【汐留鉄道倶楽部】JR東日本のオール2階建て新幹線「Max(マックス)」は2021年10月に全て引退したが、米国西海岸のオレゴン州ポートランドの都市圏では同じ響きの「MAX(マックス)」と名付けられた“平屋”の電車が大車輪の活躍をしている。環境負荷低減に一役買う公共交通機関が発達した「環境先進都市」のポートランドを象徴する存在で、ひと目見るだけで乗りたくなるスマートな外観だ。23年中の営業運転開始を目指す次世代車両の側面には、JR東日本の東京駅と静岡県・伊豆半島を結ぶ特急「踊り子」の定期運用を21年3月に終えた電車185系のような3本の斜めのストライプが入っている。
▽総延長は宇都宮ライトレールの7倍
MAXは公共交通機関「トライメット」が運行する次世代型路面電車(LRT)の名称で、都市圏を迅速に結ぶ電車なのを示す「Metropolitan Area Express(メトロポリタン・エリア・エクスプレス)」を略している。躍動感のある名前に似つかわしく、LRTだけが走る専用軌道では最高時速90キロ近くで駆ける。
いずれもポートランド中心部と近郊を結ぶ5路線があるMAXの総延長は計100キロ弱と、日本初の全線新設LRTとして宇都宮市と栃木県芳賀町の間で2023年8月に開業した「宇都宮ライトレール」(14・6キロ)の約7倍に達する。
MAXはポートランド中心部にある停留場では環状線になった路面電車、近郊の停留場では幅広いトライメットの路線バスと乗り継げる。自転車の車内への持ち込みも可能だ。
利便性が高く、使う電気の100%を再生可能エネルギーで賄うなど環境に配慮したMAXは、トライメットが22年実施した調査で支持するとの回答が利用者の86%に上った。ポートランド在住の女性会社員(44歳)は「行きたいところにどこにでも行くことができ、ダイヤもおおむね信頼できるのでとても便利だ」と評価する。
▽初代型車両同士をつながない理由
MAXで営業運転中の電車には五つの形式がある。最初に開業した1986年に導入された初代型車両のタイプ1は旧ボンバルディア・トランスポーテーション(現在のフランスのアルストム)が製造し、1編成は二つの車体で構成されている。
タイプ1は乗降口に2段の階段があるのに対し、残るタイプ2、3、4、5はいずれも車いす利用者がそのまま乗り降りできるバリアフリー対応の超低床車両で「自転車や、ベビーカーを使っている利用者も迅速に乗り降りできる」(トライメット)。これらの四つの形式はドイツのシーメンスが製造し、1編成に三つの車体が連なる。
通常の営業運転では二つの編成を連結するが、タイプ1同士はつながない。なぜなら乗降口にある階段があるタイプ1は車いす利用者らに不都合なため、運転時にはバリアフリーに対応したタイプ2または3と連結して走るのだ。
MAXの先頭部などには3桁の車両番号が記されており、タイプの数字が先頭に付けられている。
▽試運転中の次世代車両を目撃
ポートランドを訪問した2023年10月、MAXの路線「レッドライン」の終点ポートランド空港停留場の南隣のマウントフッド通り停留場で試運転を進めている次世代車両タイプ6を目撃した。
シーメンスが造った三つの車体が連なる超低床車両で、青色の車体の側面にはオレンジ色の3本の斜めになったストライプが入っている。旧「踊り子」仕様の185系に描かれた3本の斜めストライプの緑色とは色彩が異なるものの、先が決して長くない185系のチャームポイントがまるで太平洋を越えて引き継がれたかのような世代交代劇は感慨深い。
タイプ6(定員168人)は発光ダイオード(LED)を用いた横長の前照灯を備えており、客室の大きな窓から沿線風景を楽しめる。車内の天井部にある案内表示で次の停留場などの情報をタイムリーに伝える。
トライメットのタイラー・グラフ広報責任者は「全部で30編成発注したタイプ6を5路線全てで運用する予定で、代わりにタイプ1を全て引退させる」と説明する。開業当初から活躍してきた形式の車両が消えるのは残念なものの、置き換え完了後にMAXはバリアフリーに対応した超低床車両が100%となる。持ち味の利用しやすさに磨きがかかり、環境先進都市の大動脈としての潜在力がマックス(最大限)まで高まることを期待したい。
☆共同通信・大塚圭一郎(おおつか・けいいちろう)ワシントン支局次長。自動車社会の米国にいながら車の運転を敬遠し、主に鉄道と路線バスで移動しています。公共交通機関が発達し、「美食の街」としても定評があるポートランドはニューヨークなどとともに米国で最もお気に入りの都市の一つです。