伊勢原を薬草の里に 漢方薬材料「マオウ」栽培、国内初の商業出荷に成功

夏に初めて商業出荷を行ったマオウ畑。一番手前が植えて3年目のもの=8日、伊勢原市日向地区

 漢方薬の材料に使われる生薬で、国内消費量のほぼ全量が輸入とされるマオウ(麻黄)が神奈川県伊勢原市日向地区で商業栽培の道を歩み始めた。着手から8年ほど、試行錯誤を重ねて優良株を開発、今夏には国内初という商業出荷につなげた。関係者は「ゆくゆくは伊勢原を薬草の里としたい」と夢を語る。

 マオウは、代表的な漢方薬である葛根湯や麻黄湯の材料として知られる。国内には自生せず、中国からの輸入に依存しているが、農地開発や土地の砂漠化などで野生のマオウが減り、輸出規制が行われている。安定供給などを目指して国内では20年以上前から栽培に向けた取り組みが進められているが、実用化していないという。

 石川県で研究を進めていた第一人者である大学教授から知人を介して依頼を受け、伊勢原でも8年ほど前から一般社団法人「国産生薬生産普及協会」によって始められた。

 国内栽培で壁となっているのは、マオウの薬効成分である「アルカロイド」だ。医薬品の規格基準書である「日本薬局方」では、生薬としての麻黄は総アルカロイド含量が0.7%以上と定められている。

 伊勢原ではこの「0.7%の壁」を破り、栽培が容易な株分けで増やせる品種の開発に挑んだ。数種の雄株・雌株を掛け合わせ、栽培して成分などを調べた。同協会専務理事で、東京農業大客員研究員の野村行宏さん(55)は「競走馬をつくるような感じ。それも栽培して2、3年たたないと分からないから時間がかかる」と振り返る。ようやく2021年に条件をクリアする優良株を発見し、商業栽培を始めた。

 3年目となる今年は8月下旬に初めて45キロ(乾燥重量)を収穫し、漢方薬メーカーに納入した。総アルカロイドは0.85%あったという。野村さんは「火山灰の黒い土は保湿性、通気性に優れている。それがよかったのかもしれない」と理由として地元の土質を可能性の一つに挙げている。

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