戦後の闇市で体を売って生きる女と戦災孤児の交流描く『ほかげ』公開記念舞台挨拶に趣里、塚尾桜雅、河野宏紀、森山未來、塚本晋也監督が登壇

『ほかげ』公開記念舞台挨拶

NHK連続テレビ小説『ブギウギ』でヒロインを演じる趣里を主演に迎えた塚本晋也監督の最新作、映画『ほかげ』がユーロスペースほか全国にて上映中。11月25日(土)の公開初日に、キャスト陣と監督による公開記念舞台挨拶を実施した。

民衆の目線で戦争を描き、戦争に近づく現代の世相に問う

主演は、現在放送中のNHK連続テレビ小説『ブギウギ』でヒロインを演じている趣里。片腕が動かない謎の男を森山未來が演じる。そして、焼け跡の残る戦後の闇市で体を売って生きている女と交流を深めていく戦争孤児を塚尾桜雅、復員した若い兵士役に、PFFグランプリ受賞作品『J005311』の監督でもある河野宏紀。そして、映画監督、俳優としても活躍する利重剛、大森立嗣が脇を固める。

本作は第80回ヴェネチア国際映画祭で日本人初のNETPAC賞(最優秀アジア映賞)を受賞し、先月開催された第61回ウィーン国際映画祭ではStandard Readers’Jury Awardに輝いたほか、第48回トロント国際映画祭センターピース部門出品、第36回東京国際映画祭ガラ・セレクションでの上映等、国内外から熱い視線を集めている。

「戦争が残したものに苦しめられながら、それでも生きていく」

現在放送中の連続テレビ小説「ブギウギ」で主演を務めている趣里が本作の舞台挨拶に登壇するのは本日が初めて。「こうして皆さんにまた久しぶりに会えてうれしい。映画が完成したんだなと実感しました」と笑顔を見せると、塚本監督も「趣里さんと皆でようやく一緒に舞台挨拶ができて光栄です」と再会を喜んだ。本作の主人公と「ブギウギ」のヒロイン・鈴子、同じ時代を生きた女を演じたことについては「一見すごく対照的な役に見えますが、戦争というものが残したものに苦しめられながら、それでも生きていくんだという一本の筋は一緒だなと思います」と共通点を語った。

役作りについて尋ねられた森山は、「とにかく塚本監督といろいろとお話をさせてもらいました。深い闇や傷を持っているけれども、生きるということに対する貪欲さやある種の健やかさというか、“生”をちゃんと掴んでいく真っすぐさを意識しました」と振り返った。

復員兵を演じるにあたり、ダイエットをして撮影に挑んだという河野は、「とにかく自分の精神に余裕を持たせないようにしようと、なるべく幸せみたいなものを感じないように生活をしていました。どこまでいっても当事者にはなれないんですけど、敬意をもって演じないといけないと思っていたので、復員兵が抱える心の傷について専門家に直接お話を聞いたり、ショッキングな映像を見せてもらったり、やれることは全部して撮影に臨みました」と念入りに準備したことを明かした。

「民衆が“そういう場”に行かないで済むように、という祈りを込めて」

撮影時の思い出を尋ねられた塚尾は、「みんなでアイスを食べたり、駅の名前だけでしりとりをして遊びました」と述懐。塚本監督は、「コンクリートの道の上に土を敷いて撮影した後に、スタッフやキャスト皆で土を掃いていたのですが、森山さんの動きがすごくて!」と振り返り、「iPhoneで皆が掃除する様子を撮っていたのですが、遠くから砂埃を立てて何かが迫って来るんです。よく見ると、ほうきを持った森山さんだったんです! 僕が“ダンスみたいですね”と言ったら、“やっぱり無心でやるのがいいんだな”と仰っていました。Blu-rayとかの特典映像に是非入れたいです」と、森山の身体性の素晴らしさを垣間見たエピソードを語った。

趣里は、「ある日の撮影の合間に尋常じゃないほどの叫び声が聞こえてきて、え!? と思ったら、河野くんの肩にカミキリムシが止まっていて。こんなに物静かな河野くんが見たこともない顔と声で、すごかったよね」と塚尾と共にビックリした出来事を話すと、河野は「自分でも聞いたことがないような声が出ました……」と恥ずかしげに語った。

また最後に趣里は、「スタッフさん一人ひとりがものすごい力をくださって、すごく私のエネルギーになりました。そして、憧れの塚本映画に出演できて本当にうれしく思っています。監督のメッセージ、祈りが一人でも多くの皆さんに届きますように願っています」と思いの丈を吐露。そして、塚本監督は「“新しい戦前”という言葉もあるように不安な世の中になっていますが、なんとか自分たち、民衆の者たちがそういう場に行かないで済むようにという祈りを込めて、体感して実感できるような祈りを込めて作りました。その祈りを俳優さんたちがとにかく全身で表現してくれたのが一番の見どころです」とアピールし、舞台挨拶を終えた。

『ほかげ』はユーロスペースほか全国順次公開中

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