将棋の棋士「大山康晴名人(おおやま やすはる めいじん)」を知っていますか。
大山康晴名人は倉敷が生んだ棋士であり、前人未倒の大記録を次々に生み出し将棋一筋に生きました。
そんな名人の熱い思いを菓子作りに表した和菓子屋が倉敷高須賀にありました。
和菓子屋の名前は「倉敷遊菓庵 文近堂」(以下、文近堂)。
郷土愛あふれるお菓子やユニークな創作和菓子を提供している、文近堂の魅力を紹介します。
文近堂とは?
文近堂は、茶屋町駅から車で西に7分ほど行ったところにあります。
周りは田んぼが多く、のどかな空間が広がっています。
お店の入り口は全面ガラス張りになっており、外から見えるようになっていました。
屋根は吹き抜けになっており、開放感があります。
お店の入口にはベンチが置いてあり、一息つくのにちょうどいいですね。
店内のお菓子
店内には、お店の名物の「大山名人もなか」をはじめ、「おぼろ月」や「花いぐさ」、「かすてら」などさまざまなお菓子が並んでいます。
大山名人もなか
「大山名人もなか」は、文近堂の名物お菓子。
見た目は将棋の駒である「歩」を形取って作られていて、大納言小豆をじっくり煮込んだつぶあん入りの最中となっています。
小豆の中で、とくに大きな特定の品種群は「大納言」と呼ばれているそうです。
普通の小豆の品種とは区別され、煮たときに皮が破れにくいなどの特徴を持っています。
また、この最中は倉敷が生んだ大山康晴名人の「歩を成金にするには一歩一歩の努力が必要だ」という熱い想いが込められたお菓子です。
生クリーム大福
生クリーム大福の詰め合わせには、箱の中には「チーズ大福」、「カフェオーレ大福」、「いちごオーレ大福」、「レモンオーレ大福」の4種類が入っていました。
美味しく食べられるように冷凍の状態で提供されています。
半解凍ぐらいがおすすめで、冷蔵保存で2日ほど日持ちしました。
食べてみると全部美味しかったのですが、なかでも筆者のおすすめは「カフェオーレ大福」です。
カフェオーレ大福は、文近堂でも大福人気No.1の商品となっています。
柔らかなお餅の中に、コーヒー餡のほろにがさと生クリームのまろやかさが絶妙にマッチしていました。
またリピートしたいと思います。
お菓子作りの作業風景
実際にお菓子作りの作業風景を見学してきました。
こちらはぶどう大福の作業風景です。
写真はマスカットを餡で包んでいます。
写真からもわかるように、かなり大きなマスカットを使っていました。
このサイズのマスカットは常に手に入らないので、毎日作っているわけではないそうです。
餡で包んだマスカットをお餅に包んでいきます。
実施に見て見ると無駄のない動きで素早く包み、そしてきれいな丸形の大福となっていきます。
職人の技術を目の当たりにしました。
作ったぶどう大福をその場でいただきました。
断面をみると、ほぼマスカットですね。
食べてみるとマスカットが大きく、とても食べ応えがあります。
餡は上品な甘さでマスカットを邪魔せず味を引き出しています。
ハロウィンのお菓子
取材をしたのが10月だったので、ハロウィンに合わせたお菓子もありました。
文近堂では王道のお菓子の他に、ハロウィンやクリスマスなどのイベントに合わせたお菓子も作っています。
味だけでなく、目で見て楽しめます。
子どもや女性が喜びそうですね。
お菓子作りの作業風景を実際に目の前で見せていただき、大変貴重な経験となりました。
田園風景に囲まれ、のどかな空間の中でさまざまな和菓子を楽しめる文近堂。
そんな文近堂の代表取締役である大崎貫達(おおさき かんたつ)さんと、専務取締役である大崎喬寛(おおさき たかひろ)さんにお話を聞いてみました。
文近堂の代表取締役大崎貫達さんと専務取締役の大崎喬寛さんへインタビュー
親子でもある代表取締役の大崎貫達さんと、専務取締役の喬寛さんにお店への想いなどをお聞きしました。
──お店の歴史を教えてください。
貫達さん(敬称略)──
開業したのは1981年です。
高校を出て専門学校に行き、京都や東京などのお店での修業を経て、当時私が30歳のときに独立開業をしました。
最初は今の倉敷ではなく岡山市で創業し、そこから6年ほどやって地元である倉敷にお店を移したんです。
あんこへのこだわり
──お店の特徴を教えてください。
喬博さん(敬称略)──
お店の特徴は、ほとんど機械を使わずに手作りをしていることです。
今の時代、あんこを本当に一から作るのは珍しいと思います。
あんこには、つぶあんとこしあんの2種類があります。
つぶあんは豆を炊いて塩と砂糖を加えて作りますが、それほど難しくありません。
それに比べて、こしあんは皮を取り除く作業や灰汁(あく)を取る沈殿作業、さらに砂糖を入れ弱火で焦げないように混ぜ続ける作業があるため大変手間がかかります。
こしあんを一から作るのは、ラーメン屋でいう出汁から作るようなものです。
さらに、うちのお菓子のあんこはすべて違います。
最中には最中の豆の炊き方があったり、砂糖の量とか、寒天が入っていたり入っていなかったり。
豆もお菓子によって使い分けています。
お菓子によってあんこの甘さ、炊き方、砂糖の量などすべて違うんですよね。
湿度や気温によっても変えていて、あんこはやればやるほど奥が深いです。
あんこが美味しいと言って来てくださるかたがいるので、そこはやっぱりこだわっていきたいと思います。
地元の果物を使用
喬寛さん──
他にも果物にもこだわっていて、地元のものを使用するようにしています。
たとえば、いちご、ぶどう、桃は地元で生産されたものです。
ラ・フランスなど一部県外のものも使用しています。
なるべく地元の生産された果物を使って、いろいろな新しいものを作っていきたいです。
──お店の一番人気の商品を教えてください。
貫達さん──
一番人気があるのは大山名人もなかです。
大山名人記念館の開館がきっかけで、倉敷のこんなに有名な人を全国に紹介したいと思いました。
そこでできたのが、この大山名人もなかです。
私自身は将棋をするわけではないのですが、大山名人は全国的にも将棋関係者の中では有名で、何より記録がすごい。
前人未踏の大記録を次々に生み出したんです。
こんな偉大な人がいたら倉敷にいたら紹介したくなりますよね。
見た目も将棋の駒の形をしているのでインパクトがあり、手土産で喜ばれています。
このお菓子を通して大山名人、そして倉敷のことを全国の人に知ってもらうことが願いです。
──お店や商品への想いを教えてください。
喬寛さん──
お店では、やっぱり自分が作って美味しいものをお客さんに食べてもらいたいですね。
今は原料が高騰していますが、そこで質を落としたくないと常に思っています。
クオリティをしっかりしたものを出して、自分たちが安心安全で美味しいと思えるものをお客さんに食べてほしいです。
材料屋さんが同じようなものを持ってこられても、実際に食べ比べて本当に美味しいいと思ったものを使うようにしています。
高すぎて使えないものもありますが、そこはある程度値段に関係なく美味しいものを使おうというスタンスです。
お客さんが来て楽しいと思ってもらうためには、たくさんのお菓子の種類があって、常に新しいものがあることが必要だと思います。
──今後やってみたいことはありますか?
貫達さん──
もっとお菓子作りを追及していきたいです。
お菓子の流行は時代によって変わってくる。
私が若いときはお茶の席にも渋いお菓子が主流でした。
しかし、今は華やかでかわいいお菓子が若い人にうけている。
時代に合わせて自分がいかに付いて行けるか、お客さんに喜んでもらえるお菓子を作れるか。
そういったことを技術者として追及していきたいです。
お客さんを喜ばせるお菓子、気持ちを高ぶらせるお菓子は時代とともに変わってくる。
時代に合わせたものを作れるのが職人であり、いつの時代もお客さんが喜ぶようなお菓子を作っていきたいです。
おわりに
1981年に開業した「倉敷遊菓庵 文近堂」。
お話を聞いてあんこに対する強いこだわりを感じました。
郷土愛あふれるものや季節のものを取り入れたものなど、さまざまなお菓子を楽しめます。
お店はのどかな田園風景の中にあり、非日常を味わいながらゆっくりとした時間を過ごせました。
茶屋町方面に訪れたかたや和菓子好きなかたは、機会があれば一度行ってみてください。