塚原あゆ子監督、鈴木亮平が南雲“先生”から“監督”に「本当の意味で『先に生きていく』人になっていきます」――「下剋上球児」インタビュー

TBS系では連続ドラマ「下剋上球児」が放送中。鈴木亮平さんが「日曜劇場」枠で約2年ぶり2度目の主演を務め、高校野球を通して、現代社会の教育や地域、家族が抱える問題やさまざまな愛を描くドリームヒューマンエンターテインメントです。

本作で演出を務めるのは、「石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー」「最愛」「MIU404」「アンナチュラル」「グランメンゾン東京」など、数々のヒット作品を放ってきた塚原あゆ子監督。ここでは、そんな塚原さんに、南雲脩司を演じる鈴木さんの現場での様子や、球児たちとのコミュニケーションについて語っていただきました。

――鈴木さんの現場での様子を教えてください。

「学校の先生ではなくなったので、南雲と球児たちの関係がより近くなり、鈴木さんも球児たちも現場での関係が変化しました。今では先生と呼ばず監督と呼んでいます。学校の部活は先生が見てくださることが多いですが、実はとても大変なことで、仕事と言っていいのだろうかと思うほどの時間を必要とします。それを当たり前に強いるべきではないと私は思っています。そこから外れた南雲だからこそ、野球というスポーツを通じてより親密に、より人間として、本当の意味で『先に生きていく』人になっていきます。鈴木さんはまさに、その変化をうまく演じていらっしゃいます」

――特にどういった部分でそう感じられますか?

「敬語の使い方、プライベートにどう踏み込むか、そういう台本の土俵の上に、監督とプレーヤーの関係があって。それを丁寧に、徐々に変化させていくことを背中で見せていっています」

――SNSでも野球のプレーシーンが泣けるという声が多く見られます。

「現場ではカメラが回っていないところでも、先生と球児の関係が出来上がっています。撮影の途中から参加となる新1年生たちは、まだ温まっていない関係性の中で、仲間としてプレーをしなければなりませんでした。そんな時に鈴木さんがあいさつを促してくれたり、なじみきれていない人の名前を呼んで、ノックをしてくださっていました。彼らも鈴木さんとの共演に緊張していたと思いますが、今ではすっかり知った顔の監督に。そういった現場裏での部活らしい積み重ねが画面にあふれています」

犬塚翔&根室知廣のライバル関係は、お芝居バトルとしても見どころに!

――オーディションで球児役を12人に絞るのは難しかったと思いますが、どういった基準で選ばれたのでしょうか?

「まずは野球ができることが第一条件でした。高校野球は硬球を使うので、大けがになりかねない危険なスポーツです。撮影ではたくさん投げるだけでなく、走ったり打ったりしなければいけないので、苦手な方にとっては負担になるだろうなと思い、運動神経も含めてお任せできそうな方にお願いすることになりました」

――運動神経のほかに基準にしたことはありますか?

「オーディションの時はいつもそうなのですが、上手にセリフを言えるかよりも、相手がしゃべっている時のリアクションが自然に出てくる人にお願いするようにしています。セリフを交互に言うのが基本と考えている方が多くて、意外と自然なリアクションができる方は少ないんですよね。矯正するのは難しいことなので、選考ではそこに着目することが多いです」

――撮影で成長していっている方はいらっしゃいますか?

「みんな素晴らしく、それぞれの良さを伸ばしていっています。投手の犬塚翔(中沢元紀)と根室知廣(兵頭巧海)はこれからライバル関係も描かれていきます。繊細な表情が得意な根室と、身体ごと表現に使ってくる翔のお芝居バトルは見どころになっていくと思います」

――選ばれた球児たちに共通することはありますか?

「野球の強豪校にいた方が多いので、野球の話をすると別人のように輝きます。『あのシーンのセリフさ〜』って言うと恐縮するのに、『ピッチャーからキャッチャーに返球する時の話なんだけど』と話しかけると、グイグイ前に来てくれます。本当に越山高校野球部にぴったりな12人がそろいました」

――その12人からは外れてしまった方々も続々と出演が決まっています。落選してしまった方でも再度起用を決めた理由はありますか?

「オーディションの過程で、こういう役だったら…という可能性が見えることが大きいです。出会いは積み重ねなので、一度お会いしたことが次のキャスティングの時にプロデューサーたちと話すきっかけになります。私たちも毎回勝負作だと思って作っているので、キャスティングはいつもすごく悩みますし、彼らの人生のことでもあるので、その時のベストを頑張って探しています」

――現場のお芝居が台本に影響することはあるのですか?

「たくさんあります。例えば椿谷真倫くん(伊藤あさひ)は野球が実はとても上手です。彼にお会いしたからこそ、成長していく2018年のキャプテン像が出来上がりました。伊藤あさひさんは根室役の兵頭さんともともと仲が良いのかな? ルックスの感じも奇麗できちんとしているのですが、どんどん球児の上に立つ意識で表情が変わっていっています」

――野球のうまさを考慮せずに選ばれた方もいるのでしょうか?

「日沖壮磨は奇跡的に小林虎之介さんと出会えたのでキャッチャー設定で生かせました。でも、もし小林さんがキャッチャーでなかったとしても、ぜひ菅生新樹さんとやってもらいたかった。芝居の感じが近いし、きっとかわいらしい兄弟になると直感しました」

――野球経験がある球児たちと話をして作ったシーンもあると伺いました。

「特に第6話はみんなと相談しながら作りました。『なんで二塁になるのか分からない!』『それでなぜアウトになるの?』と都度聞いてみると、『素人でも分かるやり方はこうですかね?』と提案してくれるんです」

――そういった球児たちの話から新たに生まれたシーンはありますか?

「どうやら素人には分からない野球部ならではのエモさがあるみたいで、球児たちが『椿谷がサードの時は、ショートが若干深めに守ってやるのが愛情なんです!』と語っていたことがあります。それを聞いて、ベンチの南雲から椿谷をフォローするような陣形指示のシーンを入れました。野球好きの方には分かってもらえる小ネタや、台本にはない野球用語を球児たちがあうんの呼吸で使ってくれているので、ぜひ細かい部分もチェックしてみてください」

「“たかが部活”が忘れられない人生の一部になるのは、ご家族や地域の方にとっても同じ」

――今後、最終話に向けてどんなキャラクターの登場が期待できますか?

「先生たちの努力のかいあって、次年度の新入部員はうまい選手が入ってきます。その中には強豪校崩れのスラッガー・中世古僚太(柳谷参助)などがいます。己の道を行く侍タイプ。有言実行で『甲子園に行く』が口癖の彼がどんな台風の目になるのかもお楽しみください。そんな彼らのおかげで越山高校野球部の打席が回り出します。球児たちが地道に努力したことと、先生たちが頑張って新人を獲得してきたことで部が立ち上がっていきます」

――原案によると、野球部の活躍で街全体が盛り上がっていたようなのですが、本作でもそういった要素も描かれるのでしょうか?

「卒業した部員たちが、その後どのように地域に根ざしながら野球部を応援していったのか。また、甲子園が球児たちだけの夢ではなく、だんだんと大人の夢にもなっていく様子も描きます。球児たちは高校野球で勝つために全力で青春を懸けますが、卒業後も野球を続ける人は多くありません。“たかが部活”というセリフがありましたが、その“たかが部活”が忘れられない人生の一部になるのは、ご家族や地域の方にとっても同じなんです」

――皆さんいいキャラクターなので、卒業してしまうのが寂しいですね…。

「そうですね。ちなみに、卒業生もいろいろなところに就職して頑張っていきますよ。彼らの就職先は、(脚本の)奥寺佐渡子さんが実際にご本人たちにお会いした時のインスピレーションを元に設定を作っています。それぞれのスキルを生かして就職していくので、その意外性も含めて楽しんでいただければと思います」

【プロフィール】

塚原あゆ子(つかはら あゆこ)
TBSスパークル所属。プロデューサー、ディレクター。主な担当作に「石子と羽男−そんなコトで訴えます?−」「最愛」「着飾る恋には理由があって」「MIU404」「アンナチュラル」、日曜劇場「グランメゾン東京」「グッド・ワイフ」ほか多数。2018年「コーヒーが冷めないうちに」で映画監督デビューし、23年公開の「わたしの幸せな結婚」の監督も務めた。

【番組情報】

「下剋上球児」
TBS系
日曜 午後9:00〜9:54

文/TBS担当 松村有咲

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