山内圭哉とクレイジーな福田転球が自由にできる場所、大阪に

ともに大阪出身で、関西小劇場界で演技と笑いのスキルを磨き、今はドラマから舞台まで多方面で活躍している俳優・山内圭哉と福田転球。2人が2002年から不定期に開催しているコント企画『2Cheat(つーちーと)』が11・12月、2年ぶりに大阪・東京で上演される。

左から『2Cheat』に出演する福田転球と山内圭哉(2023年10月・大阪市内)

山内曰く、福田の「アドリブの方がうまく演じられる」という特性を活かし、本企画は大部分を即興で演じるというスリリングな一期一会の笑いが魅力。一度見たらリピート必至なこの公演に向けて、山内と福田がときにゆるく、ときに熱く語ってくれた。

取材・文/吉永美和子

■ 「福田転球は、すごくクレイジーなアーティスト」(山内)

──お2人とは2019年に、13年ぶりの公演となった『2Cheat4』以来の取材です。あのときはだいぶ間が空いたのに対して、最近は隔年ペースで上演されてますね。

山内 「13年ぶりにやったときに『あ、そうか!』って思ったのが、今・・・特に東京では福田転球って、『真面目な芝居をする人』という認識になってるんですよ。このところ、そういうお芝居ばっかりやってはったから」

福田 「真面目なのを選んでいたわけじゃないけどね。なぜか声がかかることが増えてん」

山内圭哉(右)から「すごくクレイジーなアーティスト」と評された福田転球(2023年10月・大阪市内)

──前回お話をうかがったとき、「きっちり演劇のスキルを付けた状態でやるのが楽しみ」みたいなことをおっしゃってましたけど、やはり手応えが違いました?

山内 「全然それはなかった(一同笑)。だって演技スキルを使うようなことをやってないからね、内容として」

福田 「ひとつも変わってなかったです」

山内 「でも思ったより『転球さんって、こんなにおもしろい人だったんだ。知らなかった』という反応が多かったんですよ。だから僕らオールドファンとしては『いや、その認識はまちがってるぞ! 福田転球というのは、すごくクレイジーなアーティストだぞ!』と言っていかんとあかんなあ、もっとやっていこうという感じになりましたね」

──12月の東京公演の会場は、今年山内さんがオープンしたバー「ニュー・サンナイ」(東京都中野区)ですが、山内さんがお店を持ったというのに、まずビックリしました。

山内 「お店とか、全然やる気なかったんですよ。最初は稽古とか、内輪の飲みに使えるようなアトリエにできたらと思っていたんですけど、工事をしだしたらものすごくお金がかかってきて『これはお店にして(資金を)回収せんと無理や』ってなりました(笑)。今12月に間に合うよう、必死で芝居ができる仕様にしているところです」

福田 「席数ってどれぐらいやったっけ?」

山内 「60席ぐらいかな。だから東京は、もうほぼチケットはないです。大阪はまだ3分の1ぐらいしか売れてへんのに(笑)。東京だと1カ月ぐらいやってもお客さんは入るかもわからんけど、それは転球さんが死んでまうよね」

「すごくクレイジーなアーティスト」福田転球(2023年10月・大阪市内)

福田 「さすがに体力的にねえ(笑)」

山内 「でも(出演者)2人だけで、この時点でABCホールの5ステージの3分の1を売ってるのって、関西の興行で言うと割と健闘している方だと思うんですよ。当日までこれやったら、洒落にならへんけど」

福田 「僕らがこれからがんばらんとね」

山内 「でも『(客が)入らへんから、今後大阪公演はやめようか』ということは、2Cheatに関しては絶対ないと思うわ。だってこんなにふざけた舞台って、大阪の人が一番楽しめるやつやからね」

■ 「普通の舞台ではありえへん『自由にできる瞬間』」(福田)

──確かにお2人が、90年代の関西小劇場を彷彿とさせるはっちゃけた笑いを見せる場所は、多分今では2Cheatしかないので、大阪で観るたびにいろんな意味で「帰ってきたー!」という気分になります。

福田 「自由にふざけられるというのが、やっぱり楽しいですね。『自由にできる瞬間』っていうのは、普通の舞台ではありえへんことやから」

山内 「『笑かして』って言われることも、よそではあまりないしね。僕らが育った頃の関西小劇場って、お芝居のなかでお客さんを笑かすのを、必死マックスの演技でやるのがデフォルトだったけど、今はもうそういう芝居もなくなってきてる。だから2Cheatは、普段とはまったく違う仕事をしているぐらいに思ってます」

福田 「笑かそうというか、笑ってほしい。お客さんが笑ってるのがやっぱり好きだし、こっちもパワーが出るというか。そういう舞台って、やっぱりここ最近はあんまりやってないね」

2Cheat6のポスターより

──笑いに特化した集団とかプロデュースが、関西でも減ってきていますからね。あとここ最近、映像の世界はコンプライアンスが厳しくなったから、映像ではできないような行動やキャラクターが2Cheatならできる、という意図もあったりしますか?」

福田 「(作品を)作るときには、一切それを考えることはないかな。ただ配信のあるトークライブのときは、すごい気になります。『これ、言うたらあかんのちゃうかなあ?』と思って黙ってまう」

山内 「それって『この状況で、どうやって言いたいことを言うか』という技術を磨いていく場という認識で僕はやってるけど、この人ほんまに黙るんですよ。トークライブやのに(笑)。でも2Cheatをやるときって、どこまでコンプライアンスみたいなことを超えてふざけられるのか? というのを、ちょっと考えいった方がいいのかもしれないですね」

福田 「頭叩いたりするのも、今ってあかんのかな? (相手が)女の人やったらダメ?」

──吉本新喜劇はまだ叩いてるし、大丈夫じゃないでしょうか。関西はまだ、良くも悪くもポリコレとかルッキズムに関しては「まあまあ、この場は大目に見ようよ」みたいな感じが残っていると思いますし。

※ポリコレ(ポリティカル・コレクトネス):人種や性別、体型などの違いによる差別を含まない表現や用語を使用する対策
※ルッキズム: 外見で判断される差別や偏見のこと

「なんかよくわからんけどただただ笑ったという演目もないとあかん」と山内圭哉(2023年10月・大阪市内)

山内 「笑いにおいてそれを考え出すと、本当に矛盾してきますよね。笑いっていうのは常に、差別的な要素をはらんでるものやから、完ぺきには(ポリコレを)守れない。それによって、逆にやりたいことができなくなってしまうということが、起こってしまうかもしれないですし」

──自分から容姿とか不幸とかをネタにしている芸人さんは、むしろ身の置き場がなくなってしまいかねないから、難しいところですね。社会風刺にせよ笑いにせよ、リミッターを一瞬外せる場所というのは、死守してほしいという思いはあります。

山内 「そうそう。見たらすごく暗澹たる気持ちになって、考え込んでしまう演目もすごく大事やと思うし、なんかよくわからんけどただただ笑ったという演目も、同時にないとあかんと思うんです、世の中は」

「2Cheatは、そこ(笑い)をちょっとだけ担わせてもらってるという気持ちもあります。もしかしたら、そんな風に世の中がなんだか窮屈になってきたタイミングだったから、最近は隔年(開催)になってるというところは、ひょっとしたらあるのかもわかりません」

■ 「おもしろかった大阪は、おもしろくあってほしい」(山内)

お2人と同世代の私も50歳を超え、最近自分が持つ知識や技術などを、いかに次の世代に渡していくかを考えるようになりました。特に笑いを志す若い演劇人がなかなか現れないなかで、お2人もそういうことを考えたりしますか?

福田転球(左)と山内圭哉(2023年10月・大阪市内)

山内 「そもそも、若い子がうちには来いひん(一同笑)。すごいですよ、客席のおっさんおばはん率。えらいもんで、みんな一緒に年取ってるなあという感じです」

福田 「でも確かに若い子がひとりでも来てくれて『むちゃくちゃおもろいでー』って、みんなに言うてくれたらなあと思いますね」

山内 「今まであまり客層を広げるということを考えてこなかったけど、若い子に刺激を与えようと思ったら、やっぱり売り方を考えなあかんよね。学割を作るとか。そこまで考えが及んでなかったなあ」

「でも笑い云々言わんかったらね、東京は若い奴がなんぼでも出てくるんですよ。しかも動じずにお芝居がやれて、真摯に演技に向き合う子ばかりだから、こっちがなにかを渡そうという発想には、あまりならないんです。むしろ、たまに大阪に来たときに『おい、大阪! 大丈夫か?』って気持ちになる」

福田 「人はめっちゃ多いねんけど、勉強しに来いひんなって感じがする」

山内 「僕らが出てる芝居がこっちに来ても、誰も見に来ないんですよね。本当に停滞しているというか、停滞したまま廃れていくんじゃないか? というのを、すごく感じます」

──それはやっぱり、東京の演劇界にいながら大阪のスピリットがまったく薄れないお2人ほど、発破をかけるのにふさわしい人たちはいないと思いますよ。

「大阪に来たら『大阪大丈夫か?』って気持ちになる」と山内圭哉(右)と福田転球(2023年10月・大阪市内)

山内 「『がんばれ!』っていうか『おもしろかった所やから、おもしろくあってほしい』って思います」

福田 「演る人たちじゃなくて、制作する人が少ないんじゃないかな?」

山内 「僕らの持ってる大阪らしさ、大阪の文化みたいなものは、時代としてもう完全に過ぎていて、今は『ヨーロッパ企画』とかの、僕らの下の世代の劇団が『さあ、どれを選んでいきますか? どうやって遊んでいきますか?』と思っているんじゃないかと。だから今大阪に必要なのは、そういう子たちを見つけて、背中を押してあげるような人じゃないかと思います」

──プロデューサーであったり、メディアであったり。それは私たちにも突きつけられている問題ですね。

山内 「でも、この前『扇町ミュージアムキューブ』ができたし、来年はMBSの劇場(SkyシアターMBS)ができるでしょ? 新しいでかい劇場が増えてるのって、実は大阪ぐらいですよ。そこからなにかが生まれてくるんじゃないかと思うし、2Cheatもなにかお手伝いができたらいいなと思うから、大阪でやる機会を増やしていくことを考えたいです」

──笑いつつも、大阪の未来をちらりと考えるような公演になるかもしれないですね。ちなみに大阪に帰ってきたときに、密かに楽しみにしていることってありますか?

山内 「『都そば」を久しぶりに食べたりとか、滞在が長いときは散歩ですね。「あ、この店まだ残ってるわ」とか、そういうのが楽しいです。あとは関西ローカルテレビは見ちゃいますよね。『せやねん!』とか『よ~いドン!』とか『まだこんなことやってんねんや」って、ホッとします」

福田 「逆に『メンバー変わったやん!』とかね。僕は実家が交野の方なんですけど、今までは帰ってきたときに、新大阪から一旦大阪に行って、環状線で京橋までいって、学研都市線に乗って・・・って感じだったんですけど、直通で放出まで行けるようになりました」

──ああ、今年から「おおさか東線」が開通しましたから。

福田 「あの乗り換えが、いつも楽しみで(笑)。永和駅もそのまま行けるじゃないですか? それがありがたいんですよ。僕、東大阪の友だちが多いから・・・」

山内 「そんなん知らんがな!(一同笑)」


『2Cheat6』大阪公演は11月30日〜12月3日に「ABCホール」(大阪市福島区)にて。チケットは、前売5500円、当日6000円で発売中。

『2Cheat6』

日程:2023年11月30日(木)〜12月3日(日)
会場:ABCホール(大阪市福島区福島1-1-30)
料金:前売5500円、当日6000円
電話:0570-550-100

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