田氏の主張に疑問の余地はありません。

「日本が世界を歪めている」と主張

しかしながら、次の主張は明らかに不当です。

安田菜津紀氏:遅すぎではあるが、例えばフランスのマクロン大統領は停戦を要求し始めたり、カナダのトルドー首相も批判のトーンを強めている。じゃあ日本はどうなのかと言うところを見た時に、先日イスラエルの閣僚が「ガザに対する核兵器の使用も選択肢の一つ」と発言した。日本の岸田首相は、核兵器のない世界はライフワークだと掲げてきたわけだ。こういう時こそ日本政府が真っ先に率先して「やめろ!」と声を上げる必要がある。

安田菜津紀氏(風をよむ):今の世界を見渡した時に、イスラエルが戦闘の休止を求める国連安保理決議に背き続けて民間人の殺戮を続けている。それに対しては日本も米国も非常に反応が鈍いと言わざるを得ない状況だ。こういうダブルスタンダードを持ち込むことこそ、国際秩序を無意味化して、法ではなく力の世界に世界を歪めてしまう。

安田氏は、フランス・カナダを称賛する一方、日本の反応が鈍く、ダブルスタンダードで、国際秩序を無意味化して、世界を歪めていると主張しています。

しかしながら、事実は明らかにこの主張と異なります。まず、事実を確認しておきます。

国連決議などの事実関係

(1) 10月19日の国連安保理において、ハマスのテロ攻撃を明確に非難し、人質解放を要求するとともに、全当事者による国際人道法の遵守、民間人に生活必需品を供給するための人道的中断と、国連などによるガザへの完全かつ安全で妨げのない人道アクセスの緊急開放を強く求めるブラジル案に対して、日本・フランスを含めた12カ国が賛成、英国とロシアが棄権、米国がイスラエルの自衛権に言及がないことを理由に拒否しました。

国連安保理 人道支援の戦闘一時停止など アメリカの拒否権で否決 | NHK

(2) 10月24日、日本を除くG7の6カ国首脳は、イスラム原理主義組織ハマスのテロに対し、イスラエルの自衛権を支持する共同声明を発表しました。

G7、日本除く6カ国がイスラエルの自衛支持で声明

(3) 10月27日の国連総会においては、休戦を要求すると同時にハマスのテロ行為の責任を明記したカナダ案に日本・フランス・カナダは賛成しました。また、フランスは、休戦を要求すると同時にハマスのテロ行為の責任を明記しないヨルダン案にも賛成しています

【今週のサンモニ】偏向キャスティングで盲点を見抜けない|藤原かずえ | Hanadaプラス

(4) 11月09日、G7は、外相会合で、イスラエル各地に対するハマスなどによるテロ攻撃や、現在も続くイスラエルに対するミサイル攻撃を断固として非難するとともに、国際法に従って自国と自国民を守るイスラエルの権利を強調。さらに、前提条件なしに、全ての人質の即時解放を求めました。

G7外相会合、戦闘の「人道的休止」やその後の和平プロセスで一致したメッセージ発信(パレスチナ、日本、米国、イスラエル) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース

(5) 11月16日、国連の安全保障理事会において、ガザ地区の子どもの人道状況を改善するために戦闘の休止を求める決議案に対して、日本・フランスを含めた12カ国が賛成、英国・ロシア・米国が棄権した結果、賛成多数で採択されました。

国連安保理 戦闘休止求める決議採択 ガザ地区での軍事衝突後初 | NHK

客観的事実に反して無理やり非難

日本は国際社会において終始一貫して「ハマスのテロ行為」と「イスラエルの過度な反撃」を厳しく非難しています。

日本は、フランスやカナダを含めたG7各国が支持したイスラエルの自衛権に対して、主体的に支持を見送りました。日本がイスラエルに対して認めたのは「国際法に従って自国と自国民を守るイスラエルの権利」、すなわち正当な自衛権の行使のみです。

安田氏が、ハマスのテロ行為とイスラエルの過度な反撃を世界の先頭に立って非難するとともにパレスチナの市民に人道支援を行っている日本を、公共の電波を通して、客観的事実に反して無理やり非難していることは、報道倫理に抵触する大きな問題であると考えます。

また、ハマスに拘束されている人質の存在を完全に無視していることにも大きな違和感を持ちます。

政治のチェックではなく、イチャモンをつける

さらに安田氏は、イスラエルの閣僚の「ガザに対する核兵器の使用も選択肢の一つ」という発言に対して、日本政府が「ヤメロ!」と真っ先に非難する必要があるとしましたが、この閣僚は、即時に発言を確認したイスラエル・ネタニヤフ首相によって、同日中に停職させられていました。

イスラエル政府の常識的判断によって即時に処分された閣僚に対して、事態を把握する間もなかった日本政府が「ヤメロ!」と求めても何の意味もありません。

当該事案に関しては、日本政府が言うまでもなく、核兵器使用を抑止する常識が健全に機能していたからです。

いずれにしても、このような日本政府に対する理不尽な非難は、放送の政治的公平性を阻害するものです。ジャーナリズムに必要なのは、政治に対するチェックであり、イチャモンではありません。

誹謗中傷に弁解を与えている

さて、この日のスタジオトークでもう一つ気になったのは、ジャニーズ問題に対する安田氏の次の発言です。

安田菜津紀氏:ジャニーズ事務所が、これまで報じられてきた被害証言の中に虚偽のものが含まれているのではないかという声明を出している。でも、これって、まだまだ明るみに出ていないような被害が無数にあるような状況下で、根拠も示さずに声明を出してしまうことによって、被害者を萎縮させるだけでなく、被害を訴え出ている側への誹謗中傷をさらに激化させてしまったのではないかという点も責任を取られるところではないか。

そもそもこのジャニーズ事務所の声明は「故ジャニー喜多川による性加害に関する一部報道と弊社からのお願いについて」と題して、虚偽の話をしているケースが複数あるという情報に接したことで、告発者の主張内容についても十分な検証をして報道をしてほしいとメディアに対して要望したものです。

【全文】ジャニーズ 性被害の「虚偽」告発に苦慮と声明「被害者でない可能性が高い方々」「十分な検証して報道を」/デイリースポーツ online

被害の【真実性 authenticity】の認定は、元裁判官の弁護士で構成される被害者救済委員会に一任しているので、ジャニーズ事務所は関与していません。

つまり、ジャニーズ事務所は、被害者に対する正当な補償を目的とする被害者救済委員会の報告を受けてアナウンスしているのであって、この主張は尊重するに値します。被害者に対する誹謗中傷を根拠に、被害者救済委員会の正当な主張を問題視することは、逆に正当な補償を阻害するものです。

加えて、安田氏の主張は、誹謗中傷の責任をジャニーズ事務所に負わせるものであり、このことは誹謗中傷に【弁解 excuse】を与えるものです。

メディアが行う必要があるのは、被害者の人格を攻撃する誹謗中傷を止めることと、真の被害者に勇気を与えることであり、真実性の認定に関わる議論を止めることではありません。

勿論、真実性の認定を阻害する報道について、報道各社は厳に慎む必要があります。

藤原かずえ | Hanadaプラス

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