試行錯誤重ねて5年、兵庫・淡路島でアボカド収穫成功 実は倍の重さ、味はフルーツのよう

アボカドの収穫に成功した下脇昇さん=淡路市王子

 国内での栽培は少ないアボカドの収穫に、兵庫県淡路市王子でペンションを経営する下脇昇さん(60)が成功した。2019年に初めて苗を植えてから5年目、自宅近くの農地などで試行錯誤を繰り返し、ようやく実現した。下脇さんは「知識も経験もないゼロからのスタートだった。大切に育てる気持ちと、苦労が実を結んだ」と喜ぶ。採れたてのアボカドは23日から、同市塩田新島の「あわじ産直市場おのころ畑」の店頭に並ぶ。(内田世紀)

 下脇さんは明石市に生まれ、高砂市で育った。大学を卒業後、大阪のIT関連企業に就職。技術者として10年ほど勤めた後、脱サラした。

 「お客さまとの距離が近く、居心地の良いペンションを経営したい」と1999年、当時1歳の娘と妻の3人で淡路島へ移住した。王子地区で、隠居を考えていた前オーナーからペンションを購入。「子育ての手助けをしたい」と、子どもがいる家族を受け入れる「キッズペンション・フルーツジュース」を開いた。

 宿泊客に提供する料理には強くこだわった。島内産の新鮮な野菜を使うほか、トマトやキュウリ、ズッキーニなどは自家菜園で栽培する。「さらに良い食材はないか」と模索する中、「最も栄養価の高い果実としてギネスブックに登録されている」というアボカドに興味が湧いた。

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 アボカドは中南米原産。熱帯地方などで育つ常緑高木に実を付ける。良質な栄養素に富み「森のバター」の異名を持つ。

 生食のサラダ以外に、ソテーやジュース、ハンバーガーの具材にも使われる。日本では昭和後期から流通するようになったが、99%が輸入品。国内では沖縄や和歌山などでわずかに生産されているだけだという。

 下脇さんは「温暖な淡路なら栽培できるかも」と栽培を発案。2019年秋、九州から取り寄せた高さ50センチほどの苗を、時期をずらして5本植えた。その後も使われなくなったビニールハウスを借りて改修し、品種や本数を増やし続けた。

 初めて実がなったのは21年の秋。ベーコンという品種の木がわずか1個の実を付けた。味わうと「スーパーの物とは別。フレッシュなフルーツのよう」。

 手応えをつかみ、さらに夢中になった。根が浅く風に弱いため防風ネットで囲んだ。害虫対策で実には袋をかけた。インターネットの情報などを頼りに取り組んだ。本数も増やし、現在27品種250本を育てる。

 今秋、初めてまとまった数の実を収穫した。まずは20個ほど出荷する。従来、市販されているアボカドは1個120グラムほどだが、下脇さんのアボカドは300グラム近くあり、価格は1個2千円ほどを想定。違う品種で春にも収穫を見込む。

 下脇さんは「2年後に1トンの収穫を目指したい」といい「淡路島のアボカドを1本でも多く育てたい。農業衰退といわれる中、子どもたちの食の未来のためにできることを続けていく」と決意を込めた。

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