【ラグビー】<あの激戦をもう一度>「木原健裕さんの『魂のプレー』を見て、慶應に憧れました」 富田颯樹の原点となった試合/2014年 早慶戦

2014年11月23日(日・祝)関東大学対抗戦Aグループ 対早稲田大学 @秩父宮ラグビー場

△慶大 25{13―15、12―10}25 早大△

ここ10年、引き分け含め7点差以内での負けが8試合あるが、引き分け試合がこの試合である。木原主将のもと対抗戦は4位、大学選手権ベスト4まで勝ち残ったチームだ。慶大はこの代から正月越えを成し遂げていない。また、この前年は早大に7−69で惨敗した分、その雪辱を晴らそうと塾歌斉唱の段階から顔には熱意が滲んでいた。

関東大学対抗戦Aグループ 
慶應義塾大学	2014/11/23(日・祝)	早稲田大学
前半	後半	ロスタイム:2分	前半	後半
1	2	トライ(T)	2	1
1	1	コンバージョン(G)	1	1
2	0	ペナルティゴール(PG)	1	1
0	0	ドロップゴール(DG)	0	0
13	12	計	15	10
25	合計	25
前半5分  矢川(PG)	得点者	前半16分 小倉(PG)

帝京大が6連勝ですでに対抗戦4連覇を決めていた。明大が5勝1敗で2位、慶大と早大が4勝1敗で3位に並んでおり、この試合に勝った方が帝京大との同率優勝の可能性を残すという試合だった。この試合には19,394人の観客が集まった。慶大生は黄色、早大生はエンジ色のバルーンスティックを叩いたり振ったりして、応援も賑わっていた。

矢川のキックで試合が始まった。慶大は前半3分、相手ボールのファーストスクラムで慶大が押し込むと、ノックオンを誘いターンオーバー。ラックで相手のオフサイド、慶大はショットを選択。矢川が難なくゴールを決め、3点を先制する。なお、矢川は清真学園高出身であり、当時の和田康二監督(現GM)も清真学園高出身。そして青貫浩之現監督も清真学園高出身である。和田元監督は第101代主将、青貫監督は第107代主将、そして矢川は次年度主将を務め第116代主将ということになった。

8分にも、慶大は相手のペナルティからタッチで敵陣5メートルラインまで前進。スコアには結びつかなかったものの、慶大の攻撃が続く序盤となった。見どころ(2023年早慶戦)に、早大は開始序盤はスコアすることが少なく、早慶戦の立ち上がりは苦手気味であり、PGで先制をしたいと書いたが、この試合も同じような展開となった。

12分からの相手の攻め込みに対し、慶大は22メートル内で凌いでいたもののハンドを取られた末、小倉にショットを決められ3−3の同点となった。しかし直後の18分、相手のノットリリースザボールがあると、矢川が40メートルのショットを成功させ、6−3と勝ち越す。

このまま流れに乗りたい慶大だが、ノックオンをしてしまい相手に攻め込まれる。さらに展開してくる早大、佐藤が右のエッジを駆け上がろうとしたところを、服部が突き飛ばした。NO.8とWTBだと、前者の選手の方が力はありそうに思えるが、そんなことは関係なく「魂のタックル」で追い出した。しかし、なおも敵陣で圧力をかけられペナルティを続けてしまい、大峯にトライを許し6−8と逆転される。慶大はマイボールでの攻撃を敵陣でしたいところだったが、自陣からのドロップアウトで相手にボールが渡ると、快足の荻野に中央でゲインを2つ切られ、矢川が追いかけるも及ばず追加点を許す。

34分、宮澤が顔の負傷で交代し南が入る。SHが変わり、攻撃のテンポ含め試合の流れが変わりそうだ。すると相手のノットリリースザボールもあり、タッチからのラインアウト。今年の慶大はモールに主眼を置いているが、当時もモールは強力だ。相手に押し返されつつもペナルティを獲得し、トライまで残り5メートルでモールを組むと、どんどん前進し神谷が残り1メートルというところまでキャリー。ここは意地と意地のぶつかり合いとなり、青木がグラウンディングを狙うも数センチメートル足りず、ノーグラウンディングの判定。スクラムを選択する前に15人で円陣を組み意思統一をした。円陣の声かけは木原だ。そして組んだスクラムは安定し、まずは森川がアタック。一つフェイズを重ねた後、神谷がボールを拾い瞬時に森川にパス。そのまま相手ディフェンスを突破しトライを決めた。コンバージョンも決まり13−15で前半を折り返す。

後半の立ち上がり。相手のキックオフに対し自陣から回していく。中村が小柄ながらもステップでタックルを交わし前進を図る。結局キックをしたが、自陣からでも回して攻めるぞという気合を感じる立ち上がりとなった。

試合はすぐに動いた。後半4分、ハイパントのこぼれ球を川原が拾うと一気に前へ。トライまで残り10メートルで廣川がブラインドサイドをつきトライ。両者通じて後半初のスコアは、慶大のトライから生まれた。15−18と逆転に成功する。

慶大が先手に出ると早大も負けじと反撃してくるのが早慶戦。なかなか一方的な展開にはなりにくいのだろうか。オフサイドを取られ、5メートルラインでのラインアウトとピンチを迎える。逆転した直後だからこそ、無失点で切り抜けたい慶大は、森川がラインアウトでスチールに成功。この日の森川は存在感抜群であった。しかし一難去ってまた一難、リバウンドのボールで今度は小倉がDGを狙ってきた。わずかに右にそれるも、目まぐるしい攻防が続いていた。慶大の原点であるディフェンスは、終始光っていた。岡田がラックから狭い方のサイドをつくと、南が好タックルを見せタッチライン外に追い出す。慶大がライン際のディフェンスで魅せたのはこの日何度もあり、相手の展開ラグビーを封じていた。また、この攻防の中で青木のタックルでランナーを一発で倒すということが2度もあった。「魂のタックル」全開で戦えていた。

そんな慶大だったが、18分にインゴール前でインターセプトを許しトライを奪われ逆転される。18−22となったところで最後の20分間を迎えた。ここからはキック合戦もあったが、26分、小倉にPGを決められ7点にリードを広げられる。

7点差ならば1トライ1ゴールで追いつく点差。慶大は自陣から金澤、森川、廣川のゲインなど、キックを用いずに敵陣インゴール付近まで前進。右サイドに選手が余っている状態で、石橋が相手2人を引き連れ、最後は3対1と数的優位を作り最後は金澤がインゴール中央へ飛び込んだ。慶大応援席からはこの日MAXの歓声が響いた。コンバージョンも矢川が確実に決め、ついに25−25の同点となる。

勝負の行方はどちらに転ぶのかというところで、またもや青木が見せた。相手がマイボールのラインアウトをキープし、アタックをしようとした場面で、青木が加藤を裏返す好タックル。相手の倒れ込みを誘い、青木らFW陣は雄叫びをあげた。

そして最後の最後に、慶大にチャンスが訪れる。ノーサイドまで残り2分、矢川が好タッチキックもあり4年ぶりの勝利のトライまで残り5メートル弱と攻め込む。木原が味方を大きな声で鼓舞する。相手のコラプシングがあり、そのアドバンテージが採用されると、木原の下した決断はラインアウトモール。そしてモールを組むと、木原が最後の力を振り絞るかのような顔つきでモールを中心から引っ張る。ドロップゴールを試みるもチャージされると、アドバンテージ後再び攻め、あとトライまで1メートルくらいまで詰め寄る。木原が神谷のサポートとともに突っ込むも、相手も懸命に守った。その後もフェイズを重ね攻めるもノックオン。25−25で激戦は幕を閉じた。

この試合はシーソーゲームの激戦となった。試合終了後の和田監督の悔しそうな素振りを見ると、最後トライを取り切って勝ちたかったという悔しさも伺える。慶大は青木の猛タックルを筆頭にディフェンスが光り、ライン際での攻防を全て制し相手の攻撃を封じた。最後の約5分の攻防は、両大学の意地と意地のぶつかり合いが垣間見えたシーンだった。粉骨砕身で相手に飛び込んでいく慶大選手、木原の懸命に体を張りながら声を出してチームを率いる勇姿に、富田や多くの人が惹かれたのではないか。早慶戦は、多くの人の心を動かす舞台だ。今回は、国立開催で100回大会というさらに特別な舞台となる。「自分も慶應ラグビー部でラグビーがしたい」「タイガージャージを着てプレーしたい」と既に思っている子どもも、明日の試合を観てそう思う子どももたくさんいるだろう。富田が木原の姿に心動かされたように、今度は富田が誰かの姿を動かす。そして早慶戦勝利、正月越えを成し遂げてみせる。

国立での富田の躍動に期待だ

(記事:野上 賢太郎)

慶應義塾大学
#	氏名	学年	出身校
1	青木 周大	4	慶應
2	神谷 哲平	4	桐蔭学園
3	出口 桂	3	明善
4	小山田 潤平	4	慶應
5	白子 雄太郎	4	慶應
6	廣川 翔也	2	東福岡
7	木原 健裕	4	本郷
8	森川 翼	4	桐蔭学園
9	宮澤 尚人	4	慶應
10	矢川 智基	3	清真学園
11	服部 祐一郎	4	國學院久我山
12	石橋 拓也	4	小倉
13	川原 健太朗	4	小倉
14	金澤 徹	1	慶應
15	中村 敬介	3	慶應
16	堀切 厚輝	2	國學院久我山
17	佐藤 耀	3	本郷
18	大塚 健太	3	國學院久我山
19	西出 翼	3	慶應ニューヨーク
20	古岡 是道	4	慶應
21	南 篤志	3	清真学園
22	名頭薗 泰輝	4	慶應
23	浦野 龍基	4	慶應志木
早稲田大学
#	氏名	学年	出身校
1	高橋 俊太郎	4	早稲田実
2	清水 新也	4	仙台育英
3	千葉 太一	2	早稲田実
4	大峯 功三	4	東筑
5	桑野 詠真	2	筑紫
6	布巻 峻介	4	東福岡
7	加藤 広人	1	秋田工業
8	佐藤 穣司	3	日川
9	岡田 一平	3	常翔学園
10	小倉 順平	4	桐蔭学園
11	本田 宗詩	2	福岡
12	飯野 恭史	4	早稲田実
13	勝浦 秋	2	千種
14	荻野 岳志	4	柏陽
15	黒木 健人	1	高鍋
16	佐田 涼祐	2	早稲田実
17	菅野 卓磨	4	早稲田実
18	佐藤 勇人	4	秋田中央
19	仲元寺 宏行	3	尾道
20	吉田 有輝	4	大分舞鶴
21	平野 航輝	4	長崎南山
22	横山 陽介	1	桐蔭学園
23	鶴川 達彦	1	桐蔭中等

© 慶應スポーツ新聞会