スズ子のお母ちゃん、逝く…桃のシーンは脚本家の思いを反映

11月23日放送の『ブギウギ』(NHK総合)第39話で、スズ子(趣里)の母・ツヤ(水川あさみ)が亡くなった。スズ子に生きる喜びと芸事の素晴らしさを教えた「歌手・福来スズ子」の産みの親であるツヤと、演じる水川あさみの魅力について、制作統括の福岡利武さんに聞いた。

ツヤを演じた水川あさみ (C)NHK

■「最後は明るく見送りたい…」脚本家・足立紳の思い

「スズ子の歌に送られてツヤが亡くなりましたが、その少し前の、出征する六郎(黒崎煌代)との別れも印象的でした」と振りかえる福岡さん。

「水川さんは本番以外でもいつも黒崎さんに『六郎、六郎』と声をかけていらっしゃって、黒崎さんも『六郎』として『お母ちゃん』に必死でぶつかっていました。ドラマだけれど、本当に親子に見えましたし、複雑で繊細な『親子の感情』が垣間見えて、素晴らしかったです。子役の六郎(又野暁仁)の頃からの積み重ねで、水川さんのなかでも、六郎への思いができあがっていましたね」と明かす。

また、ツヤが亡くなる間際、アホのおっちゃん(岡部たかし)がやっと見つけてきた桃を食べて一瞬元気を取り戻したシーンには、脚本家・足立紳による、ツヤへの思いが現れているのだという。

桃を食べたツヤ(水川あさみ)が一瞬元気を取り戻し、番台に入ったシーン (C)NHK

「足立さんは、最後は明るく見送りたい、どうしたらツヤらしいお別れになるだろうかと、ずいぶん考え抜かれたようです。『ああ、もう亡くなってしまう・・・』というしんみりしたお別れよりも、ああいう予想外の展開が一瞬あったり、スズ子と梅吉(柳葉敏郎)が言い合いになって、漫才みたいになっていくことで『ブギウギ』らしい家族のかたちが描けたのではないかと思います」と、ツヤ退場のエピソードの出来に自信を見せた。

■ 水川あさみの撮了に駆けつけた「はな湯」の常連たち

水川あさみのオールアップ(撮了)は、病床のツヤにスズ子が「恋はやさし野辺の花よ」を歌って聴かせ、「この日、お母ちゃんは天のお星さまになりました」というスズ子のモノローグで終わる39話のラストシーンだった。

そのときの様子について福岡さんは、「最後はツヤ、スズ子、梅吉と、家族3人だけのシーンだったのですが、撮影には『はな湯』の常連さんたちが、自分たちの出番はないのに駆けつけて見守っていました。やっぱりツヤあっての『はな湯』なんだという思いは、みんなにあったようで。カットがかかった後は、拍手が鳴り止まなかったです」と明かす。

「ただ、みんなで来てくれたのはいいのですが、『はな湯』のメンバーが集まるとすぐバカ話をはじめるので、うるさいという難点はありました」と笑いながら振りかえった。

最後に俳優・水川あさみの魅力を聞くと、福岡さんは「これぞ『ブギウギ』、これぞスズ子のお母ちゃんという人だと思います。明るくてさっぱりしていて、台詞に説得力もあって、いつも大きなユーモアで周りをくるんで。スズ子の『ズキズキワクワク』の源となるツヤそのままの俳優さんだと思います」と、役を演じ終えた水川を労った。

ドラマはツヤとスズ子の「母娘の物語」に一区切りがつき、次章へと連なる。スズ子の新たな「ズキズキワクワク」を見守りたい。

取材・文/佐野華英

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