連載コラム【MLBマニアへの道】第11回:投手の大型契約に潜む故障リスク 昨オフの1億ドル投手は3人とも長期離脱

写真:大型契約1年目のデグロムは6月にTJ手術を受けた

11月19日(日本時間20日)、FAとなっていた注目選手アーロン・ノラが7年1億7200万ドルでフィリーズと再契約した。今オフのFA市場は例年より野手の大物が少ない一方で、投手は豊作。ノラがこれほどの大型契約を得たことは、ノラと同等以上の契約を得ると見込まれる山本由伸やブレイク・スネルの契約に対する一つの基準になるだろう。

投手への大型契約は非常に高いリスクを伴う。2019年オフに投手史上最高額の9年3億2400万ドルでヤンキースへ加入したゲリット・コールは移籍後毎年ハイレベルな投球を見せ今季ついにサイ・ヤング賞に輝いた。一方で、同じく2019年オフにナショナルズと7年2億4500万ドルというコールに次ぐ投手史上2番目に高額な契約を結んだスティーブン・ストラスバーグは、ここまでの4シーズンでわずか8試合の登板に終わり、重度の神経障害のため引退という報道も流れている(引退の公式発表はされていない)。

野手でも前十字靭帯断裂のようなプレー中の大けがでシーズン全休になる選手はいるが、投手は勤続疲労のような形でダメージが蓄積していくことが多く、肘や肩を故障すれば1シーズンでは済まない長期離脱に至る。そのため野手に比べて投手の方が契約年数や総額が抑えられる傾向にあるが、近年は投手の相場も全体的に高騰しており、昨年はついにエドウィン・ディアスがリリーフとして史上初となる1億ドル超えの契約を手にした。

昨オフのFA市場ではそのディアス含め3人の投手が1億ドル以上の契約に合意したが、3人とも大きな故障に見舞われた。

ジェイコブ・デグロムはレンジャーズに5年1億8500万ドルで加入。直近2シーズン合計で156.1回しか投げていなかった故障がちの34歳にはあまりにもリスクの高い契約だったが、それだけレンジャーズの本気度がうかがえた。しかしそのリスクは顕在化してしまい、加入後わずか6試合を投げたのちにトミー・ジョン手術を受けることになった。デグロムは大型契約最初の2シーズンのほとんどを故障者リスト入りで過ごすことになる。

カルロス・ロドンは6年1億6200万ドルでヤンキースに移籍したが、こちらも不本意な1年目となった。腕の故障により開幕を故障者リスト入りで迎え、その後背中の痛みにも悩まされた。6月になってようやく新天地デビューを果たしたが、8月にはハムストリングを痛め再び故障者リスト入り。登板時の投球内容も前年までと似ても似つかず、キャリアワースト級の防御率6.85という数字に終わった。

ディアスに関しては不運もあった。FAとなって早々に5年1億200万ドルで再契約に合意し、MLB最高の年俸総額を誇るメッツの絶対的守護神として開幕を迎えるはずだった。しかし3月に行われたWBCでプエルトリコ代表としてプレーする中、勝利後の歓喜の輪で右ひざの膝蓋腱を断裂する重傷を負い、シーズン全休となった。

米情報サイト『MLB Trade Rumors』によると、今オフはノラの他に山本、スネル、ジョーダン・モンゴメリー、ジョシュ・ヘイダーの4人の投手が1億ドル以上の契約を得ると予想されている。どの球団が彼らを獲得するのかは楽しみだが、その契約が怪我なく全うされ、球団と選手双方にとって良いものになることを願いたい。

文=Felix

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