本気を出したJR東日本 鉄道業界の打ち出の小づち「DX」!? 「鉄道技術展2023」のブースに見た鉄道の未来【コラム】

JR東日本本体のブースが初めてお目見え。「HYBARI」や「ALFA-X」の紹介の他にも、本気を感じさせる展示が多数用意されていました(写真:鉄道チャンネル編集部)

2023年11月8~11日に千葉市美浜区の幕張メッセで開かれた第8回「鉄道技術展」のコラム続報です。今回は同時開催の第5回「橋梁・トンネル技術展」もあわせて618社・団体が出展、3万4878人が来場しました。

会場のブースは百花りょう乱。トランスや保線機材のような機器類だけを展示する出展者があれば、スマホのアプリを実演するブースもありと、いい意味での鉄道業界の広がりを感じさせました。会場内を一巡して気付いた点を、メモ風にまとめました。

ニッチな業界に新風吹き込む新参企業

会場で感じたのは、「何でもあり状態」の鉄道業界です。直前に開催された、「JAPAN MOBILITY SHOW(ジャパンモビリティショー)」(10月26日~11月5日。東京ビッグサイト)と比較します。モビリティーショーは475社・団体が出展、約111万2000人が来場しました。

会期が長く、一般対象のモビリティーショーの来場者がはるかに多いのは当然として(鉄道技術展は業界オンリー)、注目したいのは出展者数です。鉄道技術展は、モビリティーショーより約150社も多い参加企業がそれぞれの技術を発信しました。

自動車はメーカー大手7社を頂点に、系列の部品メーカーなどがピラミッドを形成します。鉄道もそうした産業構造は基本的に変わらないのですが、現在は自動運転や省メンテナンスに代表される鉄道DX(デジタルトランスフォーメーション)の真っ最中。

業界が直面する安全・安心や生産性向上、環境対策、バリーフリーといった待ったなしの課題を解決するには、デジタルや通信技術が不可欠。〝餅は餅屋〟のたとえではありませんが、名門でもスタートアップ(ベンチャー)でも、専門企業の力を借りる場面が増えて、異業種の新規参入を促します。

これまでの鉄道界は、一般産業界から隔離された「ニッチな業界」(伊勢勝巳JR東日本代表取締役副社長)でした。しかし、「100年の一度のモビリティ革命」は、閉ざされた鉄道業界の扉を開けようとしています。

JR東日本が自社技術を発信

私が今回、最大のトピックスと感じたのはJR東日本の初出展です。従来はグループ企業レベルだった技術展に、初めてJR東日本本体ブースがお目見えしました。「えっ、JR東日本って技術展に出ていなかったの?」と、疑問を持つ方もいらっしゃるでしょう。

日本最大の鉄道会社・JR東日本は鉄道技術のユーザーです。モビリティーショーに例えれば、商用車メーカーが技術展の出展者。ビッグサイトに展示されるバスやトラックで、運輸業を営むのが鉄道会社の図式です。

しかし、JR東日本はICカード乗車券のSuica、水素ハイブリッド電車「FV991系(HYBARI)」と、多くの技術を開発します。新しい技術の多くは自社仕様ですが、他の鉄道会社や一般産業界に広がれば、業界全体の進化に貢献できます。

伊勢副社長もセミナーで、「積極的に他社との協業に取り組む」考えを表明しました。

駅回収のペットボトルで吸音材

JR東日本が自社ブースで発信したのは、JR東日本環境アクセスやJR東日本ビルテックといったグループ企業も含めて約60件の技術。「駅案内AI」や「駅回収のペットボトルを活用した『えきPET吸音材』」などは、鉄道を離れても「◎(二重丸)」でしょう。

ブースで聞けば、本社イノベーション戦略本部が中心になって出展メニューをコーディネートしたとか。私は、「ついに本気を出したJR東日本」と内心でつぶやきました。

JRグループでは、JR西日本、JR四国、JR九州も出展。技術展での〝一般公開〟は、開発担当者にとっても励みになるはずです。

DXで踏切事故を防止

次なるキーワードは「鉄道DX」。自動運転も、スマートメンテナンスも、顔認証もベースの技術は「DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。

振り返れば、数年前の鉄道業界は何でもかんでも「MaaS」。私は「MaaSバブル」とも思っていたのですが、その点今は「DXバブル」かも。それはともかく、会場で発見した新技術をピックアップします。

鉄道系商社・ヤシマキザイのブースに出展したのが、東京に本社を置くコシダテックという商社。戦前の1930年設立の名門ですが、専門は自動車。自社開発した「踏切内AI滞留検知システム」で初参戦しました。

関東鉄道(関鉄)、ヤシマキザイ、NTTコミュニケーションズ(NTTコム)の3社とともに開発。踏切全体を見渡せる位置にはん用ネットワークカメラを取り付け、撮影画像は次世代通信規格の5Gネットワークで鉄道会社の指令などに高速伝送します。

NTTドコモの携帯電話網を活用することで、初期投資を抑えられるのがメリット。2023年9月1日から、関鉄常総線守谷ー新守谷間の海老原踏切でフィールド検証中です。

ドイツ資本の2社が競演

海外勢では、ヨーロッパの鉄道王国・ドイツのブレーキメーカーの日本法人、クノールブレムゼ鉄道システムジャパンの大型ブースが目を引きました。

売り込みに力を入れるのが「ウルトラディスクホイール・エコ」。鉄道車両用ディスクブレーキで、空気抵抗によるエネルギーロスを最小化する高速車両用のブレーキです。

もう1社のドイツ勢が、前回に続いて出展した「KONUX(コヌックス)」。得意分野は分岐器(ポイント)DXで、ポイント不転換の予兆を見付けだします。ポイントの向きを変える、モーターに流れる電流を状態(常態)監視すれば不調をつかめるそう。鉄道の安全・安心に国境なし。成果を待ちましょう。

次回は2025年秋に開催

ほかにも多くのブースを取材させていただきましたが、すべてを紹介できなかったことをお詫びいたします。

今回の鉄道技術展は全般には盛況でしたが、来場者数は過去最高だった2019年の第6回に届きませんでした。理由の多くは、海外勢の出展・来場見合わせです。

鉄道技術展は、初回から世界最大の鉄道見本市、ドイツ・ベルリンの「イノトランス」を強く意識。隔年に開かれるイノトランスの裏年に継続してきた歴史があります。

次回の鉄道技術展は、2025年11月開催がアナウンスされます。技術展が世界の鉄道界の針路を示す国際イベントになることを願って、本コラムを終えたいと思います。

記事:上里夏生

【写真】注目ブースのご紹介

一部出展企業は屋外作業を公開。日本信号はロボット機能を備えた「多機能鉄道重機」を実演しました(筆者撮影)
コーポレートカラーの赤を基調にしたJR九州ブース。ボードを一列に並べたシンプルな構成で、多くの来場者を集めました(筆者撮影)
初開催の「地方鉄道応援プロジェクト」。日本民営鉄道協会と第三セクター鉄道等協議会が協力して道南いさりび鉄道、岳南鉄道、肥薩おれんじ鉄道など30社が出展。鉄道グッズなどを販売しました(筆者撮影)
乗換案内が2023年に30周年を迎えたジョルダンは、30年前と現在の路線を比較するクイズ大会などで会場を盛り上げました(筆者撮影)

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