<レスリング>【2023年全日本大学選手権・特集】西日本二部リーグの選手が決勝へ進出、「全日本選手権でも決勝に出たい」…92kg級・吉田奨健(帝塚山大)

東日本の壁に挑む西日本という構図が定着している学生レスリング界。今夏の全日本学生選手権では、九州共立大の選手が2階級を制して頑張りをアピールしたが、今大会は92kg級で西日本の選手が決勝に進み、意地を見せた。

敗れて銀メダルに終わったものの、92kg級決勝のマットに立ったのは西日本学生リーグ戦では二部リーグに所属する帝塚山大3年の吉田奨健。西日本の選手が決勝に進むのは2017年125kg級の山口直人(徳山大)が2位に入って以来で、帝塚山大にとって初めて。二部リーグのチームにとっても、大会史上初の快挙となる。

▲92kg級で2位に入賞し、西日本の意地を見せた吉田奨健

吉田は「8月のインカレ(全日本学生選手権)は1回戦で国士舘大の1年生に負けて悔しい思いをした。10月の西日本学生選手権で優勝でき(2連覇)、この大会は絶対にメダル…、金メダルを取るんだ」という気持ちでやってきました」と振り返る。最低限度の結果を出せて表情は悪くないが、負けたことは「悔しさは残ります」と言う。

決勝の相手の三浦哲史(拓大)は2年前に1年生でインカレ王者になった選手。2017年全国中学生選手権でも闘っており、敗れていた相手だ(三浦が優勝)。「技がうまくて、簡単に崩されてしまった」と話し、現時点では実力差はあったことは認めた。

ただ、前半は場外ポイントの1点だけに押さえていたのに(チャレンジ失敗で計2点)、後半ばててしまって8点を取られたことは悔やまれる。インカレでも、スタミナが続かずに敗れていたそうで、スタミナ養成をこれからの課題として挙げた。

▲微妙だった場外ポイント(青が吉田)。第2ピリオドは実力差を見せつけられた

初戦でグレコローマン学生二冠王者を破る!

1回戦の相手が、グレコローマン82kg級で学生二冠王者の玉岡颯斗(早大)だった。「ここを勝たなければ、自分のこれからの道はない」と気が引き締まったそうだ。自身もグレコローマンの西日本学生王者。グレコローマンでの試合ではないが、学生の二冠王者を破ったことで気持ちが乗ったことは確かだ。

試合中は、セコンドのアドバイスやチームメートの応援がはっきり聞こえたそうで、「チームと一体になれたことが大きかったと思います」と、2位躍進の要因を話した。

岐阜・岐南工高時代はJOCジュニアオリンピック・カデット3位が最高で、高校の全国大会はベスト8が最高。帝塚山大に進んでも、最初から実績を残す選手ではなかったが、昨年の西日本学生選手権を制したことで一皮むけ、昨年のこの大会でも3位に入賞した。

「チームでしっかりと話し合って練習方法を決め、一丸となって練習できていることが大きかったと思います」と、チーム力の向上が自分の成績につながっていると分析する。同チームには、京都・廣学館高で指導していた鈴木貫太郎監督(日体大卒=1981年全日本選手権2位など)が4年前からコーチとして参加。崩しなど全日本トップレベルの技術を指導してもらい、それによる実力アップも口にした。

▲第1ピリオドは互角に闘えた決勝。スタミナ要請が課題だ

西日本の二部リーグのチームの選手ということで、相手が自信をもって挑んでくる雰囲気は感じるが、「技術的にも劣っているのは確かですから…」と、やむをえないことと受け止めている。それゆえ、チーム一丸となってリーグ戦へ臨んで一部リーグへ昇格し、強豪に肩を並べられる実力と実績づくりを口にした。

コロナ禍でスタートした鈴木貫太郎コーチ、ひとまずの成果を出した

鈴木コーチは「決勝以外は、自分の構えや崩しがしっかりできていた」ことを躍進の要因として挙げた。大学二冠王者・玉岡との初戦は「バランスに気をつけろ」とアドバイスし、体を崩されないことを注意させたと言う。

高校時代の無名選手をここまで育てたことについて、「精神面を含めて、ひとつひとつ、しっかり指導してきました。最初は反発もありましたが(笑)、最近はよく練習するようになってきました」と、一歩一歩進めてきたことを振り返る。

同コーチはコロナ禍直前に石山直樹監督からの依頼を受け、2020年4月にコーチ就任。直後にコロナ禍に襲われ、大学が閉鎖されて練習が満足にできない状況からの指導スタートだった。それでも、選手のことはいつも気にかけていて、帰省している選手にリモートで指導し、連絡を密にしていた。「ビデオに映っているときだけの練習だったかもしれませんが…」と笑いながら、大学2位になる選手を育てたことに満足そう。

▲5月の西日本学生春季リーグ戦で二部2位の帝塚山大。秋季リーグは優勝(一部昇格)が目標

強豪チームと違って優秀な高校選手を多く集められるわけではない。いろんなレベルの選手を同時に育てていくのは「難しい」と言う。それでも、「今回の2位で全選手が自信を持ち、全員で上を目指したい」と話した。

2015年の有元伸悟(近大=61kg級)以来の西日本大学選手の優勝はならなかったが、吉田にとっては4年生になる来年の大きな目標ができた。学生の王者どころか、「全日本選手権の決勝にも出たい」という気持ちも口にし、向上心は十分。「帝塚山大の歴史をつくった?」との問いに、やや照れながら「名誉なことです。これを自信に変えてもっと頑張りたい」と話した。

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