医療事情に不満 長崎・上五島病院 町民「待ち時間長い」、現場「業務量多い」

人口10万人に対する医師数(2020年12月末現在。長崎県調べ)

 長崎県上五島病院(新上五島町)に対し、町民から「待ち時間が長い」「担当の医師がすぐに転勤する」と不満が多く聞かれる。一方、医療現場からは「業務量が多い」と医師やスタッフの疲弊を憂う声が上がる。町内の総合病院は県病院企業団に所属する同病院(救急医療、救急告示病院)のみ。島の医療体制は十分なのか。現状を取材した。
 
 同病院の内科に毎月通院する60代男性は午前10時の診察予約をすると、同9時には血液検査などを済ませて、診察を待つ。「診察が終わるのは正午近く。平日に休みがある仕事だからいいが、半日はつぶれる」と話した。仕事をしている人や、体力が衰えた患者にとってはなかなかの負担だ。
 同病院は内科、外科、小児科、産婦人科など18の診療科目、186床を備え、付属の2診療所では内科、外科など5~6の診療科目に対応。町立の3診療所、非常設の8診療所も同病院の医師が兼務する。
 同町の人口は1万7220人(10月1日現在)。離島部の医師の少なさは顕著だ。県によると、人口10万人に対する医師数(2020年12月現在)は県本土部343.5人に対し、同町217.1人、離島部213.7人。歯科を除くと、民間病院がないのもこの島の特徴。島外への通院は時間、交通アクセス、諸経費などの障害があり、決して容易ではない。
 同病院の一宮邦訓院長は「住む場所に医療がないと人は生活できない。民間病院がない離島という特殊な環境で、医師数不足を感じるが、本土に負けないような医療に尽力している」と話す。ただ、看護師数の不足から縮小する診療科も出ており、「医師、看護師の業務量は多い方ではないか」と憂慮する。
 医師の受け持ち患者が多いと待ち時間は延びる。患者の不満は医療現場の逼迫(ひっぱく)の表れともいえる。一方で同病院のあるスタッフは「基幹病院の役割に支障が出ないよう、診療所で十分な症状の人は診療所で受診するなど患者側にも考慮してほしい」と胸中を語る。
 60代女性からは「医師が2、3年で転出し、信頼関係を築きづらい」という意見も聞かれる。一宮院長は「若い医師の経験のためと理解してほしい」としながら、「食や生活習慣などを把握し、町に住み続ける“町民医師”が増えてくれたら」と話した。
 県病院企業団は県内に計8病院と付属の3診療所を設置している。県上五島病院は26年度末ごろ、隣接地に新病院を開業予定。同企業団本部によると、休床中の32床を差し引き、154床となる。待合スペースの拡充や動線など環境整備、ヘリポート設置で利便性は向上するという。担当者は取材に対し、「県内の離島は同じような状況。県病院企業団の基幹病院が地域のとりでとして、持続可能な体制をつくっていく必要がある。医療関係の人材育成にも力を入れたい」と答えた。

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