制作の現場は“地獄”の日々「真面目なやつが損する世界だったので悔しかった」テレビプロデューサー・上出遼平がテレビ東京時代を振り返る

TOKYO FMの音声配信プラットフォームAuDee(オーディー)の番組「長野智子のテレビなラジオ」(隔週火曜・10時配信)。1985年のフジテレビ入社以降、テレビ業界で活躍してきたフリーアナウンサー・長野智子が、テレビを牽引する制作者・出演者をゲストに招き、テレビの過去・現在・未来を語ります。

11月14日(火)、11月28日(火)の配信では、元テレビ東京プロデューサー・ディレクターの上出遼平さんがゲストに登場。ここでは、11月14日の内容をお届けします。テレビに対する見方や、テレビ東京に入った経緯について語ってくれました。

▶▶【音声を聴く】「長野智子のテレビなラジオ」

(左から)パーソナリティの長野智子、上出遼平さん

◆制作の現場は“地獄”の日々だった

1989年、東京生まれの上出遼平さん。早稲田大学を卒業後、2011年に株式会社テレビ東京に入社。「ありえへん∞世界」「世界ナゼそこに?日本人 〜知られざる波瀾万丈伝〜」「所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!」(テレビ東京)などの人気番組を担当します。企画・演出・撮影・編集など番組制作の全過程を1人で担った「ハイパーハードボイルドグルメリポート」でギャラクシー賞を受賞。2022年6月にはテレビ東京を退社し、以降はフリーランスとして活動中です。11月9日(木)には、初の書籍「歩山録」(講談社)を発売しました。

長野:配属はいきなり制作に?

上出:はい。最初からですね。当時は2011年、3.11直後の入社でした。

長野:大変な時期ですね。

上出:研修みたいなものもすっ飛ばされて即現場で、いきなり番組制作をやっていた記憶があります。

長野:実際のテレビ制作現場はどうでしたか?

上出:どこまで言っていいのかわからないんですよね。

長野:一言で言うと?

上出:地獄。

長野:(笑)。

上出:何度か泣きましたね。当時、テレ東は神谷町にあって御成門に編集所があり、下っ端はその間を歩くんですね。東京タワーがあるんですけど、見上げると泣いちゃってましたね(笑)。

長野:そうですかあ。怒られるのがつらかった?

上出:怒られるっていうか、否定されるんですよ。あらゆることがそうだと思うんですけど、納得感の有無ってメンタルにとって重要じゃないですか。納得感がないことが多い世界なので、責任逃れや責任転嫁が1日7件ぐらい起こる世界ですから。

真面目なやつが損する世界だったので悔しかったですね。あと、睡眠不足はありとあらゆる側面で悪影響があると思うので、眠れる労働環境を作れない状況はよろしくないですよね。

長野:そんななかでよく頑張りましたね。やりたいことができるようになったのは何年目ですか?

上出:「ハイパーハードボイルドグルメリポート」が初めてなので、6、7年目です。耐えられてはいたので向いていたのかもしれないですね。僕には同期が4人いたんですけど、最初の半年で2人いなくなってしまいました。

長野:すごいね、テレビ東京。

上出:そんなことを言うと敵が増えちゃいますけど、今は本当によくなったみたいです。本当につらかったけど耐えられたのは、中学校のときの試験勉強とかをやっていたからだと思いました。中学校の中間とか期末試験とかのたびに、1週間丸々寝ない生活を送っていたんですよ。あの地獄に比べたらわりとどっこいかなと感じたんですね。

入社して2、3年ぐらいは激しい日々を送って、自分のなかで苦しみに対する耐性がつきました。本当に嫌だったけど、結果的には一部いい部分もあったというか。自分の番組をやるってなったときに、最終的にどこまで踏ん張れるかが重要になるじゃないですか。締め切りもあるし、どこまでクオリティをつめられるかっていう、踏ん張る力を養えたと思います。なので、ギリギリ肯定できるかなと。

長野:なるほど。

◆テレビ東京が急成長した理由は?

長野:制作者として影響を受けたディレクターや上司はいましたか?

上出:いないですね。

長野:テレビ東京ってすごくユニークな作り手が多いですよね。

上出:こうなりたいっていうような人はいないんですよ。僕の後輩もそうだと思うんですけど、テレビ東京は欠陥人間のオンパレードなので。

長野:そんなことはないです(笑)。

上出:僕もそうなんですけど、ものすごく欠落している人は多いんですよ。だけど、それぞれに「ここは敵わん」ってところがあるんですね。もちろん佐久間宣行さんにもあるし、高橋弘樹さんにもある。でも、そういう人たちの80パーセントぐらいは反面教師にすべき部分で、残り20パーセントぐらいは許せる部分。0.0001パーセントぐらいが「すごいな」と思える部分ですかね。

長野:すくなっ(笑)! だからこそ、テレビ東京は右肩上がりになったんじゃないでしょうか。私はフジテレビにいましたけども、欠落した人たちばっかりだったのがエリートっぽい集団に変化した印象があります。

テレビ局としてどうなんだろうって部分はあったんだけど、テレビ東京はそれこそ上出さんが入社された以降ぐらい、すごく人気が出たじゃないですか。今お話しになったように、そういった人たちが働いているのは大きかったんじゃないでしょうか。

上出:それに尽きると思います。社会的には危険な人間のアイデアとか突破力を持った番組が、2011年ぐらいからいつくか生まれたんだと思います。「Youは何しに日本へ?」とか「家、ついて行ってイイですか?」とかは代表例だと思いますね。

◆活力にあふれる中京テレビ

上出:僕は今、東海地方の中京テレビとだけ仕事をしているんですけど、面白いですね。

長野:私は民放連の審査員をしているんですけど、ローカルのドキュメンタリーとかめちゃくちゃ面白いですね。

上出:そうなんですよ。

長野:テレビってまだできるんですよね。

上出:勝手ながら、僕は中京テレビに10年前のテレビ東京を感じているんですね。挑戦する者としてのスタンスがあって、守りではないんですよね。若手たちと番組のことを考えているときにワクワクしますし、ポジティブなエネルギーがあります。

長野:今はどんなものを作っているんですか?

上出:今年は「こどもディレクター」という番組をやらせてもらいました。「オモウマい店」の若いディレクターの子の番組を手伝わせていただいた形です。

長野:へええ!

上出:すごくいい番組で、基本は街録スタートでディレクターがカメラを適当な人に渡して、ご家族に今まで聞けなかったこととかを聞いたり、こどもディレクターとして親御さんとかに話を聞いたりします。タイトルだけ見ると小学生ぐらいをイメージしますけど、50歳ぐらいのこどもディレクターもいる番組です。どんな家族にも壁みたいなものはあると思うんですけど、カメラを渡されたきっかけをもって崩せるみたいなことが番組になるんですよ。

長野:すごいなあ。

\----------------------------------------------------
▶▶「長野智子のテレビなラジオ」AuDee(オーディー)音声版
\----------------------------------------------------

<番組情報>
番組名:長野智子のテレビなラジオ
配信日時:隔週火曜・10時配信
パーソナリティ:長野智子
番組サイト:https://audee.jp/program/show/100000367

© ジグノシステムジャパン株式会社