「集団で被害女性の口をふさぎ…」北朝鮮”鬼畜事件”の最悪な幕切れ

日本は他国に比べて性暴力が少ないという統計がある。国連薬物・犯罪事務所(UNODC)の資料によると、2019年の10万人あたりの性暴力発見件数は5.0件で、米国の43.5件、韓国の45.9件、ドイツの48.8件、フランスの84.8件、イギリスの265.6件(2018年)と比べると桁違いに少ない。

ただ、この資料を引用しているこども家庭庁の報告書は、次のとおり但し書きを付けている。

UN-CTS(UNODCの犯罪情勢等に関する調査)で用いられている各犯罪の定義と各国における各犯罪の定義とは必ずしも一致しないため、各国がUN-CTSの犯罪の定義とは異なる定義により集計した数値を回答し、UN-CTSの統計数値として公表されることがあり得ること、各国における統計の取り方や精度は必ずしも同一ではないこと、限られた犯罪の発生件数等から各国の犯罪動向を即断することはできないことなど、留意すべき点がある。

性犯罪の集計基準が異なるため、一概に比較できないということだ。また、日本は社会的に性犯罪被害を訴えづらい空気があるため、沈黙する被害者が少なからず存在しているとも指摘されている。

その点では北朝鮮も同じだ。

国際的人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)の調査に応じた、脱北した女性教師は、北朝鮮における女性の地位の低さを嘆く一方で、性暴力の被害女性についてはこんなことを言い放った。

「レイプされたのは、女が愛嬌を振りまいていたからだ」

最近、江原道(カンウォンド)の元山(ウォンサン)で起きた性暴力事件では、加害者が社会的に断罪されたものの、被害者も辛い立場に追い込まれている。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

加害者は、市内の一般的な職場に通う30代男性だ。月給があまりにも少ないため、自転車に人を乗せて運び手間賃をもらって生活費を稼いでいた。客となった一人の女性と付き合うようになり、今年7月に婚約し、来月には結婚式を控えていた。しかし、破談となった。

情報筋は詳細を次のように説明した。

「その日(先月22日)、男性は婚約者の家に一人でいたが、遊びに来た婚約者の従姉妹を強姦し、誰にも話すな、話が広がればタダではおかないと脅迫した。しかし、彼女はその日のうちに姉にすべてを打ち明けて、男性が強姦したという話が広がった」

当然のことながら、婚約者は激怒し、両親の眼の前で、町内全域に聞こえるほどの大声で男性を罵倒し、家から追い出そうとした。男性は抵抗したのか、もみ合いとなり、町内の人々が集まって両者を引き離す騒ぎとなった。

怒りが収まらない婚約者は、男性の職場にも乗り込んで、従姉妹がどんな目に遭わされたかを洗いざらいぶちまけた。男性は周りの人から「人間のクズ」だと激しく非難され、もはや外を出歩けないほどになった。

実はこの男性、学生時代から不良だと言われ、軍に入ったものの、生活除隊(不名誉除隊)の処分を受けた。詳細は不明だが、何らかの不祥事を起こしたのだろう。

さらに婚約者は、地域の分駐所(交番)にも駆け込み、男性を告発しようとしたものの、安全員(警察官)からこうたしなめられたという。

「なぜ事を静かに済ませられないのか。噂を立てて従姉妹をはずかしめるのか」

波風を立てない方がいいという安全員のアドバイスだが、「こんなことだから同じような目に遭った女性たちは被害を隠そうとするばかりで、性犯罪者は堂々と町を闊歩している」と情報筋は嘆いた。しかし、町内の人々の中にも「被害者の落ち度」に言及する向きがあり、被害者は周囲から寄ってたかって口をふさがれている状況と見られる。

北朝鮮の治安機関は、体制を守ることが主目的で、国民の生命と安全は二の次だ。個人的な被害より、社会的に波紋を起こし、人々を不安にさせることの方を問題視するのだ。また、そもそも、性犯罪に関する教育が行われていないため、被害に遭った女性が被害であることに気づかないケースもある。

かくして、北朝鮮の女性は沈黙を強いられるのだが、果たしてそれは北朝鮮に限った問題だろうか。

© デイリーNKジャパン