枯死のイチイ 千手観音として新たな命/彫刻家・竹村さん制作

完成した千手観音像を見る菅原代表(右)と竹村さん
制作作業に励む竹村さん
手を広げた観音が彫られた裏面

 青森県黒石市豊岡にアトリエを構える彫刻家で日展会友の竹村松博さん(73)=青森市=が、枯死した高さ3メートルのイチイの古木に千手観音像を彫った。秋田県横手市の造園業者の依頼を受け約2カ月かけ制作したもので、竹村さんは「アクシデントもあったが、これまでの経験が生かされた。木に新しい命を宿すことができ、やりがいがあった」と振り返った。

 竹村さんは旧平賀町(現平川市)出身で、20年以上前から黒石市で制作活動を行っている。今回依頼したのは北日本菅与の菅原勝利代表取締役(60)。輸出する予定だった樹齢約150年のイチイが枯れてしまったことから、「人間の何倍も生きられる木の命を奪ってしまった。どうすれば木に新しい命を吹き込めるか」(菅原代表)と考え、仏像を彫ることにたどりつき、知り合いのつてで、竹村さんに依頼することになった。

 イチイから伸びる無数の枝を見た時、後光が差しているようだと感じた竹村さんは「枝を切らずに生かし、千手観音にしよう」と菅原代表に提案。丸太にするのではなく、根も枝も生かしたいと思っていた菅原代表も快諾した。

 制作は8月に開始。大きい木だったため、室内に入れることができず、初めて屋外での活動に。猛暑の中、汗を垂らしながら没頭。途中、幹の中が空洞になっているなどのアクシデントもあったが、補修しながら作業を進めた。「これが自分に与えられた仕事。何としてでも形にする」との使命感を胸に、手を休めることなく10月に作業を終えた。ともに高さ1.1メートルの合掌しているものと、手を広げているものの二つの観音像を表と裏に彫り、「一位二面千手観音」と名付けた。

 完成品を見た菅原代表は「何とも言えない穏やかな表情。竹村さんの人柄が表れている。頼んでよかった」と満足。来春の大型連休前に魂入れを行った後、菅原代表が経営する横手市内のそば店に設置する予定。菅原代表は「世の中いろいろある中で、少しでもぬくもりを与えたい。(そば店に隣接する)植木畑を散歩する人が手を合わせてくれれば」、竹村さんは「どんなことがあっても楽しかった。見る人の心が安らかになってほしい」と話した。

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