<レスリング>【2023年全日本大学選手権・特集】日体大が2年連続グランドスラムを達成したが、再興・新興チームの台頭があり、“戦国時代”到来は間近か

団体戦の4連覇を目指す日体大が125kg級の小畑詩音をひざの負傷で欠く一方、追う山梨学院大も61kg級の小野正之助が腰の負傷で欠場となった2023年全日本大学選手権。日体大が最後の最後で優勝を決めて4年連続優勝と2年連続グランドスラム(団体戦三大会を制覇)を達成し、松本慎吾監督の体が1年ぶりに宙を舞った。

昨年は、最終日の試合が始まってすぐに優勝を確定した。今年は、あと1階級でも落としたら優勝が消える、という断崖絶壁に追い込まれたが、そこを耐えて優勝を引き寄せた。松本監督は「選手がよく頑張りました」と振り返り、絶体絶命のピンチで踏ん張った粘りを褒めたたえた。

▲86kg級で髙橋夢大が勝ち、全選手の試合が終了。あとは「待つだけ」となった日体大

初日を終わった段階で、山梨学院大が6階級で決勝進出を決めたのに対し、日体大の決勝進出は5階級。97kg級と125kg級は敗者復活戦に回れず、自力優勝の可能性は消えていた。最終日、74kg級の敗者復活戦と3位決定戦は高田煕が順当に勝ったものの、決勝が始まり、第1試合の57kg級で優勝を逃す不覚。日体大の優勝は風前の灯(ともしび)と思われた。

優勝が決まったあとでこそ、同監督は57kg級の敗戦を「勝負ですから、思うようにいかないときもあります」と振り返ったが、やはり焦りはあったことだろう。それでも、61kg級と65kg級の山梨学院大との直接対戦で勝ち、優勝の希望はつながっていた。

▲61kg級決勝で田南部魁星が勝ち、流れを日体大に取り戻した

最後の3分で、勝利の女神が日体大に微笑んだ

山梨学院大の70kg級・青柳善の輔主将が勝ったことで、日体大の自力優勝の可能性は最後まで復活せず、決勝の第9試合で行われた97kg級、五十嵐文彌(山梨学院大)-吉田アラシ(日大)の勝敗を見守る状況へ。第1ピリオドは五十嵐がリードして終了。しかし、第2ピリオドの3分間で勝利の女神が日体大に微笑み、吉田が逆転勝ちして日体大の優勝が決まった。稀に見る大接戦での優勝決定だった。

山梨学院大との直接対決3試合を含め、1試合でも落としていれば日体大の優勝はなかった。そこを勝つことができ、1年生の神谷龍之介(三重・いなべ総合学園卒)も明大選手を相手にしっかり結果を出すことでの優勝。「だれかが負けても、だれかが盛り返す」という団体戦の“お手本”を見せるかのようなチームの団結に、優勝後の松本監督の表情も和らいでいた。

ただ、「やっぱり、自力で優勝を決めたいですね」と苦笑い。「来年へ向けて気を引き締めたい。その前に、年末に全日本選手権があります。一人ひとりを強化していきたい」と、次の目標を見据えた。

▲ひときわ高く上がった清岡幸大郎主将の胴上げ

代役の新星も登場、来年にかける山梨学院大

惜敗した山梨学院大の小幡邦彦監督は「出た選手は、みんなよくやってくれました。だれ一人として、責めるつもりはありません」と、選手の激闘に称賛の言葉。決勝進出の数では日体大を上回っていたが、「五分と思っていました。そこを勝ち切れなかったのは、日体大の戦力が一枚上手だった、ということでしょう」と、相手の実力を認めた。

東日本学生リーグ戦での日体大戦では、1点をめぐる攻防が続き、わずかの差で負けた試合が2試合あった。この大会でも、65kg級の荻野海志と125kg級のアビレイ・ソビィットが「1点」の差を乗り越えられずに負けており、最小得点差の重みを感じる大会だった。同監督は「実力が競っていれば、そういう展開になります。そこを守り切れなかった、取り切れなかった、というのが敗因でした」と振り返り、今後の課題として挙げた。

▲会場中か固唾(かたず)を飲んで見つめた97kg級決勝。五十嵐文彌は第2ピリオド途中までリードしていたが…

小野の負傷欠場でどうなるかと思われたが、代役の須田宝(1年=佐賀・鳥栖工高卒)が決勝にまで進む健闘を見せ、来年へ向けての頼もしい戦力が生まれたのも事実。「この悔しさを来年につなげたい」と小幡監督。小野正之助、荻野海志、五十嵐文彌、アビレイ・ソビィットらのメンバーが残る来季に期待した。

中大が33年ぶりに4強へ、育英大が5位に躍進

日体大が4連覇を達成した大会だったが、2位との差が、2020年=25点、2021年=32.5点、2022年=21点と、過去3大会が独走優勝だったのに対し、今回は優勝を明け渡してもおかしくない大接戦だった。

日大が山梨学院大を上回る2階級で優勝したほか、中大が1990年以来、33年ぶりに4位に入り、出場4年目でこれまで9位が最高だった育英大が5位へ。再興・新興大学の躍進があった。拓大早大も個人優勝選手を誕生させ、意地を見せた。来年以降の飛躍へつなげられるか。

1強あるいは2強の状況では、学生のレベルアップは望めない。2012年大会は、上位5チームが9点の中にひしめく大激戦。群雄割拠の“戦国時代”だった。この切磋琢磨の中から、2017年に高橋侑希がフリースタイルで36年ぶりの世界チャンピオンに輝き、乙黒拓斗が2018年世界&2021年オリンピック王者となり、2022年に樋口黎成國大志がフリースタイルで43年ぶりとなる複数世界王者誕生へつながった。

学生選手が強くなければ、世界で勝てる選手は育たない。学生選手が強ければ、全日本のトップ選手を押し上げる。来年以降の学生レスリング界の激闘が期待される。

▲31大学が集まって争われた全日本大学選手権。来年以降の学生レスリングの発展が望まれる

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