美術館巡りは県美が軸 青森県内美術館の来館状況、人流データで分析

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 2020年から活動をスタートした青森県内五つの公立美術施設による「青森アートミュージアム5館連携協議会」。コロナ禍が落ち着き人流が戻り始めた今年、5館の来館者の状況を各館の人流データを基に東奥日報社が分析した。2カ所以上来館した組み合わせでは県立美術館(青森市)と八戸市美術館の割合が最も高かった。周遊者をさらに増やそうと5館は来春、初となる合同の展覧会を開催する。

 5館は県美、青森市の青森公立大学国際芸術センター青森(ACAC)、十和田市現代美術館、弘前れんが倉庫美術館、八戸市美術館。同協議会はスタート時、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けながらも、共通サイトやファッション雑誌などで情報発信してきた。

 データ分析には、携帯電話大手KDDIなどが提供する人流分析ツール「KLA」を利用。今年1~8月末の間に各館を訪れた人の数を推計した。最も長い開館時間に合わせて午前9時~午後7時までのデータを取得した。対象は国内に居住する20代以上となっており、10代以下と訪日外国人客は含まれない。

 データによると、今年1~8月末時点の5館の来館者数を合わせた累計来館者数の推計は約22万人だった。このうち、2館以上を訪れた延べ人数は約2万3千人で「県美と八戸市美術館」の組み合わせが24.9%と一番高く、「県美と弘前れんが倉庫美術館」が24%、「県美と十和田市現美」が18.2%と続く。

 3館は「県美と十和田市現美と弘前れんが倉庫美術館」が6.4%で最も高く、全5館を訪れた人も2.5%いた。

 旅行に関する情報を扱う昭文社「ことりっぷ」を担当する大川朝子サブマネージャー(八戸市出身)は「県美と十和田市現美は知名度が高く、もはやブランド。その二つにまず訪れたいという人が多い」と指摘。その上で周遊者の増加を狙うには「青森県はアート巡りが魅力の一つであり、大きな可能性を秘めている。美術館を目的地として県内の良質な温泉や深々とした緑の魅力などに触れ合う機会を提供すれば、リピーターになってまた青森巡りをしてもらえると思う」と話した。

 来年4~9月、5館はそれぞれの特長を生かした合同の展覧会「AOMORI GOKANアートフェス2024-つらなりのはらっぱ-」を開催する。写真家・映画監督の蜷川実花氏の展覧会(弘前れんが倉庫美術館)、自然と人間の関係を見つめる「野良になる」(十和田市現美)などを予定。県美の杉本康雄館長は「例えば1日に2館回るなどして、青森に複数回来てもらいたい。県内の人も、アートがきっかけで文化交流してもらえたらうれしい」と張り切っている。

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KLA(KDDI Location Analyzer)のデータ KDDI・技研インターナショナルが提供。auスマートフォン契約者のうち、利用許諾を得た衛星利用測位システム(GPS)位置情報を基に、調査エリア内の滞在人口などを拡大推計する。集計に当たっては、個人を特定できない処理を行っている。

▼周遊まだ1割 初の5館合同展に期待

 今回の人流データによると、2カ所以上を訪ねる組み合わせでは県立美術館(青森市)が中心になる傾向がある。同館の杉本康雄館長は「今までは『こうあってほしい』という願望で進めてきたが、イメージがデータに表れて喜ばしい思い」と笑顔を見せた。5館の人流データを目にしたのは今回が初めてだという。

 調査時点で5館のうち複数来館した人は全体の約1割だったことに対し、受け止め方は各人各様だった。杉本館長は「5館連携を始めて3年で1割にもなっていることに驚いている」、ACACスタッフの大久保寛樹さんは「予想通りの数字」、八戸市美術館の佐藤慎也館長は「低いと感じる」と話した。

 来年4月から行われる合同展覧会「AOMORI GOKANアートフェス2024-つらなりのはらっぱ-」について、十和田市現代美術館の鷲田めるろ館長は「同時期にいろんな場所で見るものがあると、遠方から来る人たちの心理的ハードルを下げられる」と集客を見込む。弘前れんが倉庫美術館の三上雅通館長は「煉瓦(れんが)倉庫が市民の注目を浴びるきっかけとなった約20年前の奈良美智展のように、今回の展覧会で県内を周遊する地元の人を増やしたい」と意気込んだ。

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