[社説]ハンセン病 家族補償 被害救済に周知徹底を

 私たちの社会に根深く残る差別や偏見が、この数字に表れている。

 ハンセン病元患者の家族に対する補償法の施行からきょう22日で4年となる。補償金の申請受け付けは8170件、認定は7931件で、国が推計する対象者約2万4千人の3割にとどまっている。

 5年の時限措置で、申請期限は来年11月21日だ。残り1年しかない。

 申請が少ない理由として挙げられるのは、家族であることを知られるのを恐れている、元患者が病歴を隠しており家族であることに気付かない、家族関係が崩壊していて連絡できない-などだ。

 元患者の家族561人が国に損害賠償と謝罪を求めた訴訟で、原告に加わった県内の60代女性は実名を明かさず、番号で呼ばれた。匿名裁判を選ばざるを得なかった。

 原告で実名だったのは数人。女性は「自分だけの問題ではない。子や孫が差別に遭うのは嫌だった」と話す。

 この4年間を「裁判に勝てば『自分の親はハンセン病だったんだよ』と大声で言えると思ったが、そうではなかった」と振り返る。

 元患者の家族と知られ、離婚を迫られたり、嫌がらせを受けて会社を辞めたりするケースを見聞きしてきた。「恐怖心は簡単には消えない」と、申請をためらう人たちの気持ちをおもんぱかった。

 国の責任を問い、被害を認めさせた原告でさえ、不安を抱えている。裁判で勝っても晴れることのない現実に目を凝らしたい。

■    ■

 補償法では元患者の親や子、配偶者に180万円、きょうだいや孫らに130万円を支給する。そのために元患者の病歴や、家族と証明する資料を提出する。

 窓口は厚生労働省に一元化している。県や市町村では知人と会う可能性があるため、配慮した形だ。個別に通知せず、広報紙やポスターで申請を呼びかけている。

 プライバシー保護は重要である。一方で、当事者に必要な情報が届いているか。懸念は拭えない。申請が伸び悩む中、より近い場所で相談できる体制は不可欠である。

 県内には名護市の沖縄愛楽園と宮古島市の宮古南静園の2カ所の国立療養所がある。家族補償の対象者の4割ほどは県在住といわれている。

 心理的なハードルがあるなら、国は申請しやすい環境を整備する必要がある。コロナ禍の影響で遅れているかもしれない。期限の延長も視野に入れてほしい。

■    ■

 元患者や家族はハンセン病問題の教育や啓発も求めてきた。感染力が弱く、遺伝しないと分かりながら強制隔離や、断種、堕胎といった政策が続いたのはなぜか。

 歴史を学び、正しく理解する。それこそが元患者や家族が望んできたことである。

 ただ、実際にはどうだろうか。差別や偏見、分断や憎悪をあおる言動、SNSでの発信は後を絶たない。

 元患者や家族が穏やかに安心して暮らせる社会を実現できているかどうか。厳しい目を向けることは、差別や偏見をなくす一歩になる。

© 株式会社沖縄タイムス社