「この世界に心温まる空間や瞬間を増やしていきたい」環境問題に取り組む双子の姉妹のストーリー

世界的に若者を中心に関心が高まっている環境問題。日本も例外ではなく、SDGsに関連した取り組みを行う子ども・若者世代は少なくない。まさに、気候変動の影響を受ける当事者世代として、様々な活動が行われている。そんな中、学生時代から環境問題に対する取り組みを始め、現在は一般社団法人Hidamariとして各地の学校で環境学習の講師を務めたり、インドネシアの森林再生を現地パートナーと行ったりしている双子の姉妹がいる。彼女たちの活動とその思いに迫る。

村田美穂さん・里穂さんは2000年生まれの23歳。いまは一緒に一般社団法人で活動しているが、環境問題に関心を持ったのは別々のきっかけだった。

―――美穂さん
「小さい頃から社会問題に関心が強い子どもでした。小学校3年生の時でした。マザーテレサの伝記を読んだんです。そもそもまだこの時代に、生まれた場所が少し違うだけで人生が大きく変わるということがある、つまり貧困問題が存在していることに衝撃を受けました。そしてわたしも、マザーテレサのように大人になったら誰かの命を救ったり笑顔を増やしたりしたいなと思ったんです。それがきっかけだったと思います。高校卒業後に、英語が苦手ながらもカナダの大学に進学するために、カナダの語学学校に行きました。そこで、英語を学ぶトピックとして“気候変動”を知ったんです。」

―――里穂さん
「高校卒業後にイギリスに進学しました。すぐに、環境問題について多くの方が日常的に会話をしていることに驚きました。当初は、そんなに深刻なのかなあと懐疑的に思っていたのですが、入国して2週間くらいの頃、たまたまYouTubeで見た環境活動家のグレタさんと科学者の対談動画に衝撃を受けました。毎日200種もの生物が環境問題によって絶滅しているという現実。目が覚めた思いでした。それから、自分で環境問題について調べ始め、自分にできることは何でもやろうと思うようになりました。」

海外へ飛び出したことで、世界の人々の環境問題への高い問題意識に触れ、衝撃を受けた二人。そこから、異国で学生生活を送るという簡単ではない環境の中で、自分たちができることをやろうと行動に出る。

カナダ留学中の美穂さん

―――美穂さん
「カナダで、日本ではあまり知られていない「地球の今」と「自分たちの生活との繋がり」を知ったものの、当時はどうしたらいいか分からずいました。そして大学進学のためにバンクーバーに引っ越してすぐのある日、ふと「地球や自分たちの生活との繋がりについて話せる人をここに呼びたい」と思ったんです。その人は当時のわたしの頭の中には1人しかいなくて。カナダに行く前の高校卒業後すぐにたまたま講演を聞いて生き方やあり方に感動した、アフリカやアジアで事業をしたり日本で講演活動をしたりしている方(特定非営利活動法人NGO GOODEARTH代表)です。普段は日本で講演をされているのに、当時のわたしはとにかくその方をバンクーバーに呼びたいと思ったんです。なんとか場所を借りて、異国でまったく知り合いがいない中で人を集めて、本当に呼んじゃいました。それで、「ああ、やろうと決めて動いたらこんなわたしでもできるんだ」と思ったんです。本当に貴重な経験をさせてもらいました。それから、蜜蝋ラップを作るワークショップや、環境問題に関する絵本の読み聞かせなどをしていました。」

―――里穂さん
「まずは気候変動をなんとかしなければという思いに突き動かされました。大学で気候マーチというイベントを実施するなど、気候変動についての啓発イベントをよく開催していました。一方で、気候変動といっても分野は広いので、私は具体的にどの分野に興味があるんだろうかとずっと悩んでいました。」

そんな二人にとって転機となったのは新型コロナウイルスの感染拡大だったという。美穂さんはカナダから帰国を、里穂さんはイギリスに残ることを選択した。

イギリス留学中の里穂さん

―――美穂さん
「ある時、環境問題に関心のある人々の繋がりで、オンラインで気候変動について話す機会をいただきました。実はわたしは人前で話すことは苦手で、コロナにより日本帰国後も何度か話す機会をいただいたのですが、「話すのは自分の役割ではないな」と思っていました。だけどあるイベントで、自分の伝えたいことが聞いてくれている人の頭ではなく心に伝わったとはっきり感じた体験をしたんです。その瞬間から、「もっと講演を本格的にやってみたいかも」と思うようになり、2021年5月に「ハッピーにエコる環境講座」と題して講演活動をスタートさせました。この「ハピエコ」という言葉は、「モノや事象の背景にある物語を知って、その上で心の声を聴いて自分がハッピーな選択をしよう」という意味を含ませた造語です。心の声を大切にして自ら選択することで、それが幸せに繋がる、そんな人を増やしていきたいという願いも込められています。全国各地の学校や自治体の環境教育、企業研修、イベント等に呼んでいただき、約2年間半で150回ほど開催しました。」

学校でのハピエコ講座

―――里穂さん
「しばらく自分の1番やりたいことは何なのかと悩んでいましたが、2022年3月にアイスランドを訪れた頃が転機になりました。アイスランドは氷河が有名なのですが、私は氷河ではなく、アイスランドの森に心惹かれました。なんて綺麗なんだろうと。そして、心にふっと「森を守りたい」という考えが浮かんだんです。それは強い思いでした。」

「イギリスに戻り、森林破壊について調べ始めました。最も被害が深刻なのはアマゾンです。その次がインドネシア。まずは自分の目で状況を確かめたいと考え、比較的行きやすいインドネシアに向かいました。インドネシアの森林破壊の最大の要因はパーム油の栽培です。パーム油は、ほとんどの加工食品や洗剤などに使われている植物油です。たくさん使われすぎで、栽培する場所がなくなってしまい、森林をなくしてパーム油のプランテーションに変えてしまっているのです。高速道を3時間走っていたのですが、ずっとパーム油のプランテーションが続いていました。これが全部もともと森林だったと聞いて言葉を失いました。」

インドネシアのスタディーツアーの一コマ

「次に、パーム油の農家の話を聞きました。非常に貧困状態にあり、その日の暮らしも大変で、時には森や畑などにいるネズミや猫、ヘビなどを捕まえて食べることもあるという話でした。どうやってこの大きな問題を解決しようか、でもこの問題を少しでも解決できるのなら人生を賭けてもいいと思いました。
調べていくと、森林農法という森林を再生しながら農業を行う手法に出会いました。そこで、インドネシアで森林農法を実践している団体に、学ばせてくださいと片っ端から連絡を取り、唯一受け入れてくださったRSFという団体のもとに2022年12月に伺いました。そこで、私たちはほとんど言語も通じないのに意気投合。「対等なビジネスパートナーとしてやっていこう」と仰っていただき、現在事業パートナーとして共に活動しています。次回は3月に開催予定です。さらに、森林農法で採れたインドネシアのスパイスを原料として使っている、飲めば飲むほどインドネシアの森が再生するクラフトコーラの開発も行っており、来年1〜2月頃に日本で販売スタート予定です。」

日本国内とインドネシア。異なる場所で違った歩みを始めた二人だったが、里穂さんがイギリスの大学を卒業して帰国した2023年6月に一般社団法人Hidamariとして共に活動するようになる。二人で話すうちに、互いの手段は違うものの、目指している世界は一緒であると気づいたという。そこで、もともと美穂さんが設立していた一般社団法人を改称した。

―――美穂さん
「一般社団法人の名前には、この世界に心温まる空間や瞬間を増やしていきたいという思いを込めました。環境教育に加えて自分らしく生きるためには、という要素を含めていきたいと思っています。環境問題や社会問題は、もとを辿れば、ひとの心に行き着きます。だから今は、環境問題という「課題」を伝えることにフォーカスするのではなく、自分にとっての幸せを考えるなど「心」にアプローチしています。」

―――里穂さん
「森と人と動物。すべての命が調和して生きることができる。そんなふうになることが理想です。そうして、みんなの「自分ごと」の境界線を広げていきたいと思います。友達や親や恋人みたいに森も大切にしてくれる人が増えたらいいなと思います。」

最近、兵庫県姫路市に移住した二人は、居場所事業の展開も準備している。人々にとっての、学校や家や職場以外の居場所、「ただいま」と思える場所を目指しているという。環境活動とは、究極のところ、みんなが暮らしやすい居場所を作る活動なのかも知れない。そう思わされた二人のストーリーだった。

谷村一成

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