【今月のSPOTLIGHT】Vol.1 クリス・エヴァンス

クセ者キャラを喜々として演じる

クリス・エヴァンスといえば、キャプテン・アメリカ。キャプテン・アメリカといえば、「アベンジャーズ」シリーズで活躍してきた正義感あふれる“正統派ヒーロー!”ではあるのだが、Netflixで配信中の映画「ペイン・ハスラーズ」でクリスが演じているピート・ブレナーはヒーローからは程遠いくせ者キャラで、キャプテン・アメリカの清廉潔白なイメージを求めるとがく然とさせられてしまうかもしれない。

「ファンタスティック・ビースト」シリーズのデヴィッド・イェーツが監督を務める「ペイン・ハスラーズ」は、金儲け主義が横行する製薬業界を舞台にした物語。販売員の職を得て業界の一員になったシングルマザーのライザ(エミリー・ブラント)が、やがて不正な金儲けの陰謀にどっぷり浸かっていくさまがシニカルに、スリリングに描かれている。そのライザを業界へ導いたのが何を隠そう、クリス演じるやり手販売員のピート・ブレナー! ピートは目的のためなら手段を選ばず、勢いでグイグイ攻めるタイプで、そのグイグイぶりは法を犯すレベル。そんなピートと行動や目標を共にするうち、ライザは善悪の境界線について考えるようになるが、“時すでに遅し”といったところで…。

ザ・営業マンなピートはやり手な分だけクズで、キャプテン・アメリカに絶対怒られるやつ。けれど、クリス自身はピートのダークな面も喜々として演じており、なんだか幸せそう…。そもそも、キャプテン・アメリカ中やキャプテン・アメリカ後の彼は、ヒーローの対極にある役柄を好みがちで、「ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密」(2019年)ではイヌにも嫌われるクズ男に(クリス自身は超愛犬家!)。ライアン・ゴズリング共演の「グレイマン」(22年)では、サイコな敵キャラをやはり楽しそうに怪演している。また、自身のブロードウェイ・デビュー作となった「ロビー・ヒーロー(原題)」で演じていたのも、いわゆる悪役。差別主義の横暴な警官に扮(ふん)し、役者としては高い評価を受けたものの、嫌われ者の宿命よろしく冷た~い視線を観客席から浴びせられていた。

何もそこまで…という気も若干するものの、キャプテン・アメリカほどのキャラクターを演じた経歴を持つと、それくらい徹底した方がバランスは取れるのかも? 実際、クリス・エヴァンスがキャプテン・アメリカのイメージをいい形で、面白い作品たちとともに、徐々に脱却しつつあるのは確か。そういった意味でも「ペイン・ハスラーズ」は、ぜひおすすめしたい1作となっている。

【プロフィール】

クリス・エヴァンス(Chris Evans)
1981年6月13日生まれ。米・マサチューセッツ州出身。「ファンタスティック・フォー[超能力ユニット]」(2005年)のヒューマン・トーチ役で人気スターに。11年、「キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー」のキャプテン・アメリカ役に抜てきされ、「アベンジャーズ」(12年)、「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」(14年)、「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」(16年)、「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」(18年)などでも同役を演じる。そのほかの出演作に、「gifted/ギフテッド」(17年)、「ジェイコブを守るため」(20年)、「ゴーステッド Ghosted」(23年)などがある。

【番組情報】

映画「ペイン・ハスラーズ」
Netflixで独占配信中

文/渡邉ひかる

© 株式会社東京ニュース通信社