プロゴルファー育成費用、親の出費は年間いくら? マイナス収支でも家族の絆を結び付けた“1枚の落書き”

世界で輝くプロを夢見るジュニアゴルファー、福井誠ノ介君。弱冠11歳でありながら、すでに2度世界を制覇。日本ゴルフ界の期待を背負う将来が楽しみな存在だ。そんな誠ノ介君を全力でバックアップする父親の福井誠之さんは、金銭面での苦労を振り返りながら、「お金持ちじゃなくてもゴルフはできるっていう、先駆者にはなりたい」と語る。実際のところ、我が子をプロゴルファーとして育成するためにはいくらくらいのお金がかかるのだろう?

(文=守本和宏、写真提供=福井誠之氏)

稼いではいけない状況下で、継続が求められるアマチュアゴルファー

ゴルフ界には、世界的に定められた「アマチュア規定」というものがある。

細かい規定はあるが、簡単に説明すると、ゴルフは自己申告で誠実なプレーが求められるスポーツ。賞金が大きくなれば正直であるのが難しくなるため、アマチュアはゴルフで稼ぐことが認められていないのだ。だが、このルールは2年前に大幅改定され、現在は1大会最大1000ドルor700ポンドまでの賞金(あるいはそれに値する賞品)が認められている。しかし、ジュニアで賞金が出る試合は現在でもほぼ皆無である。

大変なのは、プロゴルファーを目指すジュニア選手。また、その保護者だろう。今年、ジュニア世界NO.1を決める大会『IMGA世界ジュニアゴルフ選手権2023』9~10歳カテゴリーで、大会記録となる17アンダーで優勝。ココリコ遠藤章造氏のユーチューブでゴルフ対決を行い「日本のゴルフ界を引っ張っていく逸材」と称された、11歳の福井誠ノ介君。その父親、福井誠之さんが子どもの育成にかかる費用を教えてくれた。

「去年で言えば月換算で、支出は91万。支出に充てるお金は68万円。毎月23万程度のマイナスです」

支出に含まれるのは、毎日の練習・遠征・食費・ギアの購入費。そして積み重なる試合のエントリー料金などである(内訳/試合:10万円、ラウンド:15万円、練習:2万円、ウエア:2万円、道具:5万円、遠征宿泊:3万円、ETC:8万円、ガソリン:6万円、食費:5万円、雑費:3万円、車維持:12万円、海外遠征:20万円)。これらをスポンサー収入、財団からの支援、クラウドファンディング後援などで賄っているが、とても足りる額ではなく、毎月の収支はマイナスだ。福井さんは続ける。

「ジュニアゴルファーで言うと、その20分の1ぐらいの金額で続ける子もいれば、数倍かける親もいる。うちはありがたいことに、クラブのカスタマイズやシューズなどサポートしてくださる方々がいるおかげで、出費が半分以下になっているだけです」 万人とは言わなくても、何かスポーツをしたい、ゴルフをしたいと思った子どもにとって、継続することさえ難しい、という状況は望ましくはない。決してお金が有り余っているお金持ちというわけではない福井さんが、これだけの費用を子どもにかけられるのはなぜか。それは、誠ノ介君が4歳の時に書いた落書きが、親の気持ちを動かしたからだ。

月3万円程度の初動と、親に決意を決めさせた一枚の落書き

当然、最初からそんなに費用がかかったわけではない。「自宅は愛知ですが、本格的に始めてからは、安い練習場を探して岐阜に行ったり、かかるのは月3万円程度でした」

誠ノ介君がゴルフを始めたのは3歳の時。父親がもらってきた東海クラシックの観戦チケットで大会を観戦。すると、それまで大好きだった『きかんしゃトーマス』のおもちゃに見向きもしなくなり、プラスチック製のゴルフクラブを振り始めた。

徐々にゴルフ番組でルールなどを覚えると、たまにゴルフへ出かける父親に対し「パパだけ行ってずるい」など、次第にラウンドに興味を持ち始めていく。クラブもいきなり全ては買い与えず、最初はパター、次はウエッジなど、1本ずつ手配するような調子だった。

4歳になり、「試合に出たい」と言った誠ノ介君は、8歳以下の大会に出場。ハーフを3オーバーの39で周り優勝する。この成績に周囲がざわつくが、本人が使っていたのは、ジュニア用の1.5万前後の6本セットのクラブ。周囲は10万~20万くらいの10~14本セットのクラブなど使用するなか、その成績は親にも期待を抱かせた。

しかし、当時から生活の厳しさは感じていた。出身の兵庫県から愛知県に移り、親戚の縁で人材派遣会社の代表を務めていた誠之さんだが、収入は一般的なサラリーマンと同じぐらい。普通に家族で暮らすには問題ないが、潤沢に資金があったわけではない。「そのころの出費は月3~5万ぐらい。それでも普通に子どもの習い事としては高いし、徐々に練習や試合にお金も時間もかかりだして、両立がどんどん厳しくなっていきました」。

そんな状態が続いた、誠ノ介君が4歳の時。両親の決心を決める出来事が起きる。それは、とあるゴルフ観戦に連れて行って帰ってきた日、まだひらがなが書けるかどうかの誠ノ介君が、ノートの裏側に自分で書いた落書きだった。

「書けとも言わないのに、自分で将来の目標を書いていたんです。解読したら、『プロゴルファーになったら、子どもにボールやグローブをあげる』って書いてあった。たった4歳の子がね。それを見た時“やらなあかんな”って思った。ゴルフが好きなだけじゃなく、応援してくれる人を思える選手ってすごいねって、妻と話し合った。そういう人間性があれば、彼が仮にゴルフをやめても、大事なことはわかってくれるはず。だから妻と『上限なしで振り切るところまでいくで』って話になったんです」。 誠ノ介君のその行動は、親の気持ちを決めるのに、十分な説得力を持つものだったのだ。

すぐに越える月10万円。しかし一度も、家族でゴルフを諦めたことはない

決心を決めて以降は、どれだけ生活が厳しかろうが、一心に子どもの夢と、ゴルフ優先の生活に変わっていく。

「ハーフでもそれなりにお金はかかる。だから、中部地方のジュニアのお父さんやお母さんに教えてもらったり、ネットで調べたりして、岐阜県の3000円でプレーできるようなところを探して行ったりしました。でも、高速を使えば、往復プラス3000円。ご飯代もかかる。土日に行ったら2万円、4週間で考えたら月8万。平日練習で毎日1000円の打ち放題を使っても、10万近くなる。その頃は毎月赤字で、すごくきつかったです」

借金もカードを使ったり、家庭内でなんとか費用を捻出する日々が続く。ただ、親の努力に応えるように、誠ノ介君の成績も上がっていった。

2018年には、5歳で日本代表となり、世界大会に初出場。コロナ禍を経て2021年には、3度目の世界大会挑戦で、初めて世界一を勝ち獲り優勝を飾った。以降も世界挑戦は毎年続けている。親の連日のSNS投稿のかいもあって、取材やテレビ出演に加え、著名人との動画撮影・ラウンドにも呼ばれ、応援者を増やし続けている。そのおかげで、世界挑戦の資金集めを目的としたクラウドファンディングは、毎回80万程度を目標に設定し、成功している。

しかし、もちろん良い時ばかりではない。自身も“暴走した”と誠之さんは話す。

「この7年間、ずっと良かったわけじゃない。一時期、周囲からの期待に応えたいと成績や結果にこだわり、子どもと喧嘩して雰囲気の悪い時があった。すると、妻から『どうしてこんなに必死でやりくりしているのに、そんなことで喧嘩して、何を中途半端な話してんの』と怒られた。そこで、自分も大反省しました。落書きを見た時『それがエゴになって、親がやらせたいからやらせるのは絶対やめよう』と妻と決めたのに、そうなって反省しました」

ただ、目標が明確な分、本当にゴルフを諦めようとしたことは、家族全員で一度もない。

「お金の使い方含めて無謀な行動はあるけど、妻は一切否定しないし、本音でゴルフをやめてくれと言うことはなかった。いくらかかるか聞いて、どうやって捻出しようか、家族みんなで解決策を考える。『もう出せない』みたいなことは一度もないから、妻には一番感謝しています。俺が自分のゴルフクラブ買うって言ったら『はぁ?』ってなるけど(笑)」

その結束力の強さは、サポートしてもらう選手にとって一番大切なものと言えるだろう。

お金持ちじゃなくてもゴルフはできる、その先駆者になりたい

ゴルフを始めて7年、親の決意を決めさせた落書きから6年。家族ぐるみの努力により、今はスポンサーもついた。マイナスは続くが、スポンサー収入、財団からの領収証決済などもあり、月の家計からの持ち出しは20万ちょっとに抑えられている。

営業自体も決して得意とは言えなかった父親は、連日子どもの成長をフェイスブックでアップし、決して動画の編集技術が高いわけでもなかったがインスタグラムの動画を投稿。認知獲得と活動資金獲得に励んでいる。それらの活動すべては、子どもの応援者を増やすためだ。

「これだけお金をかけても、本当はもっとかけたい。もっと裕福なご家庭はたくさんあるし、海外だったら桁違い。でも、元々お金持ちじゃなくてもゴルフはできるっていう、先駆者にはなりたい。クラウドファンディングをした当初は、『アマチュアとしてそれはダメだよ』みたいな指摘もあった。でも、海外で事例があって結果的にOKだったし、その後何人かジュニア選手たちが後に続くようになった。物品のサポートも自分たちの活動をこうアピールしたらできるかもしれないよっていうのは、伝えていきたいと思っています」

父親は、子どもが決して天才的なゴルフの才能を持っているとは思わない、と言う。むしろ期待をかけているのは、その人間性だ。

「誠ノ介は努力も重ねているけど、天才的なゴルファーなんてもっといる。でも、ラウンドする時に知らない大人と一緒になって、最終ホールには仲良く手をつないで歩いたり、競技を通じた18ホールでのコミュニケーション力は俺にはない。この子の持って生まれた才能だと信じています。彼の気持ちに夢を見させてもらっているから、投資した額が返ってくるとも思っていない。彼が納得できるところまで、行けるだけ行きたいと思います」

ここまで散々お金の話を書いてきて、今更だが、お金の話など関係なく、筆者はうらやましく思った。成績や才能の話じゃない。親と子、夫と妻で、しっかりと目標を共有し、同じ方向を見て対話を重ねていることに。つらい時も苦しい時も、お互いを信じ合える家族であることに。

海外4大メジャー制覇を掲げる誠ノ介君に、どんなゴルファーになりたいか聞いた。一番に帰ってきたこの答えを聞くと、自然と彼を応援したくなる。

「子どもに喜んでもらえるゴルファーになりたい」

夢を叶えるのに、お金は不可欠だ。しかし、もし誠ノ介君が成功して目標を達成したなら、それはお金の力ではないと思う。家族の愛の力だと、筆者はいつか世界に伝えたい。

<了>

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