混雑してても“中ほどまで進まない”人は「共感性」欠けている? 電車乗降時の“迷惑行為” 多くの人がやってしまうワケ

ドア付近が混雑する一方、“中ほど”がすいていることは珍しくない(bee / PIXTA)

「中ほどまでお進みください」

鉄道会社のアナウンスもむなしく、扉付近に固まっている乗客たちの分厚い壁に阻まれ「イラッ」としたことがある人は多いのではないだろうか。

日本民営鉄道協会が公表した「2022年度 駅と電車内の迷惑行為ランキング」によれば、乗降時のマナーにおける迷惑行為としてもっとも回答数が多かったのは「扉付近から動かない(乗降を妨げる、奥に詰めない等)」(58.7%)。2位の「降りる人を待たずに乗り込む」(19.7%)を大きく引き離し、ぶっちぎりの1位となっている。

あきらかに邪魔になっているのに、頑として“中ほどまで進まない”人たちは、一体どういうつもりなのだろうか――。

「他人への共感性」が欠如?

社会心理学を専門とする菅原健介教授(聖心女子大学)は、「スマホに集中してまわりが見えなくなっていることや、下手に動いてスマホの作業(ゲームやメッセージのやりとりなど)を中断したくないといった気持ちもあると思いますが…」と前置きした上で、以下のように分析する。

「他人への共感性が働きづらくなっているのかなと思います。ようは相手を察したり、少し大げさに言えば、自分がどのように行動すれば相手の利益になるかを考えられていないということです。

そもそも『他人どうしの群れ』である電車内では、別にまわりの人に利益を与えなくてもいいわけです。しかし集団行動の中では、誰もが必然的に何らかの迷惑をかけあっています。だからこそ、互いに配慮し合う雰囲気を作ることで、最終的には各自が利益を得ているのではないでしょうか」

たびたび話題になるような「電車内でのトラブルメーカー」のように、人格的な問題が疑われるケースもなくはないだろう。その上で、菅原教授は共感性の働きづらさについて「多様化の一方で昔よりも『他人の目』を気にしなくなっていたり、SNSによって人間関係の持ち方が変わってきているといった時代背景も影響しているのかなと考えられます」と指摘した。

見習うべきは「DJポリス」?

人々が“中ほどまで進まない”問題を解消するには「電車内で“コミュニティ感覚”を持てるような工夫が必要」と菅原教授は話す。

「その好事例としてあげられるのは『DJポリス』です。

かつて警察官は、大勢の人が詰めかけるようなイベントでは厳しく取り締まるのが普通でした。しかし、たとえばワールドカップで日本代表が勝利したとき、渋谷のスクランブル交差点にいるDJポリスは『おめでとうございます、私もうれしいです』といったひと言を挟んでから、通行ルールを守るよう呼びかけています。これはまさに、その場にひとつのコミュニティを作り出すことで、他人どうしが配慮し合う雰囲気を作る“仕掛け”だと言えます」

この好事例を電車内でどのように応用するか、その答えはまだ出ていないが、菅原教授は「いずれにしろ、電車の中の雰囲気をなるべく和やかにするという視点は、やはり大事だと思います」と言う。

渋谷のハロウィンでもDJポリスが活躍(2022年撮影/弁護士JP編集部)

“中ほどまで進まない”人との付き合い方

通勤ラッシュのような混雑する電車内では、気持ちに余裕がない人も多く、トラブルが発生しやすい。“中ほどまで進まない”人のほか、足を組んだり伸ばしたりしたまま座っている人や、リュックサックを背中に背負ったままの人など、マナーの悪い人が目の前に現れた場合、どうすればよいのだろうか。

「『すみません』『通ります』などひと言かけることが重要です。それによって、“コミュニティ”とまでは言わなくとも、一瞬そこに人間関係ができあがるので、トラブルを避けることにつながります。間違っても、無言で押しのけたり、足を蹴ったりしてはいけません。

これらは、とても当たり前のように聞こえるかもしれません。しかし、人間は自分をコントロールできるリソース(心的資源度)が決まっていて、それを越えると“誰しも”過激な行動に出る可能性があります。

気持ちに余裕がない状態だったり、マナーの悪い人を見て不愉快な気分でいたりすると、無意識に語気や行動が荒くなってしまって、普段なら簡単に出るはずのひと言が出にくくなるということも考えられるので、注意が必要です。

前述のように、集団行動の中では誰もが必然的に迷惑をかけあっているからこそ、互いの配慮によって最終的に各自が利益を得ています。周囲への配慮も、結局は自分のためと考えると、うまくいくのではないでしょうか」(菅原教授)

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