「あの会社は飛ぶぞ」と言われた1年後、本当に倒産…言葉のプロが痛感した“捨てること”の重要性【ひと言でまとめる技術】

言いたいことはあるけれど、言葉がうまくまとまらない……。そうした悩みを抱える人は多い。

現代社会にあふれている「情報」の量は、インターネットの登場を機に爆発的に増加し、江戸時代の一年分、平安時代の一生分の情報が、現代社会のたった一日で生まれ、消費されているという。

情報過多の現代においては、言いたいことを表現するにもさまざまな意見や価値観があふれていて、あまりに選択肢がありすぎるために「ひと言で言えない」状態になっている。大量の情報におぼれないために、「伝えるべき情報は何かを自分の頭で考え、ひと言にまとめていく練習」が必要なのだ。

そこで電通のコピーライター、クリエーティブディレクターとして活躍する勝浦雅彦氏が伝えるための技術をまとめた『ひと言でまとめる技術 言語化力・伝達力・要約力がぜんぶ身につく31のコツ』(アスコム刊)から一部抜粋、再構成してお届けする。

■本当に伝えたいことは、ひと言でまとめられる

とある経営者の方から「仕事上、いろんなところでスピーチを求められるのだが、どうも話がうまく伝わらないし、盛り上がらない。朝会で社員向けにスピーチしている映像を見せるので、アドバイスをくれないか」と相談されたことがあります。

20分ほどの映像を見終わった私は、「内容云々の前に、話が長いです。時間を3分の1くらいにできると思います。ほかのビジネスの場でも、同じように長くしゃべっていませんか? まず、話を短くまとめることを考えましょう」とアドバイスしました。聞けば、社員への訓示は毎週行っているとのことです。

「毎週、大事件が起きるならいざ知らず、ましてや経営会議でもないわけですから、訓示に20分もいりません。伝えたいことをひとつだけ選び、『今日はこれだけを話します』と前置きすると、社員のみなさんも『偉い人の話を全部聞かなければならない』というプレッシャーから解放されると思います」と私はお伝えしました。

この話のあと、「とはいえ、伝えたいことはたくさんあるんだけどな。目標の数字とか市場状況とか……」と社長さんはブツブツ言っていたのですが、「5分限定でひとつの話題しか話さない」というルールを実践した結果、社員のウケもよくなり、朝の時間の雰囲気が改善されたことを実感できたそうです。

そして何よりうれしかったのは、社員たちが「何を話していたのかをしっかり覚えてくれていたこと」だそうです。

言葉を発するときには、「本当に伝えたいことは何か」を意識することがいかに大切かを実感した出来事でした。

■「捨てる技術」を身につけて伝え方をアップデートする

【問題】ビジネスの目標達成のためにはどちらが大事でしょう?

1. 何をするか決める
2. 何をしないか決める

答えは2の「何をしないか決める」です。

ご存じの方もいるかもしれませんが、スティーブ・ジョブズが言い残したと言われている言葉です。

では、なぜ何をしないか決めることが大事なのでしょうか?

あなたはtodoリストをつくってはみたものの、優先順位をつけられないまま時が過ぎ、気づけば一日が終わってしまったという経験はないでしょうか?

どう考えても一日ではできないことなのに、つい詰め込んでやろうとしてしまう。夏休みの宿題と同じです。

人間は何かをしようとするとき、「いまの状況に何を足していくか?」から入りがちです。そのほうがプラスの行動に思えるし、「やっている感」が得られるからです。

ですが、この考え方で選択肢を増やしていくと、たいてい混乱します。

人間には、持っている時間にも行動のエネルギーにも、限りがあるからです。

するべきでないことは、視界から消してしまいましょう。

それによって、本当にやらなければならないことに注力できるようになります。

営業職だったころ、創業して間もないとあるベンチャー企業から電話がかかってきたことがありました。「新聞広告を出稿したいが、設立したばかりで実績がないので相談したい」といった内容でした。

先輩とともにさっそくその企業に向かったところ、プリント1枚の会社案内を見せられました。その事業目的の欄には「通信」「建設」「金融」「リサイクルショップ」「英会話教室」……挙げ句の果てには「占い」「パワーストーンの販売」といった項目までが書かれていました。

帰り道に先輩が、「あの会社は、おそらく飛ぶ(潰れる)ぞ。取引は見送ったほうがいい」とつぶやきました。1年後、その会社は影も形もなくなっていました。

「あれもこれもできます」というのではなく、「弊社は◯◯のプロです」と言ってもらうほうが信用できると思った瞬間でした。

■「捨てる」と「残す」を見極める

私は企業から預かった膨大な経営戦略、商品開発、市場調査などの資料を徹底的に読み込み、その99.99%を捨て、ほんの数行のメッセージに凝縮する仕事をしています。

クライアントは自社や商品に思い入れがありますから、「あれも言いたい。これも入れたい。その情報にも触れないとほかの部署が怒る」といった事情を抱えています。

私はその際、いったん事情をのみ込みつつ、「多くを言おうとするとひとつも伝わらなくなります」と、利用者の代弁者となって正論を伝えます。

まずは勇気を持って、「捨てる」ことからあなたの仕事を変えていきましょう。

【PROFILE】

勝浦雅彦(かつうら・まさひこ)

コピーライター。法政大学特別講師。「宣伝会議」講師。千葉県出身。読売広告社に入社後、営業局を経てクリエーティブ局に配属。その後、電通九州、電通東日本を経て、現在、株式会社電通のコピーライター、クリエーティブディレクターとして活躍中。また、15年以上にわたり、大学や教育講座の講師を務め、広告の枠からはみ出したコミュニケーション技術の講義を数多く行ってきた。クリエイター・オブ・ ザ・イヤーメダリスト、ADFEST FILM最高賞、Cannes Lionsなど国内外の受賞歴多数。著書に『つながるための言葉』(光文社)がある。

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